[コラム]公的資産マネジメントの動向と今後の展開 〜全庁的な資産評価の体系構築を〜
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出展:日本総合研究所ホームページ(http://www.jri.co.jp/)「研究員のココロ (株)日本総合研究所 主任研究員 小松 啓吾 2008年1月11日付」より
■ はじめに -CREとPRE-
近年、企業経営者の間で、「CRE(Corporate Real Estate:企業用不動産)戦略」が重要なテーマとして取り上げられるようになってきました。これは従前、ともすれば事業内容に比して過剰に保有しがちであった企業用不動産を経営戦略の視点から捉え直して、保有・運用方法を合理化することで、企業価値の最大化を図ろうとするものです。これに対して、国や地方自治体などが所有する公的不動産に関しては、「PRE(Public Real Estate:公的不動産)戦略」という考え方が徐々に広まりつつあります。
近年は国や地方自治体の公会計において、民間の視点や発想に基づく経営の効率化が求められるようになってきました。夕張市に代表されるような自治体の経営破たんが深刻な問題となっている状況では、各団体の単年度の収支である「フロー」だけを改善しようとするのではなく、その団体が所有する資産・負債などの「ストック」の状況を正確に把握し、財政状態を抜本的に立て直していく必要があります。
こうした「ストック」の観点から経営の効率化を図ろうとするうえで、公的資産の大半を占める不動産の保有・運用の合理化は避けて通れない手段です。余分な不動産を保有すればそれだけ維持管理コストがかかりますが、逆に売却・賃貸などの処分を進めれば売却益や貸付料収入を得ることができます。また、施設の用途転換をうまく進めれば、新規に整備するよりもコストを低く抑えられる可能性があります。このような利点に着目して、今まで部門別に縦割りで管理されていた公的不動産の状況を全庁的に把握し、公的団体の経営資源として有効活用しようとするのが、PRE戦略の狙いです。
■ 公的不動産が抱える共通課題と最近の動き
公的不動産の種類は用途(公園、社会福祉施設、庁舎など)や所有者(国、地方公共団体、関連団体など)によって様々ですが、全般的に共通する課題と主な取り組みを列挙すると、主に以下の通りです。
(1) 厳しい財政事情と維持管理コストの増大・・・PFI、指定管理者制度の活用
国及び地方自治体の財政状況は近年ますます悪化しており、歳出削減を通じた財政運営の効率化が求められています。その一方で、戦後の経済成長にあわせて取得・整備を進めてきた公共施設の多くが老朽化しており、維持管理や改修に係るコストの増大が厳しい財政事情をさらに悪化させる要因となっています。
現在、国及び地方自治体では、新たな公共施設の整備にPFI(Private Finance Initiative:民間資金等の活用による公共施設の整備・運営)を導入し、歳出の合理化とサービス水準の向上に取り組んでいます。さらに、地方自治体では指定管理者制度を活用して、既存施設の管理運営についても効率化を進めています。PFIの導入件数は290件(平成19年10月22日現在、内閣府調べ)、指定管理者制度の導入件数に至っては6万1千件超(平成18年9月2日現在、総務省調べ)に及んでいます。
(2) 社会情勢の変化等による稼働率の低下・・・遊休資産の処分等の推進
21世紀に入って我が国では人口減少と少子高齢化が進み、特に地方において顕著な傾向が見られます。このため、地方を中心に公営住宅や教育文化施設などの需要減少が進み、稼働率の低下が今後大きな問題となる可能性があります。一方で、高齢者福祉サービスなどの需要増加へどのように対応していくかが課題となっています。
これに対して国は、平成18年に財政制度等審議会が答申した「今後の国有財産の制度及び管理処分のあり方について」を受けて、東京23区内の国家公務員宿舎の集約立体化と宿舎跡地の積極的な売却を進めています。地方自治体においても、東京都が都営住宅の建て替え事業において定期借地権制度を活用し、余剰容積部分への民間収益施設の立地を誘導するなどの取り組みが見られます。いずれも都内の事例ですが、今後は地方の中核都市などにおいても、公的不動産の流動化が進む可能性があります。
(3) 行政組織のスリム化に伴う人材の不足
国や地方自治体の厳しい財政事情を背景に行政組織のスリム化が求められ、公務員の定数削減が進んでいることから、公共施設の管理運営に十分な人員を割り当てることが困難となりつつあります。加えて、いわゆる「団塊の世代」の大量退職により、これまで公共施設の管理運営を担ってきたベテラン職員の不足が懸念されます。限られた人材を有効に活用して、公共施設を効率的に管理していくことが求められます。
