[コラム] 問われる行政評価の実効性
出展:日本総合研究所ホームページ(http://www.jri.co.jp/)「研究員のココロ (株)日本総合研究所 主任研究員 村田 丈二 2007年1月15日付」より
1.自治体経営破綻への警鐘
最近相次ぐ官製談合や自治体職員逮捕の事件・不祥事に隠れてしまい、あまり世間から注目はされていなかったが、92年の福岡県旧赤池町以来となる夕張市の財政再建団体への転落は(民間でいう倒産)、実は一連の事件以上に憂慮すべきことである。
財政再建団体になることは、民間企業のように組織自体が消滅するようなものではないが、国の管理下におかれて財政再建計画に基づき、徹底した改革が進められるため、職員の大幅削減、給与のカットなど行政内部の荒療治はもとより、住民向け各種サービスの縮小、ごみ収集代、下水道代などの利用料金の増額など、住民にも多くの負担が強いられることになる。
しかし、本来、自治体の経営破綻は、企業ほど短期間に進むものではなく、長年にわたる債務の累積や無駄な事業の継続実施といった放漫経営により少しずつそうした状況に陥っていくものである。点検→評価→改善のマネジメントサイクルが機能し、また監視・監督する立場にある機関が適切な点検・指導をしていれば事前に回避することも可能であっただけに、実際に経営破綻状態になったという事実は重く受け止めなければならない。
自治体財政の硬直度を示す指標の一つである経常収支比率((経常経費充当一般財源/経常一般財源総額)×100)は、総務省によると89.0%(平成15年度) から91.5%(平成16年度) に推移し、自治体の財政状況は悪化している。このような中、財政再建団体予備軍が増えているともいわれており、行革への真剣な取り組みがなければ事態は一層深刻化していくだろう。
2.行政評価システムの検証からみた問題点
今回の経営破綻は、炭鉱の町が衰退し、再生をかけていろいろと取り組んできたことが順調に進まず、破綻に至ったとしか見られていない感があるが、他の自治体が教訓として学ぶべき点は、やはり「自己点検機能」が働かなかったことだと思う。財政難に苦しむ自治体の多くが行政評価システムを導入し、財政健全化に役立てようとしていると思われるが、行政評価システムがどれだけの機能を発揮できているかである。夕張市の経営破綻の事実を含め、改めてその実効性が問われている。
このような中、最近筆者は、いくつかの自治体で、既に導入済みの行政評価制度を検証したり、外部評価委員として、その自治体の行政評価のあり方や、評価結果を客観的に点検、検証したりする機会が多くなっている。こうした経験から、行政評価の実効性に影響のある問題点を以下に明らかにした。
■トップ・経営幹部の認識不足(意思決定機能の問題)
行政評価における事業や施策の点検結果について最終的な行政内部の意思決定を行うのは、首長か首長を含む幹部層で構成される経営会議等の意思決定機関である。しかし、事業の担当課や行政評価所管部署から積み上げられた評価結果に対して、意思決定機関での十分な議論が行われず、方針が先送りにされるなど、上層部の判断能力のなさを指摘する声もある。
首長は次期選挙を考慮し、補助金の廃止など思い切った判断ができないといった事情もあるようだが、政治家である前に、自治体経営の責任者としての責務を果たすべきである。また、幹部層については、評価制度に対する理解度が評価担当者以下のような場合もあり、また前例踏襲・現状維持の発想から脱却できない幹部も多い。
行政評価システムの運用においては、評価作業が的確に行われるとともに、その結果に対する意思決定機能が働かなければ仕組みそのものが形骸化してしまうことへの認識が必要である。
■脆弱な推進体制
行政評価システムは、予算編成などと同様に全庁に共通する基幹的な仕組みである。財政部門が持つ査定権限に準ずる機能を事業・施策の所管部署に部分的に委譲するようなものであるから、評価システムに与えられたミッションとその影響力は大きい。適切な評価がなされ、予算編成に反映できれば、評価システム導入に投じた費用の回収はなんなくできる。そのため、本来なら、こうした仕組みの導入には初期投資と定着するまでのメンテナンスに必要な経営資源をもっと投入するべきであるが、残念ながらそうした認識は希薄であり、導入時の推進体制が十分ではない自治体が多いのに愕然とする。
一般的な例であるが、評価システム導入のための体制づくりでは、まず、経営幹部や一部の管理職で構成される〇〇本部会議、□□推進会議等の組織が設置される。実質的な推進部隊である行政評価所管部署には企画や行革部門の室や係が充てられ、1〜2名の職員が他の業務と兼務で担当する程度であることが多い。専属の職員が配置されているような自治体は少なく、その所属長も行革分野での実務経験が豊富な人材が配置されているわけでもなく、明らかに実行部隊の戦力不足であることは否めない。自治体では、慣習的に行革部門の経費や人員配置は極力抑制することが求められており、十分な体制での実施が困難であるのが実情のようである。専門家へ委託する自治体もあるが、本来必要な予算を確保できないため、制度構築や職員のスキル向上のための十分な指導・助言を受けられないような状況もよく見られる。また、入札で委託先を決定するようなケースも見られるが、こうした委託業務の場合は品質維持の観点から避けたほうがよいと思われる。
推進体制が脆弱であれば、職員のスキルが向上しないばかりか、評価作業が事務的に処理されてしまうので、評価内容の精度は低くなり、予算編成に活用されることはまず考えられない。これでは行政評価の実効性はあがらない。
3.行政評価の実効性をあげるために
■2次点検機能の強化
行政評価の結果を予算編成などに活用するには、まだまだ評価担当者のスキルを向上させる必要があるが、これは訓練によりレベルアップしていくものである。一定水準まで引き上げる努力は必要だが、それよりも、1次評価結果を再点検する体制と人材の確保が急務である。特に、事業評価を行う場合は数も多くなるため、内部で育成するか、外部から調達し、体制を強化するしかない。
■意思決定機能の強化
仮に、現場での評価スキルが向上したとしても、その評価内容を正しく判断し、最終的な意思決定が行われる仕組みが確立されていなければ、一連の評価プロセスは意味をなさなくなる。4年毎に選挙を控える政治家がどこまで覚悟して評価結果に対する最終判断を下せるのか疑問である。やはり、政治家は政治家として君臨し、米国の自治体で見られるように、人事・予算の権限を与えられ首長に代わり自治体経営を取り仕切るシティーマネージャーのような存在が、行政評価や思い切った改革を推進していくためには不可欠である。
もちろん、このような組織では、組織マネジメントや意思決定のできない部課長はシティーマネージャーには不要な人材となり、外部調達の対象ポストとなることは言うまでもない。
■組織マネジメント機能の強化
ミッションや戦略に組織・人材・予算が配分される民間企業とは異なり、組織と所属する職員を維持するために施策・事業が存在する自治体では、個別の事務事業の評価を行うだけでは、なかなか予算・人員を最適配分していくという改革は進めにくい。自治体が実施する戦略的な施策にどのような事業が効果的であり、どれだけの予算と人員が必要かを把握することで、自ずと資源の選択と集中が行われる。つまり、行政評価による個々の事業の点検は必須であるが、その評価結果を組織の戦略的な目標と照らし合わせて、組織内での予算・人員の配分、業務プロセスの改善などに活かすことのできる組織マネジメントの仕組みの構築が望まれる。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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村田 丈二
(株)日本総合研究所 行政マネジメントクラスター 産業政策・技術戦略クラスター
専門分野:専門分野:行政マネジメント,行政評価、行政経営改革、総合計画
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