[コラム:プロフェッショナルの洞察]営業改革が必要な会社
出展:日本総合研究所ホームページ(http://www.jri.co.jp/)「プロフェッショナルの洞察 (株)日本総合研究所 総合研究部門 ディレクタ 兼 主席研究員 暮らしと健康イノベーションズ 木下 輝彦 Vol.7:真の営業改革が進展するために 第1回」より
活況を呈する市場がある一方で低迷を強いられる市場がある。同じ市場であっても、売上を伸ばす企業がある一方で苦境に追い込まれる企業がある。顧客のニーズが多様化・曖昧化・専門化・複雑化する状況下で、真の営業改革とは何か、営業部門の活路をどう見出したらいいか、主席研究員の木下輝彦に語ってもらった。
低成長時代の営業活動を考える
――「営業改革」を考える手始めとして、営業改革をしなければならないのは、どのような企業でしょうか。
今、営業改革の推進を検討する必要があるのは、1960〜80年代のいわゆる高度経済成長期に成功パターンを作り上げ、今でもそのままの営業スタイルに固執している企業です。当時は、右肩上がりで日本経済が成長しており、商品を市場に出せば売れるという恵まれた時代であり、時間と熱意さえあれば売上が上がっていました。しかし現在は市場が成熟し、「出せば売れる」というそもそもの根底が崩れ、一からお客様との関係性を作り直さないといけない状況です。同じ業種でも、世の中の変化を敏感に察知しニーズに合わせて自分たちの動き方を変えていく企業もあれば、今までうまくいったのだから今後もうまくいくはずだと考える企業では大きな差が出ています。おそらく後者の場合、総じて営業活動そのものが厳しい状態になっているのではないでしょうか。
素晴らしい商品であれば売れると信じ、商品開発を強化する企業もあるかと思いますが、残念ながら今は良い商品ができるとすぐに他社がキャッチアップをして同じような商品を作るため、商品そのものを差別化できる期間が非常に短くなっています。とくに、このような企業では全般的に営業の力が売り上げを左右するので、どうしても営業力の強化は必須となってくるのです。
――営業改革を成功させた企業に見られる特徴としてどのようなことがありますか。
顧客からの要望を感度よく察知し、最終的に何を営業活動の目標にしたか、そしてその目標を解決するための変革をしたかどうかで、会社の業績に大きな差が出てきています。
たとえばある化粧品メーカーの場合、営業が小売や卸に商品を押し込めば、あとは店が売ってくれるという、1970〜80年代に成功したやり方を捨てきれず、店舗での展示方法、店頭で販売を担当している女性販売員のスキル向上など店舗活性化のための改革に着手しました。しかし今は市場には多くのモノが溢れ、消費者自身、何がほしいかわからない時代であり、最終の消費者に商品を届けるためのコンセプトや提案内容に着目してモノを売らなければ不良在庫は溜まるばかりです。
その一方で、別の化粧品メーカーは化粧品自体をアピールすることではなく、美と健康をどう実現していくか、その中での化粧品の位置づけを中心に営業活動やマーケティング活動を捉え直し、業績向上を実現しました。
同様の傾向は、流行に敏感なアパレル業界でも見られます。従来のアパレルメーカーは衣料品の企画・製造をし、卸を通じて小売店に売るというビジネスモデルでした。このモデルでは、日々の販売情報の入手にタイムラグが生じます。とくに百貨店のインストアでは、百貨店のPOSデータを公開してもらえないため、何が、いつ、どれくらい消費者に売れているのかわからないまま、とりあえず売れ筋商品を卸や小売に押し込んでよしとされ、営業担当者の評価も卸や小売に対しての売上金額で評価がされています。
他方、SPA(製造小売業)と呼ばれるビジネスモデルを採用し、製造から小売まで一貫して行うことによって、業績を伸ばしているアパレルメーカーも増えてきています。自ら店舗を構え、社員は店舗に立って顧客と積極的に接触し、販売情報や顧客のニーズを社内で瞬時に共有する仕組みを作っています。このような企業では、営業担当者の評価も消費者にどれだけ売れたかで評価されています。
これらの事例からわかるとおり、顧客のニーズを素早く企業内に取り込む努力をし、改革を実行に移せているかどうか、また顧客から得た情報を基に次の商品開発や営業戦略に活かせているかどうかで企業の業績が変わってきているのです。
――顧客のニーズを企業内に取り組む方法としてどのようなことがありますか。
多くの企業では、顧客往訪の結果を営業日報や活動報告に書くことも営業担当者の業務の一つです。しかし逐一報告を書くと社内で変に詮索されるため、詳細な事柄は自分の頭の中とメモに留めておき、差し障りのない公式見解だけを記入するというケースが多発しています。そのため肝心な情報が社内で共有されず、営業担当者は顧客や市場の情報を取り込むセンサー機能を果たせていません。
以前、ある食品メーカーで、トップセールス5人に営業担当者1000人分の営業日報を毎日読んでもらい、顧客の対応方法などを逐次営業担当者にフィードバックしてもらう活動を行いました。タイプにもよりますが、トップセールスは営業日報から営業活動の問題点や課題を読み取ることができるため、具体的かつ効果的な解決策を営業担当者に提示することができます。その活動施策が的を射ており、かつ売上増につながるので、営業担当者は詳細に営業報告を記載するようになりました。このような活動を通じて、この食品メーカーは営業担当者をセンサーとして機能させることができ、結果として顧客の生々しい情報が次第に社内に蓄積されるようになり、業績も向上していったのです。
プロセス指数で営業活動を評価する
――成功している企業がある一方で、今までの成功体験を捨てきれず、従来の営業活動を見直せない企業もありますが、その要因は何でしょうか?
