[コラム:研究員のココロ]仮想通貨と現実世界の接点
出展:日本総合研究所ホームページ(http://www.jri.co.jp/)「研究員のココロ (株)日本総合研究所 主任研究員 宮脇 啓透 2008年2月25日付」より
1. 仮想通貨とは何か
昨年からセカンドライフ(米リンデンラボ社が運営する仮想空間)がITやゲーム以外のサイトや雑誌でも記事として徐々に取り扱われるようになった。また、他のオンラインゲーム(仮想空間)の利用者の拡がりから、関連する出来事や事件が一般の記事やニュースとして取り扱われるようになった。その中で、「仮想通貨」という言葉を耳にするようになったのではないだろうか。「仮想通貨」とは、仮想空間内で使われる通貨のことで、基本的に、その仮想空間内でのみ利用される概念及び電子データのことである。
話を進める前に、最初に明確にしておきたいことは、ここで話す仮想通貨は、SuicaやEdyのような電子マネーとは違うということだ。
いくつか特徴的な項目を下の表に比較した。電子マネーは、日本では日本国通貨と同様に円という単位が使われるが、仮想通貨はその限りではない。仮想空間内の独自単位やポイント等の表現で使われることの方が多い。
次に使える場所であるが、電子マネー事業者の提携先で利用することができ(Edyで約7万店舗、Suicaで約2万5千店舗と駅)、限定的ではあるが、紙幣や硬貨と同様かそれ以上の使い勝手(おつりがいらない等)がある。仮想通貨が消費されるのは、通常は仮想空間内であり現実世界との結びつきがない。そのため現実世界と公式に結びついたセカンドライフの通貨リンデンドルが話題となった(詳細は後述)。
最後に、日本での社会的な位置付けを比較すると、電子マネーはプリペイドカードと同様に「前払式証票の規制等に関する法律」の適用(影響)を受ける(*1)。そのため、ある程度社会的にその価値を担保されているといえる。一方で、仮想通貨に関しては、仮想空間サービスの中のひとつの概念やデータにしか過ぎず、その価値を担保するような制度はない。実際に、仮想空間内で仮想通貨を扱うオンラインゲームなどの中には、利用者が減ればサービスの停止(終了)を行った例は少なくない(サービス停止になる程利用者が少ないために、混乱にならなかったとも言える)。
表1 電子マネーと仮想通貨の簡単な比較
| 比較項目 | 電子マネー | 仮想通貨 | | 代表的な例 | Edy(ビットワレット社) Suica(JR東日本) | オンラインゲーム内の通貨 リンデンドル(米リンデンラボ社セカンドライフ内通貨) | | 単位 | 円(日本国通貨と同じ) | 仮想空間内での独自呼称 (ゼニー、ギル等、現実通貨とは違う呼称が多い) | | 使える場所 | 電子マネー事業者の提携先 | 仮想空間の中のみ(*2) | | 社会的な位置付け | 前払式証票の規制等に関する法律 (内閣府への届出の必要、 発行保証金の義務) | 法規制はなし |
仮想通貨の発行タイプは、大別して二通りある。(1)運営事業者から利用者が現実通貨(円)で購入するタイプと、(2)仮想空間内での行動の対価として得られるタイプがある。前者は、遊園地等の額面付き利用券のイメージに近く、携帯電話の仮想空間サービスや手軽な仮想空間で使われることが多い。後者は、仮想空間内で、あたかも労働を行って対価を得る経済活動を行うようなイメージだ。
一方で、仮想通貨の消費タイプとしては、大別して三通りある。(1)仮想空間内でのサービスを受けたり、アイテム(物品)を購入するタイプと、(2)現実世界のサービスや物品を仮想通貨のまま購入するために消費するタイプ、(3)仮想通貨を現実通貨に交換し消費するタイプに大別される。

仮想通貨の現実通貨への交換は、基本的には、需要と供給の関係と労働対価としての価値(時給)等により決まるようだ。この仮想通貨と現実通貨の交換について次に述べたい。
2.仮想通貨は現実世界に影響するのか?
