[コラム] ウォン高と過剰流動性
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出典:三菱UFJリサーチ&コンサルティングホームページ(http://www.murc.jp/index.php)「国際通貨研究所 国際金融トピックスNo.140/国際通貨研究所 亀井 純野 2007年7月23日付」より
韓国政府は7月12日に政策金利を0.25%引き上げ、4.75%とすることを発表した。韓国では2004年以降ウォン高が対ドル、対円で進んでいる(図表1)。2000年を100とした場合、対ドルで約23%、対円で43%上昇しており(7月18日現在)、実効為替相場(対主要国での加重平均相場、OECD発表)でも14%の上昇となっている。ウォン高を緩やかにするために政府が行っているウォン売り、ドル買い介入操作により外貨準備が積み上がっていることや、短期対外借り入れが増加していることなどにより、国内の流動性が過剰になっている。そのため株式、不動産に投機的な動きが広がっており、物価上昇率が高まっている。

【短期対外債務の急増】
ウォン高との関係で最も注目すべき変化は外貨建て短期対外債務(国際収支では「その他投資」)の急増である(図2)。2006年に短期対外債務は前年から48億ドル増加して、1,140億ドル(約13.7兆円)に達した。これは過去のピークである97年6月水準を35%も上回る残高である。短期対外債務のほとんどは銀行の外貨建て債務である。

短期対外債務が増加した要因として、以下の2つが考えられる。
(1)韓国の大手輸出企業の先物でのドル売りに対する銀行のヘッジ
好調な造船業をはじめとする韓国の輸出企業は、ドル安・ウォン高に対応して先物為替予約によるドル売り残高の積み上げを急いできた。通常の先進国の外為市場では、顧客の先物為替予約を受けた銀行も先物でカバーする(実際にはスポットと為替スワップ取引でカバーする)だけであり、銀行の資産・負債に資金的な変化は生じない。しかし、いまだに非居住者のウォン勘定を規制している韓国では、ウォンと外貨の金利裁定原理による先物為替相場の形成が不完全であり、流動性も乏しい。そのため銀行は本支店取引を含めたオフショアでドル資金を借り入れ、ウォン転換する資金取引によって顧客の先物ドル売りをヘッジしている。
(2)韓国投資家の円売りキャリー取引
低金利の円建てで銀行借り入れを行い、ウォンに転換して株式や不動産に投資する韓国投資家の円売りキャリートレード残高が増加しているといわれている。円建てローンを提供する在韓国の銀行はオフショア市場で円資金を調達している。
【韓国経済の当面のリスクファクター】
上記の現象に伴う今後の韓国経済のリスクファクターとしては、以下の点が挙げられる。
(1)円相場の調整(円高)と円売りキャリートレードの損失
短期対外債務が増加した理由のうち、(1)は反対取引の裏付けがあるという意味でリスク持高の累積ではない。しかし、(2)の円売りキャリートレードの増加は完全なリスク持高であり、今後円相場の円高方向への調整が起これば、円建てローンの債務者の損失となる。更に、この資金の多くが株式や不動産に投資されている場合は、「円高→韓国国内の株式、不動産価格の下落」というメカニズムが働くことになる。
円売りキャリートレードの残高規模を推計することは難しいが、最近2年間で国内に流入した「円キャリートレード」資金は約6兆8000億ウォン(約9048億円)に達するとの推測もあり(注1)、円相場の急激な調整(円高)が生じた場合は、円売りキャリートレードの巻き戻しが国内の株式、不動産市況にある程度の売り圧力をもたらす可能性がある。
(2)国内過剰流動性の懸念
外為市場でのドル買い・ウォン売り介入、短期対外債務の増加などにより、国内に過剰流動性が生じ、株式、不動産に投機的な動きが広がっているとの懸念が韓国内で話題になっている。実際、韓国の株式指標KOSPIベースのPERは過去最高の18倍に上昇している(図3)。もちろん、政府は介入資金の不胎化操作を行っており、7月12日には利上げが発表された。しかし、金利引き上げが円売りキャリートレードの誘因を一層強め、短期対外債務の増加に恕リがっている可能性がある。
ただし、短期対外債務が増加する一方で、政府のウォン高を抑制するドル買い介入により外貨準備も増加していることから、直近の短期対外債務残高に対する外貨準備の比率は2倍強となっている(図2)。このため、通貨・金融危機に発展するようなリスクは低いといえよう。
以上を踏まえ、内外の投資資金や韓国企業の輸出ヘッジに押されて、当面はウォン高基調が継続しようが、現在のエマージング市場への投資ブームと、それを支える世界的な過剰流動性に調整局面が到来した場合、韓国でも円売りキャリートレードの巻き戻しを通じて国内の株価や不動産価格にある程度の下方圧力が加わり、調整局面入りする可能性が指摘できよう。

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