[コラム:研究員のココロ]自治体経営改革とNPM導入10年の検証<前編>〜自治体経営の問題点・先送り型改革で拡大する自治体経営リスク〜
出展:日本総合研究所ホームページ(http://www.jri.co.jp/)「研究員のココロ (株)日本総合研究所 主任研究員 村田 丈二 2008年3月24日付」より
1. 進まない地方自治体の経営改革
地方自治体の財政状況は、バブル崩壊後急激に悪化した。地方自治体の借入金残高は、平成3年頃まで70兆円程度であったが、平成20年度末には197兆円になる見込みである。また、通常の収入に対する人件費、扶助費、公債費等の経費の比率を示す経常収支比率も平成5年頃までの70%台から90%(平成18年度)を超える水準になっている。同比率が90%を超えているということは、人件費などの固定費に税金が優先的に使われ、投資的な事業に回す資金にほとんど余裕がなく、実施するためにはさらなる借金をしないといけない状態であることを示している。
こうした中、自治体では民間企業における発想や経営手法を可能な限り行政分野に活用するNPM(ニューパブリックマネジメント)の手法を10年ほど前から取り入れ、抜本的な経営改革に取り組んできた。代表的なものとして、行政評価システム、市場化テスト、PFIなどがあり、この10年間で民間的な発想や経営の仕組みを取り入れる自治体が全国に広がり、それに伴い職員の意識改革も一定進んだことは評価できる。
ところが、こうした取り組みが10年近く実施されてきたものの、依然巨額の借入金が残り、経常収支比率も高い水準のままである。その上、夕張市の財政破綻をはじめ、破綻予備軍も数十程度あるなど、自治体の危機的な経営状況は何ら変わっていない。改革への基礎づくりはある程度できたものの、それに伴う効果が依然表れていないのが現実だ。
地方自治体の借入金残高・経常収支比率の推移

2. 自治体経営の問題点
この10年、NPMの手法を取り入れた行政改革が行われてきたが、なぜ自治体の経営状況が改善されなかったのか。以下で、行政評価などのNPM手法への取り組みを多面的な視点から振り返り、自治体経営の本質的な問題点について整理した。
(1) 改革手法の導入プロセスにおける問題
急速な財政悪化の中、自治体は、NPM手法を取り入れた経営改革に注力するが、元々民間企業のような独自の経営管理手法や改善手法が確立されておらず、またそうした手法の導入経験もほとんどなかったため、導入プロセスにおいて様々な問題が浮上してきた。
一つは、導入の目的や導入後の運営方針・体制が明確でないまま導入したことである。行政評価についても、活用方法次第で手法の設計や運用方法は異なる。手法の活用方法についての庁内合意形成や体制整備がないまま形式的な導入を急いだため、運用段階で様々な問題が発生し、導入効果がなかなか出せないという結果になっている。新たな手法を導入する際には、狙いをなるべく絞込んで取り掛かることが重要である。
二つ目は、行政評価のような経営改革の仕組みを導入するプロジェクトであるのに、通常の事業を実施するのと同じような扱いがされていることだ。そのため、導入する期間(2〜3年)が済めば事業としては完了扱いになる。しかし、こうした手法というものは、本来構築した仕組みを運用することを前提に導入するものであるので、導入時よりも運用段階に十分な体制を整え、フォローしていくことが大事であるが、そのような取り組み方をしている自治体は極めて少ない。いったん完了扱いとなると、フォローするための予算や人員配置がほとんどなくなるため、運用上の問題が発生しても対応が十分できず、導入半ばで頓挫している自治体が増えてきている。
三つ目は、導入後に運用状況や効果を検証し改善していくというプロセスが取られていないことだ。筆者の経験から2〜3年程度の導入期間だけでは、こうした仕組みを定着させるのは困難だと見ている。なぜなら、自治体には民間企業のように改革・改善の実績・ノウハウがほとんど蓄積されていないため、職員への浸透に予想以上の時間と労力がかかる。また、そのような環境で導入するため、運用に適した状態に改良や工夫を加えていくにはさらに2〜3年程度は必要と考えているが、導入後に定着状況などを検証する機会がないため、問題を抱えていてもそのまま放置されているのが実態である。最近では、事務事業評価が上手く運用できないので、事業仕分け手法に乗り換えるというような自治体も出てきているが、運用が適切に行われなければどのような手法でも効果は期待できない。導入して5年程度経過して、効果が出ていないと思われる場合は、一度制度の検証を行うべきだ。