最近は、上記で述べたPFIの導入や指定管理者制度の活用によって、民間への業務委託が進んでいます。単に人手を借りるだけではなく、民間ならではのアイデアによって業務のやり方そのものを工夫し、管理を効率化していくことが期待されます。
■ 公的不動産の特徴と留意点
公的不動産について、こうした官民パートナーシップによる課題解決を考えるとき、企業用不動産とは異なる以下の特徴に留意する必要があります。
(1) 収益獲得を直接の目的としていない
公的不動産は基本的に、公共福祉や行政事務の用に供されるものです。民間の住宅や商業施設と異なり、売却や賃貸によって収入が得られるものは一部に限られます。収益を生むものとそうでないものとの区分を明確にし、その区分に応じた所有・運用方法を考える必要があります。
(2) 所有者の資金調達と直接連動しない
企業用不動産の場合、貸借対照表の借方に取得価額ベースで計上され、さらに建物や工作物は減価償却の手続によって損益計算書に費用配分されるのが原則です。このため、不動産の保有状況は貸借対照表の財務比率や損益計算書の利益率に反映され、最終的に企業の資金調達能力を左右します。
これに対して、国や地方自治体の資金調達は、基本的に国家財政・地方財政レベルでの信用補完がなされているため、公的不動産の保有状況が資金調達に与える影響は非常に少ないのが現状です。
ただし、今後は個別団体の信用力に応じた債券の格付けが進む可能性があるため、長期的には財務戦略と不動産戦略の連動を考えていく必要があります。
(3) 保有期間中の会計処理方法が異なる
企業用不動産の場合、減損会計が導入されたことにより、不動産の収益性が大幅に低下した場合には減損損失を認識する必要があります。このため、企業用不動産の保有状況は、その企業の経営成績に大きな影響を及ぼします。
これに対して、公的不動産は、保有期間中における時価変動の影響を受けることが基本的にないため、たとえ不要な資産であっても、時価下落時は保有を継続した方が有利となります。
しかし、近年は公営企業や独立行政法人において、民間企業と同様の減損会計処理が求められるようになってきました。また、地方自治体でも貸借対照表の作成が進んでおり、今後は上記で述べた債券の格付けに積極的に活用されることが考えられます。
(4) 公的不動産に固有の制約が存在する
公的不動産の処分・活用にあたっては、国有財産法や地方自治法など、所有者の属性に応じた法律の規制を受けます。また、法律上は処分可能であったとしても、不動産を手放すことについて議会や住民の理解が得られず、処分が進まないという場合も考えられます。個別の不動産ごとに、法制度や取得の経緯、利用目的などに照らして方策を考える必要があります。
■ 公的不動産に全庁的な資産評価の仕組みを
企業用不動産がそうであったように、公的不動産の評価額は取得価額が基本であり、時価との差額が問題になるのは売却・貸付など限られた場面のみであったといえます。このため、街中の一等地にある換金価値の高い低未利用地を継続保有していたり、逆にバブル期に取得・開発した住宅用地が値下がりで簿価割れを起こしていたり、といった状況が大いにありえます。今後は財政運営の健全化に向けて、公的不動産の「ストック」としての状態を的確に把握し、保有・運用方法の合理化を図るべきです。
こうした公的不動産のマネジメントにおいては、不動産の経済価値を適切に評価することが重要です。個別不動産の物理的特性、用途の可能性、制約条件などを踏まえて、継続利用・用途転換・売却・賃貸などの方針を比較検討し、最適化を図ることで、歳出削減やサービスの向上を見込むことができます。
これまで公的不動産の管理は、基本的に庁内の各部門が個別に、単年度主義の会計で行ってきました。このため、公的団体が不動産の取得にどれだけの費用を投じたか、維持管理費が累積でいくら発生しているか、その成果としてどの程度有効に活用しているかをリアルタイムに把握することが困難となっています。今後は、全庁的な不動産戦略のシナリオに合わせて具体的なシミュレーションができるよう、不動産の取得・利用の状況や維持管理の状態を網羅的に把握できるような資産評価の仕組みが必要です。
財政状況の悪化や人口減少など、公的不動産を取り巻く環境は年々厳しさを増しています。民間市場で培われた不動産戦略のノウハウを活用し、所有・運用の合理化を進めていくことが求められます。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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小松 啓吾
(株)日本総合研究所
主任研究員 地域戦略クラスター
専門分野:PFI、市町村合併、地域振興、都市開発など
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