[コラム] 非正規雇用の増大が正規雇用にもたらすもの〜マネジメントの現場から〜
出典:みずほ情報総研ホームページ(http://www.mizuho-ir.co.jp/)「コラム/みずほ情報総研(株) 戦略コンサルティング室 加藤 修 2007年9月11日付」より
ある特別養護老人ホームでのこと。同ホームでは経営の効率化のため、1年契約の非常勤職員の割合を高める人事政策をとっている。非常勤職員といっても、勤務時間・勤務日数とも正職員となんら変わるところはない。監督者は正職員だが、現場第一線の業務では、両者が混在している。以下は、現場の正職員の方にうかがった話である。
「少ない人数で現場を回していくのは大変そうですね」
「毎日、残業になります。しかも、残業手当もつけづらい雰囲気があります」
「非常勤職員の方も、同じ状況なのですか」
「非常勤職員にはなるべく残業をさせないようにしていますし、させた場合はきちんと手当が支払われているようです」
「有給休暇はどれくらい取れますか」
「正職員は、有給休暇まではなかなか取れません。しかし、非常勤の方には、完全消化してもらっています。最近は『退職補充は非常勤で』という方針のため、現場の正職員にかかる負荷が大きくなっていると感じます」
これは、誰に命じられたわけでなく、現場の正職員が自発的に行っている現場マネジメントの実態である。そこには、正職員が自らの仕事上の責任をより重く定義し、自らの労働条件の一部を犠牲にすることで、非常勤職員との処遇格差に合理的な理由づけを行っている姿がうかがえる。現場正職員によるこの悲しくも「適切」な行動が、均衡処遇の問題の顕在化を抑止している面があることは否めない。正規雇用と仕事上の区別がないままに非正規雇用が拡大していくと、経営者の側に特段の意図がなくても、正規雇用者の労働条件にも好ましからざる影響が及んでしまう一例である。
それでは、均衡処遇の問題を強く意識し、「これは正規雇用の仕事、これは非正規雇用の仕事」というような区別を明確にすればうまくいくのだろうか。このような線引きをすることによって、たとえば短時間でも意欲と能力をもって働きたい人材が十分に活用されなくなる。そのうえ、次のような別の大きな問題も生じてしまう。
今度は、ある独立行政法人でうかがった話である。独立行政法人は、毎年一定のコスト削減を行うことを求められており、派遣や業務請負の活用を進めているところが多い。同法人でも、これまで若手正職員の業務とされていたものが派遣等に委ねられ、派遣等が行う業務を管理することが若手正職員の業務になってきたという。これは、職業能力開発の面で、従来と決定的に異なる状況が生まれていることを意味する。すなわち、基礎的な実務を担当する機会が失われつつあるということである。
たしかに、その種の業務をただ処理するだけであれば、さほど高いスキルや経験は必要ないかもしれない。また、実際に担当しなくても多少の勉強をすれば、業務内容の理解も表面的にはできるだろう。しかし、実務経験があるのとないのとでは、管理的業務を行ったり、関連する高度業務を行ったりするうえで、応用力や瞬時の判断力に大きな違いが生まれはしないか。一定年齢以上のサラリーマンは、こうした下積み仕事から職業生活をスタートし、OJTを通じ技能形成を図り、だんだんと難しい仕事を任されてきた。そのOJTの機会が失われることに、懸念はないのだろうか。
非正規雇用の増大は、格差の拡大をまねき社会の安定性を崩壊させるという、マクロ的・間接的なルートを通じてのみならず、以上のようにミクロ的・直接的にも、正規雇用に影響を与える。企業がCSRやワークライフ・バランスを唱え、知識社会における人的資本の充実を重視するのであれば、足許のこうした問題にもっと目が向けられるべきと考える。
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