(2) 目的・成果志向が組織全体に浸透していない
行政組織において成果志向の考え方を取り入れるということは、施策や事業の目的を明確にし、一定期間における目標数値を設定するということになる(数値化できない場合は定性的な目標設定となる)。つまり、PDCA(Plan→Do→Check→Action)サイクルでいえば、総合計画等の策定段階(P)で目標を設定し、その目標の達成状況を施策や事務事業の評価を通じて点検することになる。ところが、筆者が自治体での評価支援や職員研修などに関与した経験では、自分の業務の目的や達成すべき成果のレベルを理解している自治体職員が非常に少ないことを実感している。その原因として、担当する業務に関する情報不足のため住民のニーズや課題が把握できておらず、どのような手段(事務事業)をどのくらい実施すればよいか担当部署においても明確にされていないということがある。さらに、手段についての検討を行う以前の問題として、前例踏襲の考え方が強く、過去から実施してきた事業を継続することが当たり前のように考えられ、組織全体でなかなか成果に基づく「点検→改善」が行われていない。このようなサイクルで業務が行われるため、PDCAサイクルといっても実質的には「P⇔D」の繰り返しになっているだけのように思われる。
(3) 先送り型の評価・意思決定によるリスクの増大
行政と民間の経営を比較したとき、最も違うと感じるのが意思決定のスピードである。企業では意思決定が遅れることで業績に多大な影響を与えることがあり、検討内容も重要ではあるが、それ以上に即断即決が求められることが多い。一方、行政は、市民、議会など多種多様なステークホルダーが存在し、公共性や公平性といった点にも配慮した経営が求められるため、一つの物事を決めるにも検討時間がかかる。また企業のように収益の確保が直接組織の存亡につながるわけではないため、本来なら早期解決すべきことや方向性の判断を早く打ち出す必要があることでも先送りにされることが多い。
これまで政策の意思決定についての手法が特になかった行政において、行政評価システムは、施策や事業の統廃合などの方向性を決める手法として有効であるはずだが、現実は、「現状通り継続」や「見直しの方向で検討」といった評価が多く、意思決定を先送りにしようとする傾向が強い。「取りあえず残す」という考えでは、いつまでたっても事業を廃止するというような思い切った見直しはできず、行政評価の導入効果も発揮されない。
また、先送りによる弊害として、自治体では予算は議会で承認されて執行するというプロセスを経るため、いったん継続・先送りという評価や意思決定がされると、少なくとも1年間は実施することになる。例えば利用者がほとんどいなくても、廃止・休止という判断が遅れれば、誰も利用しない施設の維持管理に何千万円もの税金が無駄に投入されることになる。土地開発公社が長期間保有する「塩漬けの土地」も同じである。景気の低迷や財政悪化などの理由から計画が頓挫または延期される中、自治体の事業計画に基づき公社が先行取得した土地の使い道が決まらず、借入金の利子や維持管理のための経費を垂れ流している典型例だ。本来、先行取得をする時点での事前評価も重要であるが、塩漬けになっているようなケースでは、方針を早く決定しなければ保有によるコストが益々膨らんでしまう。このように、評価や意思決定を先送りにすることにより、毎年巨額の税金が何の成果も生まずに浪費されている実態を踏まえて、現状を正確に把握し、適切な評価と迅速な意思決定ができる仕組みと体制が望まれる。
(4)職員数の削減を目標とした定員管理手法のあり方
総務省は、平成17年3月に「地方公共団体における行政改革の推進のための新たな指針」において、各自治体に対し「集中改革プラン」の策定と公表を要請した。この取組目標の中に「定員管理の数値目標」が定められ、各自治体は削減目標を掲げている。しかし、目標数値を設定する根拠や目標を実現するための方法に問題があるのではないかと考えている。
まず、削減目標を設定する過程の問題である。職員数の適正化に向けた現状分析では、筆者が知る限り多くの自治体は組織全体及び部門別で類似団体と比較し、その結果をもとに削減目標を設定している。この手法は、規模などが類似した他団体と比較することで一定の客観性を確保でき、外部への説明時にもそれなりの説得力があると考えられている。しかし、規模などが同じでも、地域特性や自治体固有の政策、過去の採用実績などにより定員配置の考え方は異なり、職員数を単純に比較して平均的な団体より多い、少ないといった評価をするのは適切ではない。本来は、1)真に必要な業務(事業)を実施した場合に必要な定数、2)現行の業務に配置している人員数の妥当性、3)総人件費の観点からみた各組織の適正な人件費の水準、の3つの観点から実態に即した適正な配置職員数を算出するべきであるが、こうした考え方に基づいた現状分析や職員の適正配置を行っている自治体は少ない。
