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[コラム] 変貌する日本の金融業界

2006年12月26日 09:50更新 mailメール

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出展:日本総合研究所ホームページ(http://www.jri.co.jp/)「プロフェッショナルの洞察 (株)日本総合研究所 理事 毛利 俊夫 グローバル化時代を勝ち抜くための金融サービスVol.1」より


金融サービスの構造と変化しつつある事業環境

 産業構造を説明するひとつの考えとして、東京大学の藤本隆宏氏が説くビジネス・アーキテクチャ(ビジネスのやり方)と競争の2つの軸で説明する方法がある。

 金融サービスをこの2つの軸でみると、金融システムという世界共通のビジネス・アーキテクチャを使いながら、市場は国内のルールに守られ、国内で競争を展開するといった閉鎖的ビジネス形態であると考えることができる。これを国や地方公共団体の行政サービスや自動車産業と比較すると、行政サービスには基本的に競争原理がなく、ビジネス・アーキテクチャ(行政サービスの提供方法)は行政としての独自のものなので、競争もない。一方、自動車産業は、競争原理に関しては自由競争で開放的だが、製品そのものやその開発、生産の方法などビジネス・アーキテクチャは各社独自のもので、閉鎖的な特性を持っている。



 日本が得意とする分野は、自動車産業に代表されるような、競争はオープンだがビジネス・アーキテクチャは各社が独自の方法をとる「モノづくり」の分野だ。モノづくりの領域では、自動車の例を見るまでもなく、提供されるサービスの変化はゆっくりである。自動車は誕生して100年あまり経つのに、基本的な構造に大きな変化はなく、快適性と安全性と環境性能が多少改善された程度である。こういった、基本的な構造をもとに改良を加え、製品を進化させるタイプの産業では無類の強さを発揮する日本だが、金融システムやソフトウエア開発など変化の早い業界では、世界の先頭に立つことができないのが現状だ。

 大半の金融サービスは、世界共通のビジネス・アーキテクチャを使いながら、どこの国でも国内の比較的閉鎖的な市場で展開しているビジネスだ。わが国でも、ほとんどの金融機関にとって、また法人や行政を含む金融サービス利用者にとって、金融の「グローバルサービス」は、あまり縁のない世界であった。
 しかし一部の世界的な金融機関では、サービスのグローバル化を積極的に推進する動きがある。金融サービスのグローバル化とは、世界の主要な金融市場において、各業界のリーディングカンパニーをはじめとする大手企業の資金需要にきめ細かく対応しつつ、同時に世界規模で最も有利な条件で資金調達を行う能力を持つことを意味する。グローバルに展開し、それぞれの国・地域では地域特性に適合してローカルに行動する、いわゆる「グローカル」ということばが、こういった金融機関には当てはまるのではないだろうか。このような能力を持つ金融機関は現在のところ世界中でもごくわずかだが、わが国の金融機関が内外の世界的企業と取引を行う場合には、強力な競合相手となろう。


わが国金融業界の変化

 わが国金融業界は、以下のような大規模な再編劇の第一幕が終わったばかりであり、これからの第二幕では、第一幕以上に多様な変化劇を見ることができる。

 かつて、わが国の金利体系は「四畳半金利」という言葉で表わされるように非常に狭い金利幅のなかで、さまざまな政策金利を精緻に組み立てていた。金融業界の構造も、同様にわずかな目的の違いにより業態を分けていたが、各業態の目的を設定した時とは背景とする経済環境がまったく変わってしまい、結果として時代の要請に合わない業態は淘汰・再編されることとなった。
 長期信用銀行法にもとづく長信銀、あるいは信託銀行がその典型であり、また十数行あった都市銀行がいまや4グループにまで減少したことの背景には、大企業に対する金融サービスのあり方が大きく変わったという時代背景があるのだ。

