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[コラム:研究員のココロ]3兆円規模の経済価値を有する地縁的な活動の再生・強化を<前編>〜地縁的な活動の危機的な状況とその実態〜

2008年01月28日 18:12更新 前の記事 次の記事  コラム・地域社会一覧
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出展:日本総合研究所ホームページ(http://www.jri.co.jp/)「研究員のココロ (株)日本総合研究所 研究員 永冨 聡 2008年1月28日付」より

1.危機的な状況にある地縁的な活動

 当社が2007年8月に実施した「社会生活に関するアンケート調査結果」によると、ここ5年の間にわが国における地縁的な活動が著しく衰退している、という驚くべき結果が明らかとなった。内閣府が2002年度に実施した調査結果数値と比較すると、地縁的な活動に参加していると答えた人が30.4%から22.4%にまで大きく低下している(図表1参照)。この数字の低下が意味するものは、自治会、町内会、婦人会、老人会、青年団、消防団、子ども会、PTAといった従来からの地縁・血縁的な活動に参加する人の減少である。実際にここ5年での近所づきあいの程度は低下傾向にあるとともに、近所づきあいの人数も減少傾向にある(図表2参照)。これにより、活動の受け皿となる組織の役員が高齢化・固定化し、身近に起こる凶悪な犯罪、高齢者の孤独死等をはじめとした社会問題を地域で抑制・解決することが不可能な状況に陥ることが懸念される。

<図表1 地縁的な活動及びボランティア・NPO・市民活動への参加状況の推移>


(資料)内閣府(2003)「ソーシャル・キャピタル:豊かな人間関係と市民活動の好循環を求めて」、内閣府(2005)「コミュニティ再生とソーシャル・キャピタル」、株式会社日本総合研究所(2007)「社会生活に関するアンケート調査」をもとに作成



<図表2 近所づきあいの程度及び近所づきあいの人数の推移>

(資料)内閣府(2003)「ソーシャル・キャピタル:豊かな人間関係と市民活動の好循環を求めて」、内閣府(2005)「コミュニティ再生とソーシャル・キャピタル」、株式会社日本総合研究所(2007)「社会生活に関するアンケート調査」をもとに作成



 地縁的な活動が仮に衰退したとしても、ボランティア・NPO・市民活動に期待すれば社会問題を地域で抑制・解決することが出来るとお感じの読者もおられるかも知れない。しかし図表1をご覧いただくと、2007年にボランティア・NPO・市民活動に参加していると答えた人も2002年度調査と同程度の水準に留まっており、ボランティア・NPO・市民活動は、1998年の特定非営利活動法人法(NPO法)の成立以降"新しい時代の公"として、国や地方公共団体からの手厚い支援を受けてきたにも関わらず、期待されたほどの成果が上がっていないと見ることもできる。さらに問題となるのは、ボランティア・NPO・市民活動は、まちづくり、高齢者・障害者福祉や子育て、スポーツ指導、美化、防犯・防災、環境、国際協力といったテーマ性の高い活動であり、決して地域に限定された活動ではないという点である。すなわち、ボランティア・NPO・市民活動は、地縁的な活動に比べて包括的な社会問題を地域で抑制・解決する原動力にはなりにくいということである。
 ここ数年のNPOブームの一方で、地縁的な活動やそれを担う多様な組織(図表3参照)は危機的な状況にあるが、今なお重要な役割を担っていることへの認識を新たにするとともに、これからの地縁的な活動の再生・強化に向けた方向を述べようというのが、本稿の趣旨である。


<図表3 地縁的な活動を担う組織>

(資料)山崎丈夫(1994)「現代の住民組織と地域自治」自治体研究社より引用



2.歴史変遷や機能面から見て、今なお重要な役割を担う地縁的な活動

 ここでは地縁的活動が今なお重要な役割を担っていることを、(1)歴史変遷、(2)歴史によって培われてきた機能、という定性的な側面から述べる。

(1)応仁の乱の時代から脈々と続く長い歴史(※)

