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[コラム] 日本の経済連携協定(EPA)戦略と農業改革

2007年05月30日 13:42更新 

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出展:三菱UFJリサーチ&コンサルティングホームページ(http://www.murc.jp/index.php)「国際通貨研究所 国際金融トピックスNo.137/国際通貨研究所 経済調査部 主任研究員 西村 陽造 2007年5月29日付」より


【経済連携協定(EPA)交渉の加速に農業改革は重要な役割を果たす】
 5月8日に行われた経済財政諮問会議グローバル化改革専門調査会では、経済連携協定(EPA)交渉の加速と農業の構造改革の強化が示された。日本がEPA交渉を進めていくうえで必ず問題となるのが、農業分野の自由化の扱いである。農業の構造改革強化によって、農業分野の自由化が現状よりも容易になれば、今後のEPA交渉を加速させるうえで有効であるばかりでなく、農業分野以外の交渉でも、日本の交渉力(バーゲニング・パワー)を大きく強化される。本年4月の米韓自由貿易協定妥結にもみられるように、世界的にEPAや自由貿易協定を締結する動きが加速しており、その結果として形成される世界の貿易・投資のネットワークから取り残されないためにも、日本のEPA交渉の加速は不可欠であり、それには農業改革が重要な役割を果たしうる。

【農業分野の自由化はマクロ的にはプラス】
 一般に農業分野の貿易自由化は輸入へのシフトで日本国内の農業生産を減少させ、自由化の経済全体の効果はプラスでも、農業分野に限定するとマイナスになるとイメージされている。しかし農業分野に限定しても、日本経済全体への効果、すなわち、実質GDPに及ぼすネットの効果はマクロ的にはプラスとなる推計結果は少なくない。確かに、農業自由化で、それまで国産の農産物を消費していたものが、輸入農産物にシフトするだけでは、実質GDPへの影響はマイナスである。しかし、このマイナス効果を相殺するようなプラス効果を生み出すメカニズムがいくつか考えられる。
 原理的には農業分野の貿易自由化は、日本及び貿易相手国がより比較優位に即した生産活動を可能とすることで、双方の国の実質GDPを押し上げうる。更に、輸入農産物の流入が国内の農産物価格を押し下げるため、国民の実質所得全体が拡大し、農産物消費や農産物以外の消費を増加させる効果がある。また、安価な輸入農産物を国内で加工したうえで消費すれば、そこで付加価値が発生する。さらに、農業自由化で競争力を失った農産物の生産が減少しても、そこで使われていた労働、資本、耕地が輸出競争力のある農産物の生産や農業以外の産業に投入されれば、生産や輸出が拡大するのでGDPは押し上げられる。農業分野の貿易自由化の効果は、応用一般均衡モデルと呼ばれる経済モデルをベースになされることが多いが、これらのメカニズムが部分的にせよ、このモデルに反映されるため、経済効果はマクロ的にはプラスになる。

【経済グローバル化時代に生き残る日本農業の構造改革】
 このようにマクロ的にはプラスとしても、自由化の対象となった農産物の生産がある程度落ち込むことは確実であり、農業生産比率の高い県では、プラスよりもマイナス効果を被ることになる。自由化による安価な輸入農産物の国内市場への流入に対する国内農業部門の対応策が必要になる。ここでの対応策はもはや「保護」ではなく、自由化された環境の中でも生き残る農業の構造改革になる。日本の農業は比較劣位であるとして諦めるのではなく、比較優位を獲得するための農業の構造改革の強化が必要になる。冒頭の示したグローバル化専門調査会では、新たな農地制度の確立、自由で多様な経営展開の促進、農業の担い手を支援するシステム、などのための法制整備が提案されている。
 過去のそうした例を挙げるならば、新潟県燕市の洋食器製造業が、急速な円高で安価な輸入品との競合に晒されながら、生き残り、むしろ世界市場でのプレゼンスを高めたことが教訓になろう。洋食器製造業の適応は2極化戦略であった。ひとつは機械による徹底した自動生産により生産コストを下げ、労働賃金格差が意味のなくなるような変革を遂げた。他一方は、金属加工職人の職人技を駆使した工芸品のような高級品の生産への特化であった。また、70年代の貿易自由化で、米国からのオレンジの輸入が日本のみかん農家を壊滅させるという議論があったが、日本のみかん農家は現在でも健在であり、みかんは海外でも広く消費されているという事実も教訓になろう。これは日本の消費者の柑橘類に対する需要の特異性、平たく言えば一種の「こだわり」が輸入オレンジによる代替を進めなかったことになる。
 このように日本の消費者が食品の安全性や品質について世界的にも極めて高い、あるいは特異な感受性を持っていることを考慮すれば、価格競争力に還元できない、差別化、高品質化による生き残りが日本の農業の可能な選択肢になり得るだろう。そうして差別化を確立したブランドは更に海外の富裕者層を対象にした輸出市場を拡大することも望めるであろう。こうした形で日本の農業生産の構造転換が進めば、農業分野の自由化のGDPへの影響がプラスになることを確実にし、さらにプラス幅を拡大させることも可能になる。経済グローバル化時代に生き残る日本の農業のあり方は、決して夢物語ではなかろう。

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