[国際金融トピックスNo.148]注目すべき中東湾岸産油国を巡る資金の動き
出典:三菱UFJリサーチ&コンサルティングホームページ(http://www.murc.jp/index.php)「国際通貨研究所 国際金融トピックスNo.148/国際通貨研究所 開発経済調査部 主任研究員 糠谷 英輝 2007年11月19日付」より
原油価格の高騰が再び始まり、米原油先物相場は期近物が1バレル90ドル台に乗せる状況になった。「1バレル=90ドルの水準が今後も続けば、全世界の原油収入は年間約2兆8,000億ドルとなり、ドイツのGDPに匹敵する規模となる。」(注1)そしてその巨額のオイルマネーを手にするのは、主にサウジアラビア、アラブ首長国連邦、クウェートといった中東産油国である。
今回の原油価格上昇の背景としては、その根底には中国など新興国のエネルギー需要が急増していること、米国の製油能力不足、米国の原油在庫水準の低下などがあるが、そうした需給要因よりもむしろ米国のサブプライムローン問題、米国の利下げ、ドル安といった要因から投資資金が原油市場に流入した影響が大きいと言われている。ヘッジファンドなども原油投資を増加させているが、オイルマネーはそのヘッジファンドなどにも投資されており、したがってオイルマネーが自己増殖している部分もある。
巨額のオイルマネーを手にした中東産油国であるが、その中心になる湾岸協力会議諸国(GCC諸国=サウジアラビア、クウェート、アラブ首長国連邦、バーレーン、カタール、オマーンの6カ国)の経済は活況を呈している。2006年のGCC諸国の実質GDP成長率は5.9%であり、IMFの見通しによれば、2007年、2008年は若干減速するものの、両年ともに5.4%と高い経済成長が見込まれている。
GCC諸国の経済は、アラブ首長国連邦のドバイ首長国やカタールのように経済多角化に成功を収めつつある国も出てきているが、全体的に未だに石油・天然ガスなどの炭化水素に依存した構造にある。このためGCC各国は今回の原油価格上昇によるオイルマネーの増加、好調な経済成長といった機会を捉えて、経済多角化を積極的に進めている。また経済の多角化とともに、電力、造水、交通網、不動産開発といったインフラ整備を急速に進めている。これは人口の増加や就業機会の提供といった直面する問題を解決するためにも不可欠な課題になっている。
経済多角化などのための産業投資、インフラ整備投資には巨額の資金が必要となる。GCC諸国の非石油・ガスの産業プロジェクト向け投資は1,150億ドルを超えており、さらに商業用、住居用不動産投資は建設中・計画中のもので885件、金額にして1兆ドルを上回っている。不動産投資に道路、橋、空港、港湾などのプロジェクトも加えれば、件数は1,654件、投資額は1兆2,500億ドルの巨額に上っている(ドバイのProleads社データ)。 こうしたプロジェクトの資金にはオイルマネーも充てられているが、民間プロジェクトの場合には一般のプロジェクトと同様に資金調達がなされている。
またこのように活況を呈するGCC諸国では対内直接投資も急増している。UNCTADのWorld Investment Report 2007によれば、GCC諸国への対内直接投資額(フロー)は2007年には前年比23.1%増加し、324億4,200万ドルとなった。GCC諸国では経済多角化のために国営企業の民営化を進めており、IPOも増加している。また外資規制の緩和、金融市場整備を進めることで、外からの資金流入増加を図っている。さらにプロジェクトの資金調達で利用されるイスラム債券(スクーク)の起債も急増しており、スクークを購入する投資家では欧州の投資家のシェアが高い。
GCC諸国はこのように外からの資金を引き付けているが、それでは彼らが稼いだ巨額のオイルマネーはどのように使われているのだろうか。輸入、国内開発資金、外貨準備の積み増しなどにも利用されるが、海外投資に向けられる部分が大きい。これを制度的にみれば、原油輸出収入は国営の投資機関に入り、投資機関から歳入として政府に移されることになる。またGCC諸国の予算案ではその前提となる原油価格が低め(保守的)に設定されていることから、原油価格上昇による超過収入は投資機関に残り、海外投資に向けられる資金が増加することに繋がっている。
こういった投資機関は政府投資基金(SWF:Sovereign Wealth Fund)として、中国の登場などをきっかけに最近、注目を浴びることとなっている。SWFの運用実態は公開されていないため正確な情報の把握は困難である。世界全体のSWFの残高は2兆5,000億ドル程度と推定されており、そのうち最大のSWFがアラブ首長国連邦のアブダビ投資庁(ADIA)で運用残高は5,000〜8,750億ドルと推定されている。これにサウジアラビア、クウェート、カタール、ドバイのSWFを加えたGCC諸国のSWFの運用残高は1兆〜1兆5,000億ドル程度とみられ、世界全体のSWFの過半を占める状況である。またSWFの投資に当たっては、一部、外部からの資金調達も行っている。モルガン・スタンレーの推計ではSWFの運用額は2015年には12兆ドルと米国の経済規模と同程度になり、その大半はGCC諸国のSWFになると予測している。巨額に上るSWFの投資を巡っては、国際的な摩擦を引き起こす事例も増えてきている。
以上、概観したように、GCC諸国は手にした巨額のオイルマネーで対外投資を増加させるとともに、同時に国内開発計画に当たってさらに外からの資金調達も増加させている。要すれば資金運用、調達両面において、国際金融市場におけるGCC諸国の存在感が急速に高まっているのである。
SWFの投資には膨大な原油輸出収入を国外に投資することにより、国内の過剰流動性を抑制する効果、投資収益を増加させることで将来的に収入減となった場合の備え、さらに経済多角化の準備として欧米一流企業のブランドや技術の獲得などの効果が見込まれる。一方、国内開発計画は、人口増等に対応した必要な投資と経済多角化のための投資があり、後者は原油価格が高いうちにと時期を急ぐことにより、現時点ではバブル的な側面も指摘されている。
このように中東湾岸産油国を巡る巨額な資金の流れは意味を持つものではあるが、それは急増する原油輸出収入があって成り立っているものである。そしてこれが国際金融の流れに組み込まれて世界経済が回っている。したがって仮に原油価格が急落した場合、あるいは政治的要因や地政学的要因で原油生産に支障が出た場合には、資金の規模が大きいだけに、中東湾岸産油国のみではなく、国際金融市場、世界経済を混乱させる原因となることが懸念されるのではないだろうか。
関連記事
|
|

Powered by newsing |
|
コラム最新記事
|