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[コラム]大学のソフトウェアを産業界に技術移転する仕組みの構築を目指して

2008年02月26日 14:46更新 

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出展:みずほ情報総研ホームページ(http://www.mizuho-ir.co.jp/)「コラム/みずほ情報総研(株) サイエンスソリューション部、東京大学産学連携本部共同研究員兼務 山崎 暢也 2008年2月26日付」より

 みずほ情報総研では、大学の研究室で生み出されているソフトウェアを、そのまま大学の中に死蔵させるのではなく、特許等と同じように社会に還元する仕組みを模索するため、国立大学法人東京大学産学連携本部と「ソフトウェアの技術流通・成熟・移転システムの研究」について2006年の4月から3年間の予定で共同研究を行っている。

 本プロジェクトは、大学発のソフトウェアを円滑に技術移転するための仕組みを構築することが狙いである。プロジェクト開始から1年半が経過し、(1)大学で研究開発されたソフトウェアを産業界で使うためにはさらにブラッシュアップや検証が必要であること、(2)そのために費用を投入しなければならないが、国の事業にはその予算措置がほとんどないこと、(3)特許等と同じ仕組みではソフトウェアの技術移転はうまくいきそうにないこと、(4)海外では大学発ソフトウェアの活用にはパートナーとして産業界のヘビーユーザーが付いており、20年くらいかけスタンダードソフトウェアに育てていることなどがわかってきたところである。

 大学の研究室で生み出されるソフトウェアとは、どのようなものであろうか。主に工学部や理学部の研究室で研究者や学生が、研究のためのツールや理論の解明用にプログラミングして開発されるものである。歴史ある研究室だと、何年にもわたり複数の学生が追加開発を重ね大規模なソフトウェアへと成長しているものもある。その成果は主に学会発表や論文というアカデミアを通した形で社会に還元されている。

 国としても、大学発のソフトウェアの利活用推進に向け、様々な施策を展開しており、科学技術政策、知的財産政策、情報政策の面からその動向を捉えることができる。国の科学技術関係予算は、年間3兆5,000億円程度であるが、このうち、シミュレーション技術開発に関係して、10年間で数百億円の競争的資金(※1)が国費として投入されているという推定もあり、大学の中にかなりのプログラムの蓄積があることは想像できる。しかし、現在の科学技術政策は、情報通信、ものづくり技術というように分野別に展開されているが、「産業競争力を強化するためのシミュレーション技術」についての戦略というものは見当たらず、中長期的に見てシミュレーション技術や人を育てるロードマップがない。

 また、知的財産政策という面で見ると、2002年の当時の小泉首相の施政方針演説から、我が国は「知的財産立国」を目指すことになり、これ以降、特許やコンテンツを中心とした知的財産戦略については急速に各種施策が実施されてきたが、一方でソフトウェアについては、目立った施策は見当たらない。2004年には、国立大学が国立大学法人になり、大学発の知的資産が原則として機関帰属になった(すなわち、大学が権利を保有できるようになった)こと、また、教育基本法の改正により、大学の第3の使命として、教育、研究に続き社会貢献が盛り込まれたことも鑑みると、研究成果の産学官連携による社会への還元は重要性を増しているといえよう。

 情報政策としては、2007年の産業活力再生特別措置法の改正により、これまで日本版バイ・ドール規定(※2)の対象外であった国との請負契約によるソフトウェアの研究開発が、規定の対象となった。これにより、権利が大学に帰属されるソフトウェアの範囲も広がっている。筆者は、内閣府に設置されている総合科学技術会議の事務局で知的財産戦略の担当をしていた当時、この規定の見直しの重要性について指摘した経緯もあり、ようやく法律改正されたことは感慨深い。これで、コンテンツ促進法と同等の取り扱いとなり、制度的な隘路が一つ解消されている。

 このような国の施策を受け、大学では知的財産本部や技術移転機関の体制整備が急速に進んでいる。特に文部科学省の大学知的財産本部整備事業の選定を受けている大学では、2003年から知的財産本部を組織化するとともに、規定等の策定が行われてきた。しかし、多くの大学で特許を中心とした体制・規定作りは進んだものの、ソフトウェア特許と著作権とを処理しなくてはならないソフトウェアに関しては、手付かずというのが現状である。

 一方、産業界では、ものづくりの高度化とグローバル化の進展により、技術開発の効率化が求められており、大学への期待は高まり続けているが、企業の研究開発の現場では製品開発の短期化により、ソフトウェアを大学と一緒に育て上げるというかつての余裕は感じられない。昨年度、経済産業省の受託で企業におけるシミュレーション・ソフトウェアの実態調査を実施したところ、国内の大学発ソフトウェアはある面では原石となる数も多いが、企業は完成度が高く利用ユーザーが多いソフトウェアを望んでおり、国産でも外国製でもこだわりはないということがわかっている(※3)。

 大学側では、ソフトウェアのオープンソース化の流れのなかで権利の帰属の取り扱いや、学生がプログラミングした著作物の権利の取り扱い、ソフトウェアの維持のための研究者の負担感などさまざまな問題が内在している。

 しかしながら、産業競争力を高めなければならない我が国にとって、国の税金が投入された研究開発がうまく社会に還元できないことは非常に大きな機会損失である。筆者は現在、東京大学と共同で海外の先行事例を研究中であり、日本型として導入できるスキームを検討しているところである。大学に蓄積されたシミュレーション技術のノウハウを機動的に産業界に送り出し、日本のものづくりにうまく繋いでいけるようなスキームを模索していきたい。

※1 競争的資金:特定の研究開発領域を定め、研究者等から提案された研究開発課題の中から資金を配分する制度。平成19年度予算では総額約4,700億円。

※2 日本版バイ・ドール規定:国等の委託する研究開発に係る知的財産権の取扱いを定めた産業活力再生特別措置法で、これまでは請負に係るソフトウェア開発は対象外であった。

※3 みずほ情報総研技報 Vol.1 No.1
大学と企業におけるシミュレーションの開発や活用の実態調査参照
http://www.mizuho-ir.co.jp/giho/mhir_001.html



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