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[コラム:研究員のココロ]パート労働法の改正から始まる人材マネジメント

2008年01月28日 17:46更新 前の記事 次の記事  コラム・人事・組織戦略一覧
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出展:日本総合研究所ホームページ(http://www.jri.co.jp/)「研究員のココロ (株)日本総合研究所 研究員 海老澤 淳 2008年1月28日付」より


改正パートタイム労働法が間もなく施行されます

 2008年4月1日より、改正パートタイム労働法(注1)が施行されます。わが国においては、雇用者の実に4人に1人がパートタイム労働者であり(注2)、この改正に伴って、パートタイム労働者を多く雇用している卸・小売業やサービス業をはじめとして、多くの企業に影響があるのではないかと思います。今回はこの改正パート法について、改正の内容を踏まえながら、パートタイム労働者を含めた企業全体の人材マネジメントの方向性について、考えてみたいと思います。
 法改正の具体的な内容については他に譲りますが、改正法では、いわゆる「正社員並みパート」について、その処遇を正社員と比較して「差別的取扱いをしてはならない」としています。
 厚生労働省の「平成18年度 パートタイム労働者総合実態調査」によると、パート労働者等を雇用している事業所のうち51.9%が、「職務が正社員とほとんど同じパート労働者がいる」と回答しています。この結果から、本改正によってかなりの企業で何がしかの対応が必要になるのではないかと予測されます。

法改正によって人件費は上がるのか

 このように、パート法の改正では、特に正社員並みパートについて、正社員との格差がないような制度設計を求めているのですが、具体的に差別的扱いを禁止するガイドラインとして、「例えば基本給については、パートタイム労働者と通常の労働者の1時間あたりの賃金が同額になるように設定してください」(厚生労働省パンフレット、注3)という例示があります。法改正に対して、何も対策を取らずにいけば、企業としては単なるコスト増加要因としかなりえません。これを、企業におけるトータルマネジメントを考える機会としてみたいと思います。
 人件費の増加要因に直面した企業にとって取りうる施策は、単純化すれば(1)人件費を抑える(元に戻す)か、(2)人件費増を吸収できるだけの生産性を上げるかのいずれか/或いはその両方ということになります。
 まず、人件費を抑えるにはどうすればよいか。第一に考えられるのは、正社員並みパートを無くしてしまうことです。例えば、正社員と同じ職務であれば、細分化して複数のパートに振り分ける。或いは、契約期間を完全に有期限とし、定期的に人員を入れ替えるといったことがあります。また、人件費抑制として、さらに正社員を減らしてパートを増やすということもあるでしょう。
 しかし、どちらも現実的ではないと考えられます。まず、正社員並みパートを無くして、職務を細分化することで、今まで以上の管理コスト、或いは情報伝達のコストが発生します。また、有期限で入れ替えるとなれば、仕事の熟練が形成されず、その分生産性が落ちることになります。また正社員をさらに削減するといっても、そもそもパート労働者の活用の最大の理由が「人件費の削減」にあり(注4)、現時点でもぎりぎりまで正社員を減らして業務を行っていると考えられ、これ以上の削減は現実的ではありません。そもそも、正社員の削減によりパート労働者が増えることになれば、それだけ正社員並みパートが生まれる可能性があり、本末転倒といえるでしょう。このように、現時点でかなり切り詰めた人件費を、さらに抑えていくのは現実的ではないということになります。
 それでは、人件費増を吸収できるだけの生産性を上げるためにはどうすればよいのでしょうか。

パート労働者だけの問題ではない

 パート労働者の活用によって、企業は業務量の波に合わせた人員の適正配置を行い、人件費の抑制を図ってきました(図1参照)



(図1:これまでのパート活用イメージ)