営業部門は、昔の成功体験からなかなか脱しきれない性質があります。なぜならば売上金額が増えることのみが営業活動のすべての指標になってしまっているからです。モノ作りや企画をする人たちは、具体的な「モノ」を比較することで、そのモノの悪い点を物理的かつ定量的に把握できますが、営業は顧客と接触をし、顧客が受け入れてくれるかどうかで売上が決定するため、良い営業活動のやり方を定量的に可視化するのが困難です。
高度経済成長時代はモノがありさえすれば売れる時代であったため、時間と熱意さえあればモノが売れ、営業活動も売上金額のみで評価することは理に叶っていました。しかしモノが豊富にあり、消費者自体も選択に迷う今の時代は、何をすれば売上が上がるのかということを理解し、営業活動の変革につなげていかないと売れません。したがって売上金額という結果ではなく、売上を上げる前の指標を作ることが営業活動を評価するためには極めて重要なのです。この指標を「プロセス指数」といいますが、現在でもこの指数を設定することはなかなか企業に浸透していません。
――プロセス指数の設定において成功している事例はあるのでしょうか。
ある食品会社の営業担当者には、いっさい売上ノルマがありません。担当エリア内にある店舗のうち何店と取引をしているか、小売店と共同で何回プロモーションを実施したか、店頭に並んでいる商品の鮮度(回転率)、それと商品が置いてある棚の位置やフェイス(商品が並べられている列)の数、これらが営業担当者の目標指標です。
この企業では、これらの数値が改善できれば自動的に売上は上がるということを、コンセプトとして打ち出しています。したがって売上が悪い時には営業担当者自ら「プロモーションが足りないのではないか。」、「古い商品を置いてないか。」など改善すべき点が把握でき、この4つの指標が非常に効果的に機能するのです。
ところが売上金額だけを営業の指標にしている企業は、目標数値に達せられない要因を見出すことが困難です。「なぜ目標数値に到達できないのか。」と営業部門で議論されたとしても、結果としての数値しか見ていないため、営業活動の課題に気づくことができないのです。
結局、何が悪いのか、誰もわからないまま、翌期の計画が対前年5〜10%増と根拠のない数字で積み上げられ、ますます実績と目標とのギャップが大きくなるという負のサイクルが回っていくことになります。
今こそ営業改革のチャンス
――営業部門を変えていく上でネックになっていることはありますか。
営業改革の難しさは、改革途中にも関わらず、売上目標など常に短期的な数字をもう一方で要求される点です。顧客と長期的かつ良好な関係を築いていくために営業活動を変えていこうと言いながら、今月の売上はどうかという話になるので、どうしても目の前の目標数字を積み上げようとします。そうなると「改革」には至らず、今までの活動を「改善」するという短期的な思考に陥りがちです。短期的な売上目標を抱える営業担当者は、まずは当座の数字を作るために手堅い顧客と話をし、そこそこの数字を作っていくことにどうしても目が向いてしまいます。その結果、抜本的な改革は後回しにされてしまうのです。
――“改善”を積み重ねるだけでは間に合わないのでしょうか。
もちろん間に合う企業もあります。ただ、非連続な変化を遂げる顧客ニーズ、ドラスティックな打ち手を講ずる外資系企業の戦略的取り組みとその実行のスピードから考えて、これまでのパラダイムから脱し切れていない企業は今やらないともう後がないと思っています。
不況のときには売上が落ち込むため、営業部門は「営業改革をしよう!」と前向きな姿勢になるのですが、現在のようにちょっと景気が上向き、業績が少し改善されると自分達の営業活動を見直す気運が低下してきます。業績の回復はあくまで景気回復によってもたらされたものであり、自分達の営業活動が改善されて業績向上につながったのではありません。この勘違いに気づかなければ、なかなか真の営業改革は定着しません。
不況になり始めた時に営業活動を変えていくのとは異なり、業績が好調な時に改革を行うことで、改革を行うことで発生してしまう痛みや苦しみを最小限に抑えることが可能です。景気が少し持ち直した今こそ営業活動を変えるチャンスなのですから、顧客との関係、営業のあり方、マーケティングのあり方を今一度、考えるべきではないかと思います。
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木下 輝彦 Teruhiko Kinoshita
日本総合研究所
ディレクタ 兼 主席研究員
神戸大学大学院経営学科修了。大手都市銀行を経て日本総研に入社。営業戦略構築を中心としたマーケティング戦略構築に着手し、CRM(Customer Relationship Management)、「顧客起点の経営改革」を旗印に、新規事業開発支援、経営戦略構築、イノベーション・マネジメントのコンサルティングに従事。電力、通信、住宅、医薬、食品・飲料、小売と幅広い業界のプロジェクト・マネジメントを担当しつつ、産官学協同のビジネスモデル構築を目指している。2000年より流通科学大学流通科学研究所教授、その後2006年より大阪産業大学流通イノベーションセンター教授を兼務。
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