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[コラム] ピークオイルと石油の未来 −ハバート曲線から−

2007年01月11日 08:55更新 

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出展:みずほ情報総研ホームページ(http://www.mizuho-ir.co.jp/)「コラム/みずほ情報総研(株) 環境・資源エネルギー部 山本 晃司 2007年1月9日付」より


 「ピークオイル」という言葉がさまざまな場面で取り上げられるようになってきた。その基礎となっているのは、1960年代にシェル米国社の地質学者ハバート(M. King Hubbert)が提唱したハバート曲線であるが、「ピークオイル」という言葉のみが先行してその概念がよく理解されているとは言えない。そこで、「ピークオイル」がどんな意味を持つのか整理したいと思う。

 ハバートは、石油の生産がロジスティック関数に従うと考えた。これは人口学や生態学から生まれた概念で、たとえば餌を入れた密閉容器の中にショウジョウバエを放した時の個体数の変化を示す関数である。はじめのうちは空間も餌も十分あるので、ハエの数は指数関数的に増えるが、徐々に環境は悪化し餌を得る確率も下がるので増加率が鈍り、あるとき減少に転じる。その後、減少率は低下するが徐々に個体数は釣鐘型のカーブを描きゼロに近づいていく。それがピークに達するのは、誕生したハエの総数の半分が生まれた時となる。

 これを石油に当てはめれば、生産が進むに従って油田の発見確率は下がり、採掘コストも増加して、生産が頭打ちになる。そして、技術的・経済的に採掘可能な資源総量(究極可採埋蔵量)の半分を生産したときに、生産量が「ピークオイル」に達するというのである。

 このアイディアは定性的にはもっともらしいが、発表当時厳しい批判に晒された。ハバートはこれを米国内の石油生産量について考えたのだが、1971年にそれはハバートの予想通りにピークを迎えて減少に転じた。ハバートはそれをさらに世界全体に当てはめて、ピークを2000年頃と予想した。その後、1998年になってキャンベル(C.J.Campbell)とラフレール(J.H.Laherrere)はScientific American誌に発表した論文で再びハバートを取り上げ、ピークを2004年と発表した(現在は2008年頃とされている)。

 ハバート曲線を世界の石油生産量に当てはめることに対する批判の中心は、利用可能な資源の総量に関するものである。究極可採埋蔵量の推定値は様々あるが、概ね2兆バレルから3兆バレルの範囲であり、過去の生産動向は高めの数字を支持しているようである。これは、EOR(増進石油回収)技術で回収率の向上(取りこぼしを減らす)ことができるようになったこと、過去に困難だと思われていた大水深海域の資源やオイルサンドのような重質油の生産が実用化していることなどの技術的貢献が大きい。

 もう一つの批判は主にエコノミストからのもので、石油生産量を決めるのは総資源量ではなくて、その時々の需要と供給の関係であり、需要に対して供給が不足すれば新たな投資と技術開発で供給が増加するのだからピークは有り得ないというものである。

 前者の批判については、確かに究極可採埋蔵量は増えているように見えるが、世界のエネルギー需要の増加が指数関数的であることを考えれば、総量が大幅に増えてもピークの遅れはわずか数年のオーダーであり、今世紀の早い時期にピークに達するという点は変わりそうにない。後者の批判に対しては、確かに微分的にはその通りかもしれないが、長期的に見れば生産を需要に追従させるのにも物理的限度があり、それは資源総量と関係しそうである。

 では、米国での成功からハバート曲線は正しいと言えるのか?米国の場合は、資源が無くなったのでアメリカ人が石油を使わなくなったわけではない。この場合には、海外から石油が買えたので国内資源に依存しなくてもやっていけたのである。その点では、米国のピークオイルは大きな問題ではなかった。しかし、別の惑星から石油を輸入することはできないので地球全体にはこれは当てはまらない。

 ハバート曲線はしばしば「悲観的」と形容されるが、これは長い時間かけて徐々にエネルギー源が代替されるというある意味楽観的な予測かもしれない。経済が停滞して需要が減るのかもしれないが、ハバート曲線自体は何が起こったのかを教えない。仮に需要に合わせて生産が増えていけば、準備期間なく急激に資源が不足するイースター島型の破局シナリオも描ける。従って、ピークが後ろにずれるということが「楽観的」であるわけではない。問題は人間の対応なのである。

 一方、国内の石炭資源のようにより安価な代替資源が確保されて資源が残っていても使用されなくなるという可能性もあるが、石油が極めて生産・輸送・貯蔵しやすく電力や動力に変換しやすい資源であることを考えると有り得そうにない。CO2排出規制のような環境制約によって使用が制限されることはあるかもしれないが、これは自然界及びマーケットで自律的に定まるというよりは人間の選択である。

 ハバート曲線とピークオイルは自然の摂理でも、証明すべき科学的な仮説でもない。むしろ、資源の需要と供給の関係に人間がどう振舞い選択すべきかを検討する基本的な枠組みと考えるべきである。この曲線が正しいのか、これに基づいて将来予測できるのかを議論することよりも、資源が減退期であるという現実認識の元に、技術・経済・環境・社会のあり方に何が起きていて、今何をすべきかを考えることが重要である。

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