[コラム] 中国現地法人の日本版SOX対応状況と課題
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出展:日本総合研究所ホームページ(http://www.jri.co.jp/)「研究員のココロ (株)日本総合研究所 主任研究員 美谷 昇一郎 2007年5月28日付」より
1.はじめに
2007年2月、企業会計審議会から「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」および「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」(以下、実施基準という)が公表されたことを受けて、上場企業では内部統制報告書の提出、および公認会計士又は監査法人の監査を受ける旨の金融商品取引法の適用開始である「平成20年4月1日以後に開始する事業年度」に向けて準備を本格化し始めている。
この財務報告に係る内部統制の評価及び外部監査の適用対象としては、上場企業およびその連結子会社とされている。この中で連結子会社については「全社的な内部統制の評価」を実施するとともに、「業務プロセスに係る評価」を実施する対象範囲について、実施基準の中で「本社を含む各事業拠点の売上高等の金額の高い拠点から合算していき、連結ベースの売上高等の一定の割合に達している事業拠点を評価の対象とする」「一定割合を例えば、概ね2/3程度とし」ており、重要性の大きな連結子会社については「個別の業務プロセスの評価」まで実施することが求められている。
茲許の中国経済の急速な成長を反映して、海外連結子会社の中でも中国現地法人が売上高等の量的基準だけでなく、全社連結ベースにおけるビジネス上の質的重要性も高まっているところが、最近は少なくなくなってきている。そこで今回は、実際に中国所在の現地法人に私自身(一部外部調査会社を通じて)簡単なヒアリングを実施し、その結果から窺える中国現地法人の日本版SOXへの現在の対応状況と今後の課題などについて考察してみたい。
2.中国現地法人の日本版SOXに対する対応状況
2007年4月3日から4月23日において、上海所在の日系現地法人(母社はすべて上場日本企業)19社に対し、日本版SOXの対応状況などに関するヒアリングを実施した。なおヒアリングは、各現地法人において日本版SOXの担当あるいは今後担当する予定である現地法人の総経理ないしは管理部長に対して実施した。
ヒアリングを実施した現地法人の母社に関する属性は次のとおり。

またヒアリング先の選定にあたっては、日本版SOXが株式公開企業を対象としていることから上場企業の中国現地法人の中から特定の規模、業種に集中しないように配慮しており、サンプル数は少ないが、大まかには中国現地法人の傾向を読み取ることが出来るものと考えている。
(1)日本版SOXの認知度
今回ヒアリングを実施した中国現地法人のうち、いわゆるグループ連結売上高における2/3基準に該当する重要な子会社である先は4社に上った。
日本版SOXの認知度については「詳しい内容まで良く知っている」あるいは「ある程度の概要まで知っている」を合わせると13社が相当程度認知しているとの回答だった(重要な子会社に該当する4社もこの中に含まれている)。一方で、「内容を殆ど知らない」あるいは「SOXを聞いたこともない」という回答も6社あった。
(2)日本版SOXへの取組方針
日本版SOXへの現地法人としての取組方針を尋ねたところ、「必要最低限の法対応で十分」「検討中」「特になし」という回答が多かったものの、「これを機会に社内リスクマネジメントを抜本的に見直したい」と回答した法人が4社あった(内、重要な子会社に該当する法人は1社)。
これらの法人からは、「今回の日本版SOX対応はあくまで日本本社主導で財務報告上のリスクチェックを実施するものに過ぎない。法対応とは別に、これまで見過ごしがちであった当地コンプライアンス等の観点から留意すべき項目の見直しを独自に行っていく必要がある。むしろ当地でのビジネスリスクを考えるとこちらの方がはるかに重要かも知れない」という意見が多く聞かれた。今回のSOX法対応とは別に、日本とは異なる独特の商習慣や法制度の下での中国ビジネスリスクを改めて見直して行く必要性を意識している現地日本人が少なくないものと推察される。
(3)現時点での取組状況
対応作業を開始している現地法人は4社(内、重要な子会社に該当する法人は1社)に過ぎず、他は「検討中」「未定」など具体的な対応が未実施との回答であった。特に具体的なアクションについては「本社の指示待ち」という声が多かった。
一方で、ヒアリングした現地法人の内1社(重要な子会社に該当)では、現地法人内に昨年11月よりプロジェクトチームを組成し、社内の業務フローチャート作成に取り組み始めている処もあったが、こうした現地法人は少数派で、多くは管理担当の日本人ないし総経理が日本本社との連絡窓口になっている程度であった。
(4)現時点における問題意識と現地での相談先
今後、日本版SOXへの対応を進めていく中で、最もネックとなるだろうと予想される点としては「対応できる知識や能力のある人材がいない」「対応できる時間に余裕がない」などの声が最も多かった。日本本社から送付されてくる『文書化マニュアル』や『内部統制チェックリスト』などの資料を、専門用語が多いためニュアンスを汲んだ中国語に訳すことが出来ず、已む無く、現地日本人が日常業務の合間にこなしていくしかないという実情も垣間見ることができる。
