[コラム] 英国の内閣改造はなぜ省庁再編を伴うか
出典:みずほ情報総研ホームページ(http://www.mizuho-ir.co.jp/)「コラム/みずほ情報総研(株) 社会保障 藤森クラスター 藤森克彦 2007年8月14日付」より
安倍首相は、参議院選挙の敗北を受けて、8月下旬に内閣改造を行う模様である。国政選挙後に人心一新を目的に閣僚が刷新されることは、他国でも珍しいことではない。英国でも、ブレア首相の任期中に2度の国政選挙が実施されたが、選挙後には大規模な内閣改造が行われた。また最近では、内閣改造ではないが、ブレア内閣の総辞職によって、ブラウン新首相が率いる新たな内閣が形成された。
しかし内閣刷新の中身をみると、英国と日本では異なる点がある。日本の内閣改造は大臣が交代するのみであるが、英国ではいくつかの省庁再編を伴うことが多い。つまり英国では、大臣が交代するだけではなく、器である官庁までが変わる。
例えば2001年の総選挙後に、ブレア政権は20余りの中央省庁のうち4省の再編を行った。その一つは、年金や福祉手当を所管する社会保障省に、教育雇用省の雇用行政を扱う部局などを統合させた「雇用年金省」の創設である。他方、教育雇用省は、教育行政や生涯教育などを担う「教育技能省」となった。これは、福祉手当受給者の就労支援強化を目指した「福祉から雇用へプログラム」を念頭に置いたものだった。福祉手当受給者を就労に導くには、福祉手当の給付を担う行政機関と、職業紹介など雇用行政を担う機関が一体となって対応した方が効果的だと考えられた。
また、本年6月下旬に発足したブラウン内閣は、貿易産業省と教育技能省の2つの省を廃止して、「イノベーション・大学・技能省」「ビジネス・企業・規制改革省」「子供・学校・家庭省」の三つの省に再編した。このうち、「イノベーション・大学・技能省」は、貿易産業省が所管していた科学・イノベーション局と、教育技能省が所管した高等教育・技能部門を統合したものである。経済の全分野におけるイノベーションを支援するため、大学などの研究基盤を最大限に活用できる環境を整備しようとしている。
このように英国では、内閣改造に伴って政治家主導で省庁再編が行われる。その背景には、中央官庁は各内閣がマニフェストなどに掲げた重要施策の実現に向けて、最も適した形で再編されるべきだという考えがある。特に社会経済環境の変化に伴い、複数省庁に関係する重要課題は増えている。省庁間の連携よりも、再編の方が重要課題の解決につながるのであれば、省庁再編もいとわない。これは、民間企業が経済環境の変化に合わせて機動的に組織を再編するのに似ている。
もっとも、頻繁な省庁再編は、オフィス移転に伴うコスト増を招く懸念がある。この点、筆者が英国官僚にヒアリングしたところでは「省庁再編に合わせて部局の指揮命令系統が変わるだけで、オフィスの移転を伴わないことも多い」と聞いている。
さて日本では、「省庁再編は国家百年の計」という見方が強い。実際、2001年に大規模な省庁再編が行なわれたが、省庁間の利害調整をはじめその準備には数年を要した。内閣改造のたびに重点施策に合わせて省庁が再編される英国とは異なっている。
こうした両国の違いは、英国では日本に比べて、官僚機構は国民のためにあるのだから民主的に選ばれた政治家が官僚機構をコントロールするのは当然だという意識が根づいていることが大きいように思う。このため首相が、国民から信任を受けたマニフェストの実現に向けて省庁再編が必要と判断すれば、当たり前のようにそれを行なう。その代わり、マニフェストに掲げた公約を実現できなければ、政治家は次の選挙で責任をとらされる。
日本においても、環境問題やフリーター対策、少子化問題など単一省庁で政策を完結できない重要課題が増えてきた。省庁間の政策調整を担う内閣府などで対応することが妥当な場合もあれば、省庁再編による対応の方が適している場合もあるだろう。内閣改造を機に、どのような優先課題を、どのような体制で行なうのが妥当なのか、検討する必要があるのではないか。
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