 世界規模で展開する企業が金融機関に求めるものとして、特に資金調達面でのグローバルな対応が挙げられる。こういった視野で金融サービスを展開できる金融機関のポイントは、世界の主要市場における現地の専門家の獲得である。日本の金融機関が世界で立ち遅れている原因のひとつは、現地でホワイトカラーのプロフェッショナルをうまく育て、使いこなすことが不得手な点にある。日本企業は自動車産業など現地のブルーカラーを使いこなすのは得意だが、ローカルなホワイトカラーの力に頼る金融サービスのような分野では意外に弱点を持っている。
 調達コストの点でも金融機関同士の競合にとどまらず、資金需要者による直接金融との「競合」についても対応していく必要がある。このためには、資金だけを提供するメインバンクから、知恵も提供するファーストコールバンクへの脱却も選択肢の一つと考えられる。一方、運用面でもわが国金融戦略は、グローバル化に大きく遅れていると言わざるを得ない。巨大な運用資金を持つ機関投資家のニーズにグローバルなベースで対応できるわが国金融機関は存在しないと言っても良い。
 小泉前首相が全力を挙げて推進した郵政事業改革も同様の環境変化として理解することができる。いかなる大企業よりも大きく、無限に近い資金需要組織である政府(財投)への資金供給者としての郵貯の役割は終焉を迎えつつあるのである。証券業界も銀行と同様に、準大手証券の統合が急速にすすむとともに、大手4社のうち独立して残っているのは野村證券だけとなってしまった。さらにインターネット証券の出現により個人の株取引の世界では伝統的証券会社はまったくその競争力を失ってしまったといっても過言ではない。

 さて、第二幕における主役は地方銀行であろう。近年の道州制の議論は、道州制の是非ではなく、どのように、またいつという議論にかわり、もはや導入の流れは変わらないといってよい。
 このような背景の下で、都道府県の指定金融機関として地域経済に大きな影響力を持った地方銀行、および相互銀行から普銀転換した第二地銀、さらには信金・信組は、道州制という大きな土俵においてどのように生き残るかを模索している。その第一歩が九州地域をはじめとした地銀・第二地銀間の県境を超えた合併の動きである。合併によって地域密着という地方銀行の強みを活かしながらスケールメリットを追及して、都市銀行の進出に備えようとするものである。すなわち、道州制の導入を控え、今後数年間のうちに地方銀行の数が激減しても決しておかしくはない状況になるであろう。

 一方で、合理化による店舗網の縮小などによって個人や小規模企業に対するサービス水準、とくに店舗を通じたサービス水準が大きく低下している。こういった状況下、流通業が決済専門銀行を設立して自社グループ内の小売店舗内にATMを設置する動きが見られる他、米国でみるような、バックオフィス部門をアウトソーシングしてコストを削減し、特定の顧客やサービスに特化したブティック型の小銀行が誕生する可能性もありうる。金融業界の再編劇第二幕は今まさに幕をあげようとしているのである。

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毛利俊夫 Mori Toshio
日本総合研究所 理事/クレジット・スコアリング研究所長
日本大学大学院客員教授(法学研究科)
財団法人 岐阜県産業経済振興センター 理事長(非常勤)

1968年慶応義塾大学経済学部卒業。1969年ミシガン州立大学経営学修士課程修了(MBA)。1970年野村総合研究所入社。経営計画研究部、国際研究部で主任研究員を務めた後、1982年SRIインターナショナル(スタンフォード研究所)のプリンシパルコンサルタント、サービス・インダストリーズ・コンサルティング部長を務める。1990年日本総合研究所に入社して理事。経営戦略研究部長、研究事業本部担当を経て2002年よりクレジット・スコアリング研究所長。プロジェクト実績に「韓国金融機関の研究所設立に関する戦略策定」「都市銀行における大企業取引推進体制のあり方に関するコンサルテーション」「航空会社クレジット・カード戦略」など。著書に『シンクタンクビジネス』(共著)。
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