 地縁的な活動を担う組織として代表的な自治会・町内会の源流は、応仁の乱(1467〜1477年)の廃墟の中から暴力に対抗し生活の安全を守るため、隣保団結(隣近所の家々や人々が団結すること)の地域団体である町が結成されたことに遡ると言われている。その後戦国時代に入り、織田信長によってこの町組織は統治の手段として利用され、自治・自営の住民組織から行政機構の補助組織へと変化し、江戸時代には行政が町奉行によって掌握されていた。明治時代を迎え、市制町村制施行により大幅な町村合併が進められたが、合併により廃止された旧町村では、実質的に住民の生活、生産の地域的単位として重要な機能を果たしていたため、広域化した市町村では狭域の公共事務まで遂行することが困難であった。そこで、新しい行政基盤を固めるため、行政単位として区を置き、行政を補完する組織として維持してきた。その後行政区は、町内会・部落会として整備され、都市化の進展とともに、戦時体制強化の元で国家の末端行政組織として再編された。
 戦後、GHQにより一旦町内会は廃止が命じられたが、1952年のサンフランシスコ講和条約の締結に伴い町内会は解禁され、民主主義憲法と議会制度、地方自治制度の確立という新しい状況の中で、全国的に町内会が復活・結成された。その後、高度経済成長によって人口が流動化し、町内会は解体、形骸化の危機に直面する一方で、新たに開発された住宅地域でも町内会・自治会は結成され、公害への反対や行政や企業への対抗など日本に住民運動と地方自治の新しい発展の原動力となった。その後"新しい時代の公"としてNPOへの期待感が高まり、ここ数年はNPOブームに沸いたが、現時点では、地縁的な活動を担う組織とボランティア・NPO・市民活動を担う組織が同地域に共存する複雑な状況を呈している。
 このように地縁的な活動はボランティア・NPO・市民活動とは比べられないほどの歴史的な背景を有しており、町内会・自治会が長きに亘り、わが国の地域に根ざした社会問題を抑制・解決する役割を担ってきたことは、紛れも無い事実なのである。

(2)地域に根ざす社会問題を抑制・解決する多様な機能を培ってきた

 地縁的な活動を担う代表的な組織である自治会・町内会は、地域生活諸条件のあり方に関わる問題解決、地域生活の充実など地域に根ざした社会問題を抑制・解決するため、【1】住民相互の連絡や祭りの開催等の親睦機能、【2】防災・防犯等の共同防衛機能、【3】集会施設管理や地区清掃等の環境整備機能、【4】行政団体情報の伝達や募金等の行政補助機能、【5】行政への陳情・要望などの圧力団体機能、【6】地区コミュニティ組織への参画等の地域の統合・代表機能、を有してきた。
 こうした機能はどれもが地域に住む人にとって欠かせないものであるものの、自治会・町内会からの募金を煩わしいと感じて協力を断ったり、町内の連絡事項が書かれた紙について内容を見ずにごみ箱に直ぐに捨てたりする人も多いと聞く。隣人の連日連夜にわたる深夜の騒音、自宅前に無造作に捨てられるごみの山など、我が身に突然災難が降りかかって始めてその重要性に気づき、困り果てて自治会・町内会に頼ろうとしても、日常的に協力してくれていなかった人に、その時にだけ都合良く、懇切丁寧に手を差し伸べてくれる保証は、もはやどこにもないのである。


<図表4 地縁的な活動を担う組織の有する機能>

(資料)山崎丈夫(2006)「地域コミュニティ論 改訂版」自治体研究社より引用


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(※)本箇所は、岩崎信彦(1988)「町内会の研究」御茶の水書房をもとに構成している。

<主たる参考資料・文献>
1) 内閣府(2003)「ソーシャル・キャピタル:豊かな人間関係と市民活動の好循環を求めて」
2) 内閣府(2005)「コミュニティ再生とソーシャル・キャピタル」
3) 株式会社日本総合研究所(2007)「社会生活に関するアンケート調査」
4) 山崎丈夫(1994)「現代の住民組織と地域自治」自治体研究社
5) 岩崎信彦他(1988)「町内会の研究」御茶の水書房
6) 山崎丈夫(2006)「地域コミュニティ論 改訂版-地方分権への協働の構図」自治体研究

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※コラムは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。


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永冨 聡
(株)日本総合研究所
研究員 創造都市戦略クラスター
専門分野:地域環境政策、パートナーシップ政策、住民参加まちづくりなど
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