[コラム] 製品に含まれる化学物質も使いこなす−REACH規則施行−
出展:みずほ情報総研ホームページ(http://www.mizuho-ir.co.jp/)「コラム/みずほ情報総研(株) 環境・資源エネルギー部 菅谷 隆夫 2007年6月5日付」より
6月1日、欧州連合(EU)の新しい化学物質規制であるREACH(リーチ)規則が施行された。化学物質の登録、評価、認可および制限について規定するREACHの基本は、「化学物質の安全性に関する責任は、それを製造・販売する事業者が負う」ことである。その大きな特徴の一つは、化学物質やその混合物だけでなく、それらを原材料として製造される成形品の中の化学物質(製品含有化学物質)も対象となることであり、そのための対応もREACHによって新たな局面を迎えることになる。ここでは、REACHの施行を期に、成形品に含まれる化学物質に関する取組について考えてみたい。
成形品というとピンと来ないかもしれないが、自動車や電気電子製品をはじめとする組立製品やその部品は、いずれも成形品である。そして成形品の中の化学物質の管理については、自動車や電気電子製品への鉛やカドミウムなどの使用を原則禁止するEUの規制(ELV指令やRoHS指令)等への対応のため、すでにモノづくりにおける重要な課題となっている。
REACHでは、自動車や電気電子製品といった製品の区別はなく、成形品全般が対象となる。つまりREACHは化学物質の規制であるが、成形品を製造・販売する事業者も無縁ではない。さらに、成形品に関する規制の対象は、人の健康や環境への重大な影響が懸念される物質(高懸念物質)とされる。これから欧州化学機関において対象物質のリストアップが行われるが、その数は数百〜1,000以上になると予想されている。REACHでは、それらの物質が成形品に含有される場合の製造者等の義務が定められており、ケースによっては、登録・届出や川下(製品の供給先)への情報伝達義務を負う可能性がある。
REACHは、対象となる製品や化学物質数だけをみても、これまでの規制の比ではないといわれている。モノづくりに関わる事業者は、成形品に含有される化学物質の課題に対して、これまで以上に戦略的に取り組む必要がある。
そのポイントの一つは、サプライチェーンに関わる企業間の相互理解と協調を重視すべきことである。化学物質の含有情報は基本的に、川上(化学品メーカーなど)から提供される必要がある。また、一つの製品に含有される化学物質の管理は、その製品の製造に関わる全ての事業者の取組の連鎖によってはじめて実現される。つまり、サプライチェーンがこれまで以上に重要な存在となるのである。RoHS指令対応で問題となったように、例えば調達側が一方的に発注先に短期間での情報提供を求めるような、やや力づくともいえるやり方ではなく、サプライチェーンに連なる事業者が、それぞれの組織において含有物質の自律的な管理を行い、その管理と川上から入手した情報に基づいて川下への情報提供を行うことを基本とする効率的で確実な取組にステップアップすべき時である。
もう一つのポイントは、化学物質のハザード(有害性)、リスク(有害性× 暴露量)のいずれに基づいて対応を進めるかという点である。端的にいえば、高懸念物質としてリストアップされるような物質の対応として、「代替」と「適切な管理に基づく使用」のどちらのアプローチをとるか、ということである。特に成形品に含まれる化学物質については、法規制で使用を禁止されない限り、製品ライフサイクル全体において安全かつ適切に管理・使用されるならば、代替は必須ではない。
そして、中長期的な視点もポイントとなる。成形品に含有される化学物質の管理においては、シックハウス症候群など製品使用中の直接的な影響にも留意する必要があるが、製品製造後5年、10年の期間を経て、製品が使用済みとなったときに、安全で効率的なリサイクル、あるいは適切な廃棄処理を可能にすることも重要である。今後REACH対応として、川上の事業者の準備に必要な期間も考慮せずに調査を開始するなどの短絡的な行動やそのための混乱の発生も予想されるが、事業者としての行動は、将来にわたっての化学物質との関わりを見据えたものであるべきであり、それが今後の企業競争力の差につながることになる。
成形品中の化学物質に関わる課題への対応に王道といえるようなものはなく、その製品や業態に応じて、事業者が自ら対応することが求められている。広い視野とバランスのとれた戦略が、今、問われている。
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