[コラム:研究員のココロ]医師・看護師の定着を従業員満足の視点から
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出展:日本総合研究所ホームページ(http://www.jri.co.jp/)「研究員のココロ (株)日本総合研究所 研究員 根本 大介 2008年2月4日付」より
7対1看護体制(平均入院患者7人に対して看護師を常時1人配置する体制)や医師の偏在・医師不足が話題となっている。どちらも医療機関のスタッフ不足を引き起こしている。そもそも医療サービスはほとんど人的サービスと言えるものであり、スタッフ不足という問題をかかえたまま運用することは非常に不安定である。
一般の報道などを見ていると、福利厚生や給与条件などに言及しながら、医師不足・看護師不足の問題がとりあげられていることが多いと感じている。
「採用」の問題として考えるからそのような取り上げ方になるのだろうが、「定着」の問題として考えると、切り口はちがってくるのではないか。福利厚生や給与などの条件によって病院を移ることなどはあまり聞かない。退職する原因はたいてい人間関係であるという(人材派遣業者コメント)。業務多忙が業務遂行時の余裕を奪い、その余裕の無さが人間関係を悪くしていることも多い。
福利厚生や給与制度の見直しなども必要であろうが、その目的は「いかに人材を集めるか」である。7対1看護の体制づくりにあたって看護師を大量採用する時期はそのような対応が必要であった。その体制づくりが一通り終了して、今度はその体制を保持するための対策を打ち出さなくてはならない。
医療業界では人材の流動性が加速してきている。従業員の判断で医療機関を移る、いや「選ぶ」ことが常識となってきている。そもそも病院職員は一部の事務職を除いて国家資格などを保持した職人集団であり、今の病院でなければ自分の技術を活かせないということはない。どの病院でも働けるだけの技術があるとされる。
前述の通り、大量採用時代が一段落した現在、どれだけ多くスタッフを集めるかということより、確保したスタッフをいかに引き止めることができるかということが必要となってきている。そのためには、いかに職員がいきいきと働くことができる職場かということが必要になってくる。どれだけ多くの看護師を確保できたとしても、採用のレベルを下げたり教育の手間を必要以上にかけることで、回りのスタッフが疲弊してしまっては、退職も膨らむ。そのためにさらに大量雇用しなければならない。そのような負のスパイラルを断ち切るためには、給与制度以外の対策が必要となってくる。そこで従業員満足度を測ることが有益である。
ある病院(以下、A病院とする)では看護師の増員を計画しているが、前述の理由から、看護師増員を人事制度・給与制度的な視点からのみ考えるのではなく、職員満足の視点からも検討をはじめた。
A病院看護部は次のように語る。「当院では看護師確保のために院内託児所の設置や意見箱の設置、メンタルヘルス対策などを積極的に実施してきました。しかし最も重要なことは、せっかくうちに来てくれた看護師さんがいかに働きがいをもってくれるかということだと気がついたのです。従業員がうちで長く働いた方が従業員のためになると信じているし病院にとってもいいことです。日本総研を利用し、今年から看護師満足度向上プロジェクトを発足させます。今まで従業員の満足度をはかる指針もない医療機関が多く、指標が無いとどのような対策をとっても評価できません。看護師の声を吸い上げ、反映し、評価する。このような体制づくりを病院をあげて実施中です。具体的には、満足度を6段階で「数値化」して表現することで、来年度にはその数値を上げようという目標ができます。その数字も従業員に公示しようと考えています。当院で本気で働きがいのある職場環境を用意しようとしていることは必ず伝わるでしょう。これは看護師だけではなく全病院職員対象に考えていきます。そうすることによって、病院スタッフ全体のモチベーションが高まることを期待しています。」

「退職理由を面接で聞く時点では、本来の退職理由は聞けない」と関係者は言う。
特に"その他"の理由はなかなか深堀りできない。近年、「家庭の事情」「その他」が増加している。「家庭の事情」であっても本当の理由は別のところにある可能性も高い。そもそも、これらは退職以前の段階でアラームを察知しなければならない問題である。A病院では、対策として看護師に対する意見箱を設置した。意見箱は、何かをうったえて積極的に状況を変えていく意思の強い職員には利用してもらえるものの、職員全体の「働きがい」のベースアップにはつながりにくい。もちろん意見箱は効果のあるものだが、特別な悩みをかかえていない職員を含めた全員の満足度を向上したいため、定期的にアンケートとインタビューを実施し、網羅的に意見収集する。その土台づくりとして看護師満足度向上プロジェクトがたちあがった。
従業員の意見収集は一般の企業では多く実施されてきたが、医療機関ではまだ少ない。このような従業員の声に耳を傾ける姿勢は必ず評価され、質の高い医療を提供できる良い人材が定着してくれることで、その病院の医療サービス全体が向上するものと考えられる。
以上
※コラムは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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根本 大介
(株)日本総合研究所
研究員 医療・病院経営クラスター
専門分野:病院ITプロジェクトリーダー、公立病院改革プラン対策PL
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