[コラム] 積極的な海外展開を行うブラジルの優良企業
2007年01月12日 09:55更新
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出展:三菱UFJリサーチ&コンサルティングホームページ(http://www.murc.jp/index.php)「国際通貨研究所 国際金融トピックスNo.129/国際通貨研究所 経済調査部 上席研究員 松井 謙一郎 2007年1月11日付」より
ブラジルでは、ル−ラ政権が本年から2期目を迎えるが、同国の近年のマクロ経済指標は安定している。ミクロの視点から見ると、最近は同国を代表する優良企業の積極的な海外展開が目立っている。これは、かつては先進国からの投資の対象であったブラジルも一部の分野では先進国へ投資する側に回ってきた事を示している。この背景として、好調な輸出による外貨準備高の積み上げ等のマクロ経済の改善の要因だけでなく、民営化による企業の活性化の要因も大きいと考えられる。中南米地域の1980年代の累積債務問題の背景には公営企業の不効率な経営があったが、1980年代後半以降民営化が進められてきた。民営化後は株主を意識した効率経営、業務の多角化、積極的なリスクテ−クという形で経営の方向性が変わってきた。現在の好調なブラジル経済を見るに際しては、これらの企業の存在を改めて認識すべきであろう。
以下では、同国を代表する優良企業であるペトロブラス・リオドセ・エンブラエルの3社について、最近の海外での積極展開の動きを中心に紹介する。3社とも1990年代初めは国営企業であったが、1990年代半ば以降の民営化(ペトロブラスは、政府が過半数を出資しているため一部民営化)が現在の躍進の大きな要因となっているという点で共通している。
先ず、石油公社のペトロブラス社であるが、同国の石油資源を実質上独占しており、同国で最大の売上を誇る企業である。近年ブラジルは新しい油田の発掘等を背景に原油の自給自足をほぼ達成したが、同社の海底油田発掘の技術の高さには定評がある。2002年に一部民営化されたが、並行して中南米地域を中心とした海外進出で着実に地盤を強化してきた。昨年の秋、同社が日本の製油会社の買収交渉を始めた事が報道されたが、背景には次のような要因がある。
同社が15億ドル近くを投資していたボリビアで、政府が天然ガスの開発事業の国有化を2006年5月に発表、中南米地域での事業でのリスクが表面化した事に象徴されるように、中南米域外での事業のシェア拡大によるリスク分散がより必要な状況となっている。更に、ブラジルは国内の原油自給をほぼ達成した事もあり、海外での輸出市場開拓が今後の新たな目標になっている。この中で、ブラジル産の原油を日本でガソリン等に精製して、日本や中国等アジア市場に供給するための拠点の確保が必要となってきている。加えて、ブラジル産原油は粘性の高い重質油で、中東やロシア等の軽質油に比べ価格が安い。今般の製油会社買収の背景には収益性を高めるため自ら海外の製油所を持って精製まで手掛けようとする同社の戦略があると見られている。
次に、鉄資源・鉄鋼生産のリオドセ社であるが、同社は1997年に普通株の4割強が民間に売却され、更に2002年には完全に民営化された。このような民営化の過程で同社の経営は株主の利益を重視する方向に向いてきた。加えて、資源業界では近年分野を越えた大型提携・買収の動きが強まり、リオドセも資源メジャ−の1社として戦略的な提携・買収を行いながら鉄鋼石以外の分野へも参入する多角化戦略を取ってきた。最近では、カナダのニッケル大手企業インコの買収を決めた。当初、インコの買収には米国の銅最大手のフェルプス・ドッジ、カナダの非鉄大手のテック・コミンコなどが名乗りを上げていたが、リオドセも昨年8月に非鉄事業の強化・多角化のために買収合戦に参戦した。最終的には、インコは、リオドセからの買収提案が他社からの条件を上回っているとして株主からの支持も背景に、昨年9月にリオドセの提案受入を発表した。カナダの関係当局からの承認を得て、リオドセによる大型買収が実現する見込みである。
最後に、同国の航空機製造メ−カ−のエンブラエル社であるが、同社はボ−イング、エアバス、カナダのボンバルディアに次ぐ世界第4位の民間航空機メ−カ−である。同社は、いまや同国を代表する優良企業となったが、必ずしも一本調子で発展を遂げてきた訳ではない。1990年代の初期は湾岸戦争の影響もあって世界の航空業界は低迷期を迎え、受注が減った同社は経営危機に陥った。これを乗り切るために民営化されたが、その後リストラで効率化を進めて1990年代の終わりには経営の建て直しに成功した。航空機は現在ブラジルの完成品輸出の1割程度を占めて自動車産業に次ぐ輸出の柱となっている。最近では、インドの国防省に偵察機の売込を行う等、軍用航空機の販売にも力を入れている。
資源業界は企業買収やプロジェクトへの投資金額が大きいため、急速な海外展開の拡大に伴う潜在的なリスクも大きい。また、航空機のユ−ザ−である航空業界では世界的に再編が進み、同国内でも激しく勢力図が変わっている。航空業界の動向次第では、今後航空機に対する需要が大きく動く可能性がある。同国を代表する航空会社であったバリグ航空は、2001年の米国での同時多発テロ以降の顧客減少・新規参入企業との競争激化を背景として経営不振に陥り、現在会社更生の途上にある。バリグ航空だけでなく、バスピ航空・トランスブラジル航空といった大手も新規参入企業との価格引下げ競争のあおりを受けて、軒並み経営不振に陥った。
ペトロブラス・リオドセ・エンブラエルの3社は、現在ブラジルを代表する企業として積極的な海外展開を行っている。一方で、資源・航空機業界では、世界的な規模での再編が進行し大きく動いている。各社がこの中で今後どのように海外展開を行って生き残っていくか、引き続き各社の動向に注目したい。
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