そして、削減目標を実現するための方法にも問題がある。削減のために一般的に行われているのは、退職者不補充という手法だ。これは、退職した職員の減員分を新卒採用等で埋め合わせることをせず、自然減のような形で職員数を減らしていくという手ぬるい方法であり、民間企業のように積極的に不要な人員を削減していくものとは異なる。特に、ここ数年続く団塊の世代の大量退職を機に一気に職員数の削減が進むと自治体では計算しているようだが、その一方で、採用を手控えるため、経験やノウハウを持つベテラン職員の退職に伴う人材不足という問題が浮上してくる点を見逃してはいけない。本来は、民間のように業務遂行上の適正に欠ける職員やコンプライアンス違反を犯す職員などを分限免職(解雇)にするか、民間や正職員以外でも実施できる業務の外部委託、非正職員化を進めることで人員の適正化を行うような手法が取られるべきだと思う。
次に、総人件費の視点が抜けていることである。職員数が仮に減ったとしても、人件費がそれほど減少しなければ経常収支比率などの財政指標はあまり改善されない。人件費は、職員一人当たりの人件費×職員数であるから、数の削減とともに人件費単価そのものを引き下げることが重要である。最近になって、給与・賞与カットに踏み込む自治体も出てきたが、それでも民間企業と給与比較をすると、まだまだ削減余地がある。特に、問題視されているのが、技能労務職である現業職員の給与水準である。総務省や財務省の調べによると、清掃職員、電話交換手、学校給食員、運転手などの技能労務職員の人件費は同じ職種の民間の2倍程度に達している。現業部門以外の一般事務職にしても、自治体の平均的な人件費がおおよそ700〜900万円程度であるので、企業の規模の差はあるとしても平均的な企業の平均給与よりは高い水準にあるといえる。
職員数の削減ばかりに目が向けられているが、人件費の適正化についても人事・給与制度を抜本的に見直すことを含めて取り組む必要がある。
(5)脆弱なチェック機能
夕張市の財政破綻問題でクローズアップしてきたのが、自治体経営に対するチェック機能の問題である。夕張市の場合、巨額の赤字を一時的な借入金で穴埋めし、翌年度の特別会計からの資金で返済原資に充当するという不適切な財務処理をすることで赤字の実態を隠してきた。自治体には監査制度、議会による予算・決算の承認、行政評価による点検、情報公開制度を通した住民による監視など、行政全般にわたるチェック機能を有しているはずであるが、これらが十分機能していないため、財政悪化に歯止めがかからない状況を作り出している。
外部監査を実施している自治体も少なくないが、外部監査には10〜20百万円程度の予算がついている自治体も見られ、監査結果による成果が出ているのか検証が必要である。また、自治体には監査事務局という組織もあるが、監査の対象が現状の体制では限定されており、内部監査の機能ももっと強化されなければならない。
議会の役割については、予算を決定する機関であることから、議会における次年度予算の内容の妥当性や決算に基づく成果の検証は極めて重要である。これだけ財政状況が改善されない現状をみれば、まだまだ議会での非効率な経営に対するチェックが甘いと言わざるを得ない。議会(議員)が住民代表であることを考えれば、議会による監視と改革に対する提案などがもっと行われて当然であり、議会運営のあり方も見直されるべきである。
さらに、自治体経営に対するチェック機能は、財政面だけの問題ではない。公務員による不祥事が後をたたず、コンプライアンスのレベルの低さが指摘されている。住民の生命・財産を守り、公金や個人情報を扱う職場である以上は、民間企業以上のコンプライアンスの体制整備が求められる。
次回本稿後編では、上記の問題点に対する改善策を提案したい。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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村田 丈二
(株)日本総合研究所
上席主任研究員 創造都市戦略クラスター 地域戦略クラスター
専門分野:行政マネジメント,行政評価、行政経営改革、総合計画
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