[コラム] 働く人をいかに増やすか −就業率と労働生産性を共に高めた英国−
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出展:みずほ情報総研ホームページ(http://www.mizuho-ir.co.jp/)「コラム/みずほ情報総研(株) 社会保障 藤森クラスター 藤森 克彦 2007年3月27日付」より
「英国は、主要先進国の中で、就業率が最も高い国となった。若年失業者数が大きく減り、福祉手当に依存する人々は100万人も減少した。」 ――2006年1月に、ハットン雇用年金大臣は、このように語った。
この言葉の通り、英国の2005年の就業率(15〜64歳人口のうち就業者の割合)は72.6%であり、米国(71.5%)、日本(69.3%)、ドイツ(65.5%)、フラ ンス(62.3%)、イタリア(57.5%)と比較して最も高い水準にある。94年 の就業率と比較すると、米国、日本、ドイツではほとんど変化がないのに対して、英国の就業率は4ポイントも上昇した(OECD統計)。そして英国政府 は、今後「就業率80%」を目指すという。
他方で、労働生産性も高まっている。90年代初頭の英国の一人当たり労働生産性は、米国、フランス、ドイツ、日本の中で最低の水準であったが、他国との差が縮まり、2005年にはドイツや日本よりも高い水準となった。
ところで、就業率と労働生産性を共に高めていくことは、労働力人口が減少 していく日本においても重要なテーマとなっている。安倍政権が本年2月に発表した「成長力底上げ戦略」には、職業能力開発や就労支援などによって、格差の固定化を防止し、人々の労働市場への参加や生産性引き上げに向けた構想が示されている。
では、英国ではどのような施策が採られたのであろうか。ブレア政権では、失業者などの福祉手当受給者に対して就労を促す「福祉から就労へ(welfare to work)プログラム」を推進してきた。堅調な経済の下、同プログラムによって多くの福祉手当受給者が労働市場に参加できるようになった。具体的な内容として、下記の四点があげられる。
第一に、職業紹介機能や職業訓練の強化である。単純労働は機械によって代替されたり、人件費の低い発展途上国に奪われる傾向にある。こうした中、スキルをつけて働くことが何よりの生活防衛になる。また、スキル向上に重点をおいた施策は労働生産性を高めるとともに、福祉手当受給者を納税者に変えていくので「経済の担い手」を増やすことにつながる。
具体的な施策としては、失業者に職業安定所の個人アドバイザーをつけてカウンセリング機能を充実させることや、就職できない者に職業訓練の機会を与える「ニューディール政策」が行われてきた。同政策では、対象者を18〜24歳の若年失業者、25〜49歳の長期失業者、50歳以上の高齢失業者、1人親世帯、障害者、失業者のパートナーに分類して、各失業者の状況に合った訓練メニューなどを用意して、就職につなげている。
第二に、失業手当などの受給者に、就職活動・職業訓練を義務づけた。ニュ ーディール政策では、若年失業者と長期失業者が就職活動や職業訓練を拒絶すれば、失業手当の受給停止というペナルティが課せられている。これによって、半ば強制的に若年・長期失業者がニューディール政策のプログラムに参加することになった。
第三に、就労によって得られる賃金を魅力的にして、就労インセンティブを高めた。具体的には、低所得就労者(ワーキング・プア)は、賃金が生活保護の給付水準を下回ると就労意欲を失いがちなので、一定基準以下の賃金には国が補助金を上乗せする「勤労税額控除制度」が導入された(負の所得税)。これは、ワーキング・プアへの支援策となっている。
第四に、働く環境の整備である。具体的には、事業主に多様な就業形態の導入を促すワークライフバランス施策や、保育所整備などがあげられる。また、2006年には年齢差別禁止法も導入されている。
日本と英国では労働市場の構造や社会保障制度が異なるので、上記内容をそのまま取り入れることは難しいが、人々を労働市場に参加させるには職業訓練の強化、労働環境の整備、税制措置などを組み合わせた総合的な施策が必要となる。また、失業者にきめ細やかな支援を行うには、相応のコストがか かることも覚悟しなくてはならない。ただし、上記施策によって「経済の担 い手」は増えるので、長期的には財政削減につながる。つまり就労支援施策にかかる費用は、単なる支出ではなく「投資」という見方ができるだろう。
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