[コラム] 調整型予算からの脱却のススメ
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出展:日本総合研究所ホームページ(http://www.jri.co.jp/)「研究員のココロ (株)日本総合研究所 研究員 近藤 佳史 2007年6月4日付」より
1.予算管理が抱える問題点
近年、市場のグローバル化やM&Aの増加など競争環境がめまぐるしく変化する中、「いかに自社の現状をタイムリーかつ的確に把握し、スピーディーに経営資源配分に関する意思決定を行うか」というPDCAマネジメントの高度化(‘PDCA力’の強化)が競争優位の一因となっています。既に多くの企業では、PDCAマネジメントのためのツールとして「予算管理」を利用しているものと思いますが、果たして本当にスピーディーで精度の高い経営判断を実現するための予算管理になっているのでしょうか。「高い目標は掲げたものの、予算が絵に描いた餅になっている」、「予算をつくるのに時間がかかりすぎて年度初めから既に前提条件が変わっている」といった問題を抱えている会社が非常に多いのではないでしょうか。
2.なぜ予算管理の問題が生じるのか
ここ数年来、企業は企業価値向上という名目のもと株主をはじめとしたステークホルダーから厳しい目で評価される時代になってきています。企業価値を重視しない企業は市場から見放され、時には業界再編の波に飲み込まれるという憂き目にあうこともあるでしょう。そうした事態を回避するためには、市場からの要請に常に応え続けることにより企業価値を高く維持することが不可欠ですが、その要請は年々高くなる傾向にあります。
予算管理は、市場からの要請というストレッチな目標を達成するための経営管理ツールの中核として位置付けられます。予算とは本来戦略の実行計画を数値的に反映したものであり、戦略を忠実に数値化することが必要です。しかし、一方で予算が「業績評価のモノサシ(目標)」としての役割も併せ持っている企業が多いのが現実です。しかし、このように予算が2つの役割を果たしていることが予算管理の問題を生じさせている大きな原因となっているのです。というのは、「外部へのコミットメントを達成できるように、できるだけ目標を高いものにしたいという経営者」と「業績責任を負わされることから目標を過小評価しようする部門マネジャー」の間で目標数値のなすり付けあいが起こるケースが多いからです(このような状態は一般に「予算管理のゲーミング」と言われています)。「予算管理のゲーミング」が生じることによって、出来上がった予算が「絵に描いた餅」になったり、社内で消耗戦を繰り広げるのに時間がかかりすぎた結果として「前提条件が変わって役に立たない予算」が残ってしまうというケースが非常に多いのが現状でしょう。ではどうすれば「予算管理のゲーミング」という状態から脱出できるのでしょうか?

図−1 予算管理のゲーミング
3.予算を捨て去ることは難しい
「予算管理のゲーミング」という弊害に着目し、その解決へのアプローチ方法を提示した「脱予算経営(Beyond Budgeting:※1)」という経営管理コンセプトが我が国において近年提唱されてきています。「脱予算経営」とは簡単に説明すると、伝統的な予算管理を捨ててしまい、現場に予算を代替する様々なツール(BSC、CRM、ローリング予算など)を提供することによって、部門の自律に根ざした分権的な経営管理を実現しようという考え方です。既に北欧を中心とした国々では導入している企業もありますが、日本の企業の中で明確に「脱予算経営」を実践している会社はまだ少ないのが現状です。京セラにおける「アメーバ経営(※2)」という経営管理手法は現場単位(各アメーバ単位)の自律性に任せた経営管理という意味では「脱予算経営」と類似したコンセプトとして考えられますが、全てのコンセプトを包含したものではありません。
「脱予算経営」は確かに新たな経営管理のパラダイムといえるのかもしれませんが、その実現には多くの時間とコストをかける必要があります。また、これまで慣れ親しみ組織に浸透している予算管理を一朝一夕に捨て去ることは非常に難しいといえるでしょう。長期間かけて取り組むことも重要ですが、まず現状の予算管理の延長線で適用できることは十分にあります。まずは出来ることから始めていくという姿勢が重要といえるでしょう。
4.「目標=予算」としないことが問題解決のポイント
「予算管理のゲーミング」が起こる根本的な原因は、当初予算が「業績評価のモノサシ(目標)」になっているために、「当初予算と年度目標の一致」が必要になってくることにあります。予算と年度目標を一致させるということは予算の調整機能として伝統的な予算管理のテキストには必ず書かれているといってよいでしょう。しかし、本当に目標と予算は一致させなければいけないのでしょうか。
