[コラム]保健指導ビジネスのゆくえ ―特定保健指導市場をめぐって
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出展:みずほ情報総研ホームページ(http://www.mizuho-ir.co.jp/)「コラム/みずほ情報総研(株) 社会経済コンサルティング部 松本牧生 2008年3月25日付」より
平成20年4月から、生活習慣病を予防し中長期的に医療費の低減をめざす特定健診・特定保健指導が始まる。40歳から74歳までの被保険者は健診を受診し、リスク要因の保有状況に応じて保健指導を受けるという制度である。
特定健診・特定保健指導の実施は、医療保険者に義務づけられているものである。医療保険者はこれらの実施だけではなく、平成24年度に特定健診の受診率70%(国保は65%)、特定保健指導の実施率45%、メタボリックシンドロームの該当者及び予備群の減少(平成20年度比10%減)という数値目標が課されており、これらを達成しないと平成25年度以降、財政的なペナルティが課せられる。
鳴り物入りの制度導入で、平成20年度に数百億円規模、5年後には一千億円超の市場が創出されるとの試算もあり、医療保険者は準備万端、保健指導を行う事業者も事業化に熱心に取り組んでいるかというと、現状はそうでもない。どうも保健指導ビジネスは、先行きが不透明なのである。
まず、市場における発注側である医療保険者に目を向けると、保健指導の費用対効果がまだ見えないなか、保険料への反映を懸念して模様眺めになったり、低価格志向に傾きがちである。一方、受注側である保健指導事業者は、数年前から保健指導プログラムや指導ツールの開発に努めていたが、価格競争に巻き込まれ、研究開発の成果が差別化のポイントになりにくくなっている。しかも、保健指導ができる専門家(保健師、栄養士など)の確保が事業上の制約となる恐れがある。
保健指導のアウトカムや成果を議論する以前に、ふたを開けてみたら、市場のプレーヤーがお互い見合ったまま動かない、あるいは動けないといった状態が出現しつつある。大きく育つ可能性のあるビジネスであるにもかかわらず、将来の方向感が定まらないのである。
それでは、苦境に立つ保健指導ビジネスに未来はないのだろうか。楽観視できないのは事実だが、必ずしも展望が描けないわけではないと、筆者は考えている。注目したいのが、保健指導が保険診療に組み入れられる可能性である。
厚生労働省の患者調査(平成17年)によれば、三大生活習慣病によって継続的に治療を受けている患者数は、高血圧症781万人、糖尿病247万人、高脂血症153万人と推計される。う蝕(虫歯)の患者数181万人、悪性新生物(がん)の患者数142万人と比較すると、いかに患者が多い疾病であるかがわかる。
生活習慣病の治療の基本は、食事や運動といった生活習慣の改善と投薬である。ところが、多くの糖尿病患者の診療にあたる診療所(医院やクリニック)には、食事指導や運動指導にあたるスタッフや施設がない。いかに患者が多いとはいえ、こうしたスタッフや設備を確保することが、経営の面から困難であるためだ。もちろん、専門医がいる診療所や病院の中には、こうしたスタッフや設備を有する医療機関もある。しかし、これらの専門的医療機関だけで膨大な患者の診療にあたることは現実的ではない。
加えて栄養指導や運動指導の手法にも課題がある。糖尿病患者を対象とする栄養・運動指導は、主として入院患者を対象にしてノウハウが蓄積されてきた面がある。ところが、多くの生活習慣病患者は、「在宅」、すなわち普通に自宅で生活している人びとである。このような人びとに入院患者と同じ手法だけで対応することは難しい。「在宅患者」に対応する指導手法の開発が期待される所以はここにある。
このように考えれば、保健指導が保険診療に組み入れられることにより、専門的医療機関のみならずそれ以外の事業者からも、特定保健事業で培った手法や人材が生活習慣病治療の戦列に加わるということが、選択肢として考えられるのである。
しかし治療の一部を担うとなれば、それ相応のサービスの質の高さと科学的なエビデンスが求められるであろうことは論をまたない。その点で、厳しい特定保健指導ビジネス環境の中で、質の高いサービスを効率的に提供することができた事業者だけが、保健指導市場における確固たる地位と、その先の展開を手にすることができるのである。
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