セカンドライフが話題になった理由のひとつは、仮想通貨を現実通貨に変換可能であることを運営会社が公式に認めたことが、好循環にまわると企業や利用者が感じたためだ(実際は、そう思う人が多くいるであろうという前提で記事等に紹介されたという表現が正しい)。実際の交換は、需要と供給にあわせて相場が決まり、仮想通貨を買いたい人と売りたい人が市場で取引をする。また、仮想空間内で、事業(の真似事)を行えば、リスクが少なく、リターンが得られるかもしれない。たとえ失敗しても仮想空間内の出来事だ、痛手は受けない。
今まで、仮想通貨を現実通貨に変換する例はなかったのかといえば、オンラインゲームでは勝手市場(非公式市場)として存在していた。それらの行為をRMT(Real Money Trading)という。多くの運営会社では公式にRMT行為を禁止しているが、参加利用者が多いオンラインゲームや仮想空間では、需要と供給から勝手市場と相場ができている(*3)。利用者のコミュニティでは賛否両論で、主な意見は次の表の通りとなる。
表3 仮想通貨を現実通貨に変換することの賛否両論
| 賛成(容認)の意見 | - 運営会社が決めるルールである規約には違反しているが、法律違反ではないという意見(*4)。
- 既に現実社会で市場ができあがっているため、無理に規制をすると現実社会への影響やオンラインゲームの利用自体にも影響しかねないので、規制等には慎重であるべきだという意見。
- エンターテイメントである仮想空間で、楽しむはずが苦痛な作業はしたくない(お金をためるためには仮想空間内でもある程度の努力が必要)ため、現実通貨で仮想通貨を購入したいという意見。
| | 反対の意見 | - RMTを行うことが目的の専門プレイヤーが、特定のものを独占することにより、一般プレイヤーが仮想空間内での行動を妨げることがあるという意見。
- 仮想空間内の通貨流通量の増加によるインフレーションが起こり、仮想空間の社会システムが壊れるという意見。
- RMTが原因の取引詐欺、不正アクセスによるデータの窃盗が起こりやすくなるという意見(*5)。
- 仮想通貨による金銭価値・感覚の麻痺(特に未成年への影響)が起こるという意見。
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(注意)賛否の議論はこれ以外にも多くある。
3.仮想通貨と現実世界のつながりはどうあるべきか
仮想通貨自体はあくまでも仮想空間内のツールであり、仮想空間で楽しむことを主体とするのであれば、運営者にとっても利用者にとっても、現実通貨と結びつくことはエンターテイメントの領域を超えてしまい、好ましいことではない。また、仮想通貨が大規模に現実通貨と繋がってしまうと、仮想空間内での出来事が、現実の出来事と結びついて大事になる可能性がある。例えば、日本では公営競技と一時的な娯楽を除いてギャンブルは法律で禁止されているが、仮想空間内では、その限りではない(ギャンブル行為もできるものもある)。最終的な仮想通貨のはけ口として現実通貨があるのであれば、仮想空間内のギャンブル行為も、法律で禁じられているギャンブルであると捉えることもできなくはない(*6)。
ある程度のルールもしくはモラルの中で、運営されているのならば、仮想通貨と現実通貨が結びつくことは、そのサービスの活性化につながる可能性がある。ただし、それで集まってくる人々は、現実通貨への繋がり(儲けること)を目的としているため、同様かそれ以上の仮想空間があれば簡単に乗り換えてしまうかもしれない。そういった手段は集客効果が高いかもしれないが、利用者を囲い込むためには、仮想通貨による他には真似のできない独自のサービスもしくは仮想空間自身の魅力が必要になってくる。
ここまで、仮想通貨と現実通貨の繋がりを賛成と反対、メリットとデメリットという形で併記しながらお話させて頂いた。運営者と利用者全員にモラルとリテラシーがあるのなら、仮想通貨と現実通貨の繋がりは、コミュニティのひとつの形としてビジネスやコミュニケーションの発展の場となるかもしれない。ただし、現状を見る限りは、そうではない。
それならば、仮想空間の運営者は、メリット・デメリットを検討した上で、仮想通貨がある種サービスのメインなのか、あくまでも仮想空間のツールのひとつなのかを、明確にし、それに沿った運営をする必要があろう。その上で、社会的課題(デメリット)に対応する運営のルール作りや新たな課題に対する対策を行う覚悟がなければ、運営の失敗(利用者の確保や継続利用がままならない状態)や社会的問題(行政の介入、新たな法規制等)になる可能性があるだろう。事業者としてバランスの取れた自主規制や運営を行うことが経営的にも社会的にも必要だと言える。
なお、こういった電子マネーや仮想通貨のようなバリューのあり方やコミュニティとの関係について、NTTドコモモバイル社会研究所及び中央大学・教授・杉浦宣彦先生をはじめとする有識者で研究を進めている。機会があれば、また別の形でも、ご紹介させて頂きたい。
(*1)一般的に電子マネーと呼ばれるものでも、WebMoneyのように現行法では「前払式証票の規制等に関する法律」の要件により適用(影響)を受けないものもある。
(*2)仮想空間以外でも電子マネーのように使える仮想通貨はあるが、現状では一部の仮想通貨のみで一般的ではない。
(*3)多くのサービス事業者では、規約で禁止しているとともに、何らかの対策を行っているが、イタチごっこになっているのが現状である。
(*4)韓国では仮想空間内でのギャンブル行為等がブラックマネーとの繋がりがあることなどからRMTの商業目的を禁じる「ゲーム産業振興法改正法(通称:RMT禁止法)」が2007年から施行されているが、2008年1月現在、日本ではRMTに関する法律はない。
(*5)日本で仮想通貨に関する事件は、不正アクセス禁止法等が適用されたケースがある。仮想空間は日本国外のサーバによる運営や日本国外の利用者もいるため、法の適用や捜査が複雑になるケースもある。
(*6)法的要件に沿って検討した結果ではなく、あくまでも可能性に触れたもの。
参考資料
(1)Wikipedia 電子マネー、RMTに関する項目
(2)電子マネー事業者発表資料
※コラムは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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宮脇 啓透
(株)日本総合研究所
主任研究員 産業政策・技術戦略クラスター
専門分野:IT事業戦略、技術価値・事業価値の経済分析、メディア・コンテンツ・ビジネス分野、ITリテラシー教育(大学非常勤講師)メディア・コンテンツ・ビジネス分野
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