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[コラム] 湾岸協力会議の通貨統合

2006年12月15日 13:44更新 mailメール

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出展:三菱UFJリサーチ&コンサルティングホームページ(http://www.murc.jp/index.php)「国際通貨研究所 国際金融トピックスNo.128/国際通貨研究所 開発経済調査部 上席研究員 糠谷 英輝 2006年12月15日付」より


 湾岸協力会議(GCC:Gulf Cooperation Council)加盟国(サウジアラビア、クウェート、アラブ首長国連邦、バーレーン、カタール、オマーンの6カ国)では長年に亘り経済統合へ向けた動きが進められており、最近ではその最終段階として、ユーロ圏のように単一通貨の導入による通貨統合が議論に上っている。

 GCC経済統合は1981年11月11日に加盟各国間で調印された統一経済協定(UEA:Unified Economic Agreement)によって始まり、UEAが統合に関しての法的基盤となっている。UEAは1983年3月に発効し、これを受けて同年11月には経済統合の第一段階である自由貿易地域(Free Trade Area)が成立した。自由貿易地域は域内関税をゼロとし、数量制限を撤廃して域内貿易を自由化するものである。しかしGCC加盟国間で経済発展段階や経済政策が異なっていたため、関税撤廃義務の免除が認められ、域内ゼロ関税化は実現しなかった。

 その後、80年代後半から90年代にかけては湾岸戦争の影響などで統合へ向けての動きは鈍化したが、90年代半ば以降から次なる統合段階である関税同盟(Customs Union)へ向けての本格的な動きが開始された。関税同盟は2003年初に成立し、域外共通関税(5%)が設定されたが、ここでも一部例外品目が設けられた。また関税同盟は2005年末までが移行期間とされたが、移行手続きの遅れから2007年末までに延長された。

 今後の統合計画としては、2007年末までに資本、労働力の移動などを自由化する共同市場(Common Market)を実現させ、さらに2010年初には単一通貨を導入するユーロ圏のような通貨統合を達成する計画である。

 通貨統合が実現した場合、人口34百万人、経済規模で4,200億ドル程度の単一通貨圏が誕生することになるが、経済規模で日本の1割弱、ASEANの半分程度と小規模なものに留まる。

 単一通貨導入に向けての経済収斂基準についても加盟国間で暫定合意がなされている。現在までのところ、(1)財政赤字は各国GDPの3%以内、(2)債務残高は同60%以内、(3)8外貨準備高は輸入額の4カ月以上、(4)預金金利は最も低い3カ国の平均プラス2%以内、(5)インフレ率は加盟6カ国の加重平均プラス2%以内、とされている。2005年時点でGCC諸国は財政赤字、債務残高、預金金利は収斂基準をほぼ達成している。外貨準備高は4カ国が収斂基準を満たしていないが、エネルギー輸出国として豊富な資金を抱えるGCC諸国では大きな問題とはならないであろう。インフレ率は3カ国が収斂基準未達であるが、後述するようにインフレ抑制のための効果的な金融政策を実施出来ない状況にあることから、収斂基準の中ではインフレ率の達成がもっとも問題となるものとみられる。

 GCC諸国はEUに比べて加盟国数が少なく、各国ともにエネルギー生産国であるという経済の同質性から通貨統合も比較的円滑に実現できるだろうとの楽観的な指摘も見られるが、実現に向けての課題は決して少なくない。

 通貨統合を達成するためには強い政治的意思が求められる。これまでの経済統合の過程(自由貿易地域や関税同盟)においてすら前述の通り完全な統合とはなっておらず、さらに高次元の通貨統合達成に向けた加盟各国の政治的意思がどの程度のものかについては不透明感は拭えない。その根本にはGCC諸国の通貨統合にはどのような経済効果=メリットがあり、GCC諸国は通貨統合に何を求めているのかが明確となっていない点が指摘されよう。一般的な通貨統合の効果としては貿易・投資の拡大、産業の多角化、為替コストの削減などが期待できる。しかし一部加盟国では観光業や金融業の育成を進め、経済構造の多様化が目指されているが、全般的に石油産業以外の、特に製造業の育成は進んでいない。したがってこうした通貨統合効果も限られるものと考えられる。これまでの経済統合の過程においても域内貿易を拡大させる貿易創造効果、域外からの輸入が域内からに変換する貿易転換効果、域内産業の生産性が上昇する競争促進効果などを享受出来ていないとの分析もある。また現在でもGCC諸国は全て米ドルペッグ制を採用しており、通貨安定という観点から敢えて通貨統合を実現する必要があるのかとの疑問も呈されている。

 一方、米ドルペッグ制については、最近ではユーロ建ての貿易額も増加傾向にあり、米ドル以外の通貨との為替変動リスクも注視せねばならない状況に変わりつつあること、米ドルペッグ制のためにGCC諸国の金融政策は米国に追随せざるを得ず、カタール、アラブ首長国連邦、バーレーンでは高水準のインフレ率に対応する適切な金融政策を実施出来ずにいることなど、その弊害も大きくなってきている。通貨統合を達成することで、地域として金融政策の自由度を広げることは加盟各国において期待されるポイントであろう。

 他方で単一通貨を導入した場合にどのような為替制度を採用するかは意見の集約が未だなされていない。通貨統合を主導してきたアラブ首長国連邦のスウェディ中央銀行総裁は当初2年間は米ドルにペッグさせ、その後3年かけて変動幅を徐々に拡大する管理変動相場制に移行し、2015年には完全な変動相場制を実現するシナリオを表明しているが、一方では通貨バスケット制を導入すべしとの主張もある。

 また金融政策を担う統一中央銀行の構造や権限、独立性などについても未だ踏み込んだ議論はなされていない。さらに統一中央銀行の所在地も決定していない。GCC諸国にはバーレーン・フィナンシャル・ハーバー、ドバイ国際金融センター、カタール金融センターと複数の金融センターがあり、最近では域内最大国のサウジアラビアもアブドゥラ国王金融地区と名付けた金融地区を建設し、金融業を育成していく方針を示している。統一中央銀行の所在地を決定するに当たっては、各国の利害が錯綜する事態も予測されよう。

 このようにGCC諸国の通貨統合はタイムスケジュールは示されたものの、統合に至る詳細は全てこれからの決定事項に委ねられており、実現に向けての課題は多く、加盟各国の統合に向けての政治的意思が試されていると言うことができよう。

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