さらに、一部の現地日本人は、日本本社からの具体的な作業指示も特になく、却ってギリギリに大量の指示が来ても困るという焦りを感じ始めている中で、現法トップが技術や営業出身の方の場合、今回の法対応における事の重大性と緊急性をなかなか理解してもらえず、現地法人内でも協力体制を作りづらい雰囲気があるという声もあった。
こうした現場担当者の日本版SOXに対する相談先としては「年度監査を受けている監査法人」が5社と最も多かったが(その他の回答は「相談したことがない」)、
1. 外部監査人と被監査対象会社とのコンサルティングは監査の独立性に係る可能性があり、踏み込んだ情報提供を嫌がる監査法人担当者が少なくないこと
2. 中国当地でもいわゆる「C-SOX法」(『上場企業情報の内容向上に関する意見の通知』(国発[2005]34号) 2005/10/19公布)が2006年より施行開始しており、その通知の二(四)において「外部監査人の監査を経た内部統制制度に関する会社自己評価報告を公表すること」と定められていることから、国際大手監査法人の現地スタッフは中国上場企業向けの「C-SOX法」の対応に追われている模様で、日系現地法人の日本版SOX対応支援が十分行えない状況にあること
3. 中国現地法人の年度監査を受けている監査人がローカル会計事務所の場合、日本版SOXへの理解が十分でないこと
などの理由から、「今後業務支援や情報提供を受けたい先」としては「当地コンサルティング会社」を挙げる意見も同数の5社あった。
因みに、「C-SOX法」については、実施細則などがほとんど公表されないまま見切り発車的にスタートしていることから、相当現場では混乱していると聞いている。また、当面は日本版SOXと同様、中国株式市場に上場している会社が対象とされるため、ほとんどの日系企業は直接の関係はないものの、中国においても確実に内部統制に関する意識が高まってきていることは確かである。この「C-SOX法」が、いつ中国進出の日系企業にも援用されるか分からないこと、上述の通り実施細則は未公表であるものの、検討されている内容はかなり米国SOXに近く、将来的には日本版SOXに対応しているというだけでは不足な場合もあり得ること、など今後の動向には注意を要する。
3.まとめ
日本版SOXへの対応状況について2007年4月時点でのヒアリングによれば、いわゆる2/3基準に該当する重要な子会社が19社の内4社あったものの、まだまだ現地法人側で具体的な対応作業などを進めているところは少なく、本社からの指示待ちという状況の現地法人が少なくなかった。一方で、すでに現地法人内にSOX対応プロジェクトチームを組成し、部門ごとの業務フローチャート作成をスタートしているところもあるなど、対応状況にはばらつきが大きかった。
因みに、すでに業務フローチャートの作業を開始している現法の日本人からは、「日常のオペレーションについて現場責任者ですら知らないで見過されて来たことが非常に多く、文書化をしながらその場で逐一問題解決を行っている。そういう意味で単なる法対応ということでなく、非常によい機会になっている」との意見があり、印象的だった。
また、今回の日本版SOXへの対応に拘らず、ヒアリングを行った現地日本人からは「これまで見過ごしがちであった当地コンプライアンス等の観点から留意すべき項目の見直しを独自に行っていく必要がある。むしろ当地でのビジネスリスクを考えるとこちらの方がはるかに重要かも知れない」という声が少なくなかった。これは、現地法人の設立以来、本社からの業務上の要請も此れあり、営業基盤の整備や生産体制の安定などに現地日本人が忙殺され、コンプライアンスや内部管理などに関する体制整備については、問題意識としてはあったものの、なかなか手が付けられて来なかったということが背景にあると考えられる。日本とは異なる独特の商習慣や法制度の下での『中国ビジネスリスク』を改めて見直す良い機会かも知れない。
さらに、当面ほとんどの日系企業は直接的な関係はないものの、いわゆる「C-SOX法」が2006年より実施開始されるなど、中国においても確実に内部統制に関する意識が高まって来ている。この「C-SOX法」がいつ中国に進出している日系企業にも援用されるか分からない上、要求内容はかなり米国SOX に近いことから、将来的に日本版SOXに対応しているというだけでは不足な場合もあり得ること、など今後の動向には注意を要する。
現地日本人の間からは、具体的な対応作業が開始してみないと見えない部分はあるものの、現地では内部統制に関する他社動向など情報が非常に少なく、上述の「C-SOX法」など現地でないと分かり辛い情報も含めて、さまざまな形での情報提供ニーズが非常に強く聞かれた。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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美谷 昇一郎
(株)日本総合研究所 主任研究員
専門分野:中国経営コンサルティング
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