 ここに、正社員並みパートという新たな人材フレームを投入したとき、企業としてどのような生産性向上が可能でしょうか。
 まず、第一に正社員並みパートの投入により、ある程度纏まった責任のある仕事を任せることが考えられます。それにより、正社員との仕事の棲み分けを変え、より高度な仕事を任せることも可能になります。また、そのような権限委譲により、モチベーションを高めて生産性を高めることも期待できます。(変化1)
 次に、既存のパート労働者については、これまで以上にメッシュの細かい時間管理を行うことが必要になると思われます。つまり、日々の(または時間毎の)業務量をより厳密に把握して、無駄な投入量を限りなく排除した人員配置をすることが求められます。(変化2)
 また、正社員も、パートへの権限委譲に伴い、仕事を変化させていかねばなりません。上記のように、既存パートに対する最適な配置を考えることがより必要となります。そして、正社員の仕事として何より大切になるのが、それら業務量そのものを出来る限り平準化させるような業務設計を考えること、ではないでしょうか。(変化3)


(図2:仕事の変化とこれからの最適なパート活用イメージ)


現場主導の業務設計

 平準化する業務設計を考えるにあたり、正社員とパート労働者の仕事の区分を再構築することからはじめたいと思います。まず、パート労働者を使う企業の立場で考えた時、正社員にしか出来ない仕事とはそもそも何でしょうか。例えば、機械の操作や複雑なプログラムにより、長い育成時間が必要なケースもあるでしょう。また、高額な金銭を扱う、或いは高度に機密性の高い情報を扱うことなども考えられます。それらを包括して、「熟練度の高い仕事」と呼びましょう。
 一方、パート労働者の立場で考えたときに、パートをせざるを得ない制約の大きな要因は「時間」と「場所(勤務地)」です(注5)。子供を持つパート労働者が、学校に行っている時間だけ働きたいというニーズは大きいですし、配偶者がいる中で遠隔地への転勤というのも希望するところではないでしょう。
 このように整理すると、正社員とパート労働者の仕事の分類が出来るようになります。(図3)



(図3:業務の分類)


 パート労働法の改正によって企業、或いは現場の正社員が考えなければならないのは、このパート労働者と正社員の仕事を分けているラインを引きなおすこと、そのものではないでしょうか。正社員=主、パート労働者=補佐という関係ではなく、パート労働者に、責任と権限を持って熟練した業務を行ってもらうように教育する。或いは、どのようにその制約条件を少なくしていくのかを考える、それが正社員の仕事となっていきます。
 熟練を形成する要因は、業種や置かれている環境により様々です。しかも、パートの業務範囲は、現場の管理者でなければ、微妙な差異が判りにくいものだと思われます。そのため、より現場のマネジメントを巻き込んで、変革していくことが必要になります。


おわりに

 最後に、パート労働者についてはもう一つ、厚生年金の適用という大きな流れがあります。現在の厚生年金の適用基準である「通常の就労者の所定労働時間の4分の3以上」を、基準を下げてもっと適用者を増やそうというものです。2007年春に出された被用者年金一元化法案では、その適用対象者が10万人程度とかなり絞り込まれた内容でした。しかし、流れとしては、パート労働者への厚生年金の適用拡大は避けがたいものとなってきています。
 このような時代環境の変化の中で、これまでと同じようにパート労働者を取り扱っていては、足元をすくわれることにもなりかねません。これからのパートを含めた人材の有効な活用方法について、深く検討する時期に来ているのではないでしょうか。


注1:パートタイム労働法は、正しくは「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」と言います。
注2:『平成19年度版労働経済白書』による。2006年の短時間雇用者比率は22.5%(約1,200万人)となっています。
注3:パンフレットは、厚生労働省のHPから入手可能です。(URL:http://www-bm.mhlw.go.jp/index.html)
注4:厚生労働省『H18年度パートタイム労働者総合実態調査』では、パートの雇用の最大の理由が、「人件費が割安だから」(71.0%)となっており、H13年の同調査(65.3%)からさらに上昇しています。
注5:本当は正社員として働きたいのにパートしか働き口がない、ということも、特に地方においては少なからず実態として存在します。今回のケースでは、それら非自発的な要因によるパート労働者ついては加味していません。改正パート法により正社員登用の道が広がることで、そのようなミスマッチが改善されることを期待します。



※コラムは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

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海老澤 淳
(株)日本総合研究所
研究員 人事戦略クラスター
専門分野: 人事制度改革、人材戦略策定、海外人事制度策定
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