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[コラム] 温暖化対策における日本人の視点

2007年03月07日 23:58更新 mailメール

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出展:日本総合研究所ホームページ(http://www.jri.co.jp/)「研究員のココロ (株)日本総合研究所 研究員 佐々木 努 2007年3月5日付」より


 京都議定書の第1約束期間(2008年〜2012年)が直前に迫っている。日本は、同期間内に温室効果ガスを1990年から平均6%削減しなければならない。
 最近では、排出権やバイオ燃料などの温暖化対策に関連した言葉が、連日のように新聞紙上を賑わせるなど、本格的な温暖化対策の機運が高まりつつあるようにみえる。しかし、国民一人ひとりが、自身の問題として温暖化対策をとらえているのだろうか。
 本稿では、筆者のブラジルでのCDM(注1)調査の経験をもとに、「ブラジル人の視点」から日本の家庭部門の温暖化対策について論じ、温暖化対策における「日本人の視点」について整理したい。

1.まだまだ不十分な温暖化対策

 政府が発表した速報値によると、2005年度の日本全体の温室効果ガス排出量は、13億6,400万[t-CO2]であり、1990年と比べて8.1%増加している。また、家庭部門の排出量は1億7,500万[t-CO2]であり、1990年と比べて37.4%増加している。
一方、京都議定書目標達成計画では、家庭部門の排出量を1990年から6%増加にとどめるとしているので、現状から年間約4,000万[t-CO2]削減する必要がある。


図表1 家庭部門の排出量の現状と削減目標

(出所)京都議定書目標達成計画、政府発表資料をもとに筆者作成

 「年間4,000万[t-CO2]を家庭部門で減らす」という数字だけでは、全く現実感がない。そこで、オフィスでの温暖化対策ではあるが、国民に広く認知された温暖化対策の一つである「COOL BIZ」と比較してみる。2005年度のCOOL BIZによる削減効果は、約46万[t-CO2] (注2)である。
 COOL BIZの推進は、個人の温暖化対策への関心を高め、一人ひとりが行動に移すという啓発の面で意味のある施策であった。しかし、削減量だけで評価すると、年間4,000万[t-CO2]の削減を達成するには全く不十分である。個人の良心に頼った施策だけでは、達成困難な削減量であることを認識しなければならない。

2.温暖化対策をビジネスチャンスとみるブラジル人の視点

 ブラジルではCDMの取組みが活発である。世界で初めてブラジルのCDM案件が国連に登録されて以来、日本や英国、オランダなどの国々が同国の「優良な」案件を捜し求めている。もちろん、ブラジル人も「目に見えないもの(温室効果ガス)を売って儲けるビジネス」に注目しており、現地では多くのCDM関連企業が立ち上がっている。最近では、農場や養豚場のオーナーであっても、ガスを先進国に売ることができることを知っており、その価格相場(商品の「質」によるが、1トン当たり15ユーロ程度)についても把握している。
 このようなCDM先進国であるブラジル人は、日本の家庭部門の排出状況も「現金化」して判断するに違いない。年間4,000万[t-CO2]の削減量を全てCDMで手当てする(注3)と、年間のクレジット購入費は約900億円になる。5年間(第1約束期間)だと約4,500億円に達する。世界各国の政府・大企業を対象にCDMビジネスを行っていたブラジル人も、この額を知れば「日本の家庭部門」も優良な顧客に映ることだろう。
 一方で、2007年1月末時点で国連に登録されているCDMの削減総量は、年間約1億1,300万[t-CO2]である。そのうち、ブラジルにおけるCDM削減量は年間約1,600万[t-CO2]である。つまり、日本の家庭部門の年間必要削減量4,000万[t-CO2]をCDMだけで賄うには、相当な案件開発の努力が必要であると言える。

3.求められる「日本人の視点」

 本稿では、温暖化対策をビジネスチャンスとしてとらえるブラジル人の視点を紹介した。これは、家庭部門の温暖化対策とCDMを結び付けて考えることが少ない日本人には新しい視点である。これに対し、「京都議定書の削減目標を達成することが重要であり、CDMによる削減を進めるべき。」という意見も存在するだろうし、「温暖化対策は一人ひとりが取組まねばならない。国内対策をすすめるべきだ。」という意見もある。こうした異なる意見を、我々はどうとらえるべきなのだろうか。
 既に、産業部門においては、各企業がそれぞれの状況に応じて自社対策やCDMなどを組み合わせ、温暖化対策に取組もうとしている。そこには各企業の明確な「視点」が存在する。費用面や社会的責任などを総合的に判断して、対策を講じている。つまり、京都議定書の削減目標を達成するという目標に向かって、各企業がそれぞれの「視点」で取組んでいるのだ。
 一方、家庭部門において、その主体者である我々一人ひとりは、そうした「視点」を持ちうるだけの知識を有しているだろうか。温暖化対策の存在すら知らないのが現状ではないだろうか。まずは、温暖化対策への意識を高め、自身の「視点」を持つ努力が求められよう。判断基準がなければ、行動することはできないからだ。
 こうした多様な「視点」に応えるためには、様々な対策を用意し、情報を提供していくことが重要になるだろう。省エネ型の住宅や機器の導入といった従来型の対策だけではなく、グリーン電力証書(注4)や個人向け排出削減証書の購入なども対策となりうる。また、個人向け排出権取引制度(注5)の構築なども検討すべきだろう。
 第1約束期間の開始まで1年に迫った今、「日本人の視点」についての議論が、活発化することを望みたい。この機会に、我々一人ひとりが世界の温暖化対策を牽引する視点を持ちたいものだ。


以上



(注1)
クリーン開発メカニズム。京都議定書に定められた京都メカニズムの1つ。温室効果ガス排出量の数値目標が設定されている先進国が、数値目標が設定されていない途上国において排出削減事業を実施し、事業により発生した排出削減量の一部を自国に移転させる仕組み。

(注2)
日本政府発表資料による。

(注3)
京都議定書では、排出量取引や共同実施の利用は、国内削減努力に対して補完的な手段であることを要求している。また、CDMに関しても、削減義務の達成の為に一部を利用できるとされている。しかし、「補完性」が示す具体的な数値レベルは明らかにされていない。

(注4)
再生可能エネルギーによって発電された電気の持つ「電気自体の価値以外のもう一つの価値(=環境付加価値)」を証書化したもの。需要家は、グリーン電力証書を購入することによって、現在契約している電力会社からの電力を使いながらも、発電された電気を選んで利用したものとみなされる。

(注5)
英国環境省は、個人向けに取引可能な炭素排出権を発行し、排出量の削減につなげることを検討している。個人に一定量の排出権(ポイント)を付与し、ポイント残高がゼロになると排出権を追加購入する方法が提案されている。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

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佐々木 努
(株)日本総合研究所 研究員 環境価値創成クラスター
専門分野:地球温暖化関連ビジネス、環境技術
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