現在のような競争環境がめまぐるしく変化する時代においては、一年先を見通すことすら難しくなっているため、予算策定にかける工数削減を重視し、できるだけ鮮度の高い情報を利用した精度の高い予算を策定することがより重要となってきています。
本稿でご提案したいことは「業績評価対象の年度目標」と「予算」を切り離した戦略重視の予算管理です。具体的には「‘目標’=‘経営者の思いやステークホルダーからの要請で決まる年度や四半期で達成すべき数字’」と「‘予算’=‘当初予算段階で部門が作成している戦略の実行計画を基にした数値計画’」のギャップが、月次でどの程度縮まっているのかを「行動計画の修正を踏まえた実績予測」によってモニタリングするという考え方です(図−1)。このような管理方式はいわば毎月予算を作成することに近い考え方ですが、「予算管理のゲーミング」を克服するためには極めて重要な取り組みです。目標と予算の不一致を当初から許容することによって、目標に無理に予算を一致させる必要がなくなり、予算の調整の時間を削減することができるため、予算策定期間を短縮することができます。予算策定期間の短縮することができれば、より経営環境の変化を織り込んだ予算を策定することが可能となります。また、実績予測を毎月策定することによって目標へどの程度近づいているかをタイムリーにモニタリングすることが可能となり、目標達成のためにより早期に対策を打つことが出来るようになります。毎月業績の見通しを作成することは負荷もかかり難しいことですが、もともとの予算をベースにして作成すれば、情報システムが高度化している現在では十分に可能です。

図−2 実績予測による月次業績マネジメン ト
以上述べてきたような「期初での目標と予算の不一致」を前提とした経営管理方式を成功させるためには「実績予測の精度向上」が非常に重要です。実績予測の精度が悪ければ会社全体の業績を見誤ることになります。また、予算の本来の役割である予実差異を分析するためのPDCAツールという役目も果たせなくなります。そこで、予測精度向上のポイントとして、以下の2点を指摘したいと思います。
(1)「戦略」と「実行計画」についての徹底的な議論
実績予測の精度は、その数字の裏にある「戦略」や「実行計画」がどれだけ精緻に検討を加えられたものか、によって左右されます。そのため、戦略や実行計画の妥当性や根拠、想定されるリスク要因について月初の段階で徹底的な議論を行うことが極めて重要となります。これまでの予算管理では、戦略レベルでの議論まではある程度行われているものの、実行計画についてまで詳細に議論しているケースは非常に少ないといえます。戦略と実行計画のリンケージの妥当性や、実行計画のスケジュール、責任者などについて事前に徹底的に議論し、明確にしておくことが不可欠といえるでしょう。
(2)月次での「実績予測」の事後的な検証
実績予測の精度向上のためには、実行計画についての事前の議論とともに、事後的な実行計画の検証が非常に重要になります。「実績予測」を実績が下回った際にはもちろん、予測が上ブレした際にもその差異が生じた原因について徹底的に検証することが重要です。上ブレケースにおいても実績との差異について部門に説明を求めることで、保守的な実績予測の策定を防ぎ、より精度の高い実績予測を策定する方向に意識を向けてもらえることになります。
また、検証という意味では年度や四半期の目標に対する月次の進捗状況も合わせてモニタリングしていく必要があります。最終的なゴールが目標の達成であることについては今までの予算管理と大きく変わりません。業績が大きく当初の目標と乖離しているような際には追加的な施策の検討や抜本的な戦略の転換を検討すべきと考えます。
本コラムでは現状の予算管理制度の問題点克服のための方法として「目標と予算の不一致を前提とした業績管理」とそのためのポイントをご提示しました。予算管理の位置付けを変えることは非常に難しいことですが、予算管理の問題点を解決するためには不可欠な取組みと考えます。皆さんの会社でも「‘PDCA力’強化」の一環として、是非とも一度自社の予算の位置付けを再考して頂ければ幸いです。
※1「脱予算経営」ジェレミー・ホープ+ロビン・フレーザー著、生産性出版
※2「アメーバ経営論 ひとりひとりの社員が主役」稲盛和夫著、日本経済新聞社
※コラムは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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近藤 佳史
(株)日本総合研究所 研究員 経営管理クラスター 戦略イノベーションクラスター
専門分野:経営管理、管理会計----------------------------------------
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