[国際金融トピックスNo.149]米国住宅不況の底入れ時期を探る
2007年12月10日 08:10更新
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出典:三菱UFJリサーチ&コンサルティングホームページ(http://www.murc.jp/index.php)「国際通貨研究所 国際金融トピックスNo.149/国際通貨研究所 経済調査部長・チーフエコノミスト 竹中 正治 2007年12月7日付」より
サブプライム危機による金融機関の損失拡大報道が続き、第4四半期も追加損失の計上が報告される。こうした損失計上には流動性の乏しい複雑な証券化商品の価値評価をどのように行うべきかを巡るかなり技術的な問題を孕んでいる。しかし、米国住宅不況に底打ちの動きが見えない限り、今後とも損失拡大のリスクが高いと考えておくべきであろう。本稿では住宅投資減少が横ばいに転じる時期を来年の半ばと予想する。しかし住宅価格の調整にはより長い時間がかかる可能性が高い。
【住宅建設は2008年半ばに底打ちか】
住宅投資は2006年第2四半期に前期比年率で二桁パーセントの減少に転じ、以来今年の第3四半期まで二桁パーセントの減少が続いている。住宅着工件数(年換算季節調整後)で見ると、今年10月までの過去12ヶ月の対前年同月比での平均減少率は24%に及ぶ。 仮に同マイナス20%で今後も減少を続けると仮定すると、2008年9月には年率換算1百万戸を割れ込むことになるが、これは1991年の不動産不況時の水準である(図表1)。当時に比べた人口の増加も勘案すれば、そこまで落ち込めば調整は十分済んだと見なせよう。すなわち、住宅投資が現在のペースでの減少・調整を続ければ、2008年の半ばには減少が一服、少なくとも横ばいに転じる可能性が高いと予想する。
【より時間のかかりそうな住宅価格の調整】
しかし、より調整に時間がかかると思われるのは住宅価格である。図表2はS&P/ケース・シラー住宅価格指標(2007年9月時点)である。総合指標は前年比4.9%程度の下落を示しているが、下落はまだ始まったばかりである可能性が高い。
その理由のひとつは家賃に対する住宅価格倍率が大幅に割高な水準に高止まっていることである。図表3は連邦議会経済合同委員会(“The Subprime lending Crisis”2007年10月)に掲載された家賃に対する住宅価格の倍率推移指標である。言うまでも無く、この倍率が高いほど価格が割高であることを示す。 住宅価格がファイナンス金利の低下などでバブル的な高騰をしても、家賃の支払い可能水準は、かなりの程度において家計の所得に依存するため、家賃の変動率は低い。従って、住宅価格の割高・割安を判定する上で家賃倍率を使用することに理がある。
この家賃に対する住宅価格倍率は2000年代の住宅価格高騰で急上昇し、過去のトレンド上限から20〜30%割高な水準にある。同指標が過去の上限近くまで下がるには、家賃が不変として、住宅価格は現状水準から20%以上も下落しなくてはならない。住宅価格の調整がまだ始まったばかりであると言えよう。
【住宅債務不履行、債務者破綻のピークは来年後半か】
また、住宅ローンの債務不履行、それに続く差し押さえ・抵当物件処分の増加も未だピークは見ていない。図表4は住宅ローンの支払い遅延・不履行率の推移である。サブプライム・ローンのうち、金利見直し条件付ローン(ARM:Adjustable Rate Mortgage)の不履行率が急騰している。また図表5はサブプライム・ローン実行年次毎の不履行率の推移である。2005年実行分のローンについてはピークアウトの兆しが見えるが、2006年、2007年実行分の不履行率はまだ上昇を続けている。ARMの平均的な当初期間(金利のみの支払いなど債務者の支払い金額を低く設定した期間)は2年程度と言われており、2008年を通じて「当初期間終了→不履行」となる案件が多数出ると予想される。
更に問題なのが、不履行発生に続く差し押さえ・抵当物件処分の影響である。図表6から差し押さえの増加が不履行の増加に多少の時差を伴って増加していることが判る。こうした差し押さえ・抵当物件処分の増加が、その地域の住宅価格を更に押し下げることは不可避であろう。
悪材料の中で楽観的な要素を捜すならば、これまでの債務破綻の増加がARM形態のサブプライム・ローンにほとんど集中していることである。サブプライム・ローンの残高は1.3兆ドルと言われ、仮にその20%が債務破綻し、貸手、あるいは投資家の回収率が50%だと想定すると、損失は1300億ドル(14兆円)ほどになる。これは90年代初頭から2000年代にかけて邦銀が処分した損失額約100兆円に比較すれば規模は小さいと言える。
また、12月6日に米国政府はARMの当初期間の金利を一定条件の債務者に対しては5年間凍結・延長することで住宅サービス会社、並びに投資家と合意したという救済策を発表した。しかし、この救済策の対象となる債務者、対象ローンの規模は現時点では定かではない。政府は財政資金での救済はしないと明言している。また、証券化商品として購入した世界の無数の投資家層が負担(損失)について合意できるとも思えず、真に効果的な規模の救済策になるか疑問である。
住宅価格が全米平均でピークから20%も下落するような戦後未曾有のことが生じれば、価格の下落がARMサブプライム以外の債務破綻も引き起こし、差し押さえ・抵当物件処分の増加が更に住宅価格の下落を招くという悪循環も可能性としてはゼロではなかろう。そうした最悪の事態に陥らない限り、住宅価格の下落は2008年後半から2009年かけて底打ちを見ることになるかもしれない。


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