[コラム]KMからエンタープライズ2.0へのステップアップ〜企業に眠る集合知の活かし方
出展:みずほ情報総研ホームページ(http://www.mizuho-ir.co.jp/)「コラム/みずほ情報総研(株) 金融ソリューション第2部 古川 曜子 2008年3月4日付」より
■集合知は"洗練"のプロセスを経て作り出される
2005年以降のWeb2.0のブームとともに、インターネットの世界では、「集合知」というキーワードが注目されてきた。「集合知」とは、多くのユーザが参加して情報を出し合うことで、情報が蓄積・洗練され、それらの集合が最終的に価値ある知識となっていくもののことを言う。
一般の掲示板のような単なる情報の寄せ集めではなく、集まった情報が、多くの視点、分類軸、評価尺度から整理・編集・分析されることによって磨かれていくプロセスを経て、集合知は生み出される。Web2.0技術の普及により、集合知を自動的に作り出すことも容易になってきている。
例えば、世界中のネットユーザが知識を持ち寄って共同編纂し成長し続けている百科事典「Wikipedia」、身近なところでは、Amazonでユーザが自分の読んだ本に対して投稿する五つ星付評価コメント一覧や、購入履歴データの集計・分析に基づく「この本を買った人は、こんな本も買っています」という"お奨め"の自動表示が、集合知の代表例である。
また、Googleの検索結果一覧も、非常にすぐれた集合知だと言えるだろう。Googleは検索結果の表示に際して、指定されたキーワードを多く含むだけでなく「リンクの多さ」という評価軸で検索結果データをフィルタリングし、「優良サイト」をユーザに提供するようにしている。「リンクを張る」という、サイト作成者同士の無意識の評価行動を検索結果に反映させることによって、検索結果は単なる情報の集約ではなく、重要な「知識」を生成しているのである。
■企業内に「洗練」のプロセスはあるか?
ここで、インターネットの世界から、企業内に目を転じて考えてみたい。果たして企業内において、「集合知」は生成されているのだろうか。
「ナレッジマネジメント(Knowledge Management; KM)」というキーワードは、個人の持つ情報や知識を組織全体で共有し、有効に活用することで業績を上げようという"経営手法"として注目された。日本でも、特に2000年前後から盛り上がりを見せ、多くの企業がいろいろなアプローチでKMに取り組んだ。しかし、これがうまくいったという事例は非常に少ない。
ひとつの原因として、多くの企業におけるKMが、あたかも社員一人ひとりがもともと優れた「ナレッジ」を持っていて、それを集めさえすれば自ずと有用なナレッジベースが出来上がるという想定であったことが考えられる。しかしながら、本来「ナレッジ」は個人単独の力で生み出されるようなものではなく、誰かが出した情報やアイデアが他の多くの人の手によって利用され、利用現場からのフィードバックを受けて鍛えられ、余分なものをそぎ落とし、有用だと認められて定着していくというプロセスを経て初めて「ナレッジ・知識」となり、広められ、共有されていくものだ。あらゆる有用な「知識」は、今我々が「集合知」と呼んでいるものが生み出される「洗練」のプロセスを、必ず経ているのだと言える。
企業内で「集合知」を生成・活用する事例が、最近出始めている。弊社が検索エンジン導入に携わったある大手金融機関では、グループウェアに大量に蓄積されている文書を、日々のアクセスランキング順に表示させることで、優良文書が埋もれずに活用されるような仕組みを作っている。あるメーカーでは、社内用語に関するWikipediaを作っており、例えば自社製品については、社内ならではの詳細情報や売り手の視点での情報が掲載されていて、新入社員や異動者の効率的な知識習得や、全社で共通的なブランド意識を高めるのに効果を上げている。
企業内には、一人ひとりの社員が知恵を絞って書いたドキュメントやメールなどの情報が大量に存在する。これらは、インターネット上に溢れる玉石混交の情報よりもはるかに質が高く、貴重なものであり、その中には多くの知識、集合知が眠っているはずである。それらを抽出し、さらに洗練させるプロセスやツールが欠けているために、それらを十分に活かしきれていないとすれば、大きな損失だ。
今インターネットの世界には、様々な形式の「集合知」や、それらを掘り起こすためのツールが続々と出てきている。これらの要素を企業内にも取り入れていくことによって、かつて行き詰ったKMは、「エンタープライズ2.0」という新しいステージに上がれるのではないだろうか。
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