[コラム] 対外投資の日米比較
2007年08月24日 08:31更新
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出典:三菱UFJリサーチ&コンサルティングホームページ(http://www.murc.jp/index.php)「国際通貨研究所 国際金融トピックスNo.142/国際通貨研究所 開発経済調査部長 佐藤 真 2007年8月13日付」より
我が国は、2006年末で211兆円(約1兆8千億ドル)の対外純資産を保有する世界最大の債権国であり、対外資産負債から発生する利息や配当金などを集計したネット値である所得収支は、昨年通年で約14兆円の黒字を計上するまでに拡大し、経常黒字への貢献という点では、貿易・サービス収支での黒字を凌駕している。直近の統計である本年5月も1兆7800億円と今年3月についで二番目の大きさとなるなどその拡大基調は継続している。この所得収益(海外からの受取利息や配当)の約4分の3を稼ぐのが証券投資収益であり、特に債券投資からの利息収入が大きな割合を占めている。日本の対外資産(グロス)は2006年末で558兆円あり、そのうち証券投資が279兆円、外貨準備が106兆円となっており、米国財務省証券などで運用されている外貨準備も証券投資と考えると約70%が証券投資である。このようなポートフォリオの利回りである対外資産収益率は2005年で3%前半であり、4〜5%程度の利回りを確保している米国や英国などと比較しその収益率の低さが指摘されている。日本の対外資産ポートフォリオは、証券投資とくに中長期の債券投資に偏重しているが、これは投資の担い手が金融機関等の機関投資家あるいは投資信託(個人投資家)であり、その運用も国内の運用利回りとの比較の上で行われることから、直利志向が強く利回りの確定した外国債券を選好する傾向が強いことを物語っている。特に最近の外貨証券投資の拡大は、長期化する低金利下で行き場のない資金が高い金利を求めて海外に向かっていたことが主因であり、円の低い運用利回り(=資金の機会費用)を考慮すれば、決して悪いパフォーマンスではなかろう。
一方、米国は、世界最大の純債務国でありその額は2006年末で約2兆5000億ドルにのぼる。日本とは対照的に米国は巨額の経常赤字を抱えており、この赤字を海外からの資本流入によりファイナンスしているのであるが、驚くべきことに2002年から2006年の5年間にわたる米国経常赤字累計は約2兆8千億ドルにまで膨れ上がっているにも拘わらず、2002年から2006年までの対外債務の増加額はわずか約4500億ドルにとどまっている。加えて、所得収支もこれだけの対外債務を抱えながら2006年も通年で360億ドルの黒字となっているのである。

(出所)The U.S. Department of Commerce, Bureau of Economic Analysis, Balance of Payments, The Federal Reserve Board, Exchange Rates and International Data
米国のドル建て対外純債務が経常収支赤字の累積ほどには増加しない要因のひとつは、海外に保有する外貨建て資産のドル換算額が、ドル安によって増加するためである。表を見てわかるように1990年代終わりから2001年にかけて対外債務が急膨張したが、2002年以降は、経常赤字が増加傾向を続けている一方、純債務増加が頭打ちになっていることが見てとれる。
一方、所得収支が黒字となっている大きな理由として、米国の負債(調達)が、国債・社債など債券が約3分の1を占め、高い信用力を背景に低いコストで資金調達をしている一方、資産(運用)を見ると株式投資、直接投資といった比較的リスクの高い運用が約半分を占めこれらが高い運用利回りを確保していることが挙げられる。日本では7割を占める債券投資はわずか1割にも満たないという日本と全く異なる資産負債構造である(2006年末)。また、対外直接投資の利益率が外国資本による対米直接投資のそれを大きく上回っていることも要因となっている。さらに資産、負債を投資主体別で見ると資産の9割以上が民間に保有されている一方で、負債はその約2割を外貨準備など外国の公的機関から調達している。外貨準備などを保有する海外政府機関などの投資家は一般的に利回りより安全性や流動性などを重視する傾向が強い。要すれば、米国の対外資産負債は、基軸通貨国としてゆるぎない国際的な地位と信用を獲得しているからこそ持続できるのである。
日米を比較するとそれぞれの課題が浮かび上がる。まず、日本は将来、少子高齢化社会に伴う貯蓄率の低下や海外への生産シフトによる貿易黒字の減少が予想されており、現在のような資金フローはいずれ大きな転機を迎えよう。その場合は、家計部門主体の証券投資中心からM&Aを含めた企業部門主体の直接投資へのシフトが必要となろう。一方、米国は基軸通貨国として現状はうまく資本市場が機能しているものの、貿易赤字拡大と所得収支黒字の減少傾向に変化は見られず、ドル安によりどうにか対外債務残高の増加に歯止めをかけている状況である。ドル安によって対外債務残高が増えないということは、裏を返せば海外の投資家が対米資産で為替差損を蒙っていることにほかならない。海外投資家は、ドル下落に見合う金利プレミアムがなければ資金を他の投資先へ振り向けるはずであり、そうしたプロセスの中で基軸通貨としての信認が揺らぐ恐れもあろう。これまでのところは資本の流れに大きな変化は見られていないが、ここにきては米国のサブプライムローン問題が表面化し、ヘッジファンドの破綻や株価下落など米国の資本市場に動揺が見られるとともにドル相場も軟化傾向を示している。今後の市場の動きには十分注意する必要があろう。
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