[トピックス]インドからIITのエリートはなぜ日本に来ない?
「IIT」と聞いてピンとくる人は、日本にはまだそう多くないかもしれない。IITとはインドの理工系大学の最高峰であるIndian Institute of Technology(インド工科大学)のことである。
毎年9%前後の経済成長を続けているインド。その経済成長の最前線にいる人たちの多くが、インド全土に7校あるIITの出身者だといっても大げさではないほど、優秀な人材を多数輩出するエリート集団だ。
そんなエリート集団から優秀な人材を得ようと、世界各国の企業がこぞってIIT卒業生のリクルートに勤しんでいる。毎年3000人以上の卒業生の就職先やその初任給は、インドのメディアを賑わせている。
数年前まで、IIT卒業生の進路といえば、言葉の壁がなく、報酬が高く、大手IT系企業が多いアメリカに渡りキャリアを積むことだった。しかし、最近になって新しい傾向が出てきた。卒業生の8割以上がインドに留まり、インドでキャリアを積むことを選んでいるのだ。後退するアメリカ経済に対し、全開で突き進むインド経済。インドの理数系エリートたちは早々にアメリカに見切りをつけ、母国に大きなチャンスを見出すようになった。
そんな流れの中でも、アメリカのIT企業は現地でリクルート活動を行うなど、優秀な人材を確保すべく積極的にIITの学生にアプローチを続けている。
もちろん、日本の企業もIIT出身の優秀な人材を確保したいという思いはあるようで、IITの校内に求人広告などを出してはいる。しかし目下のところ、今ひとつ積極性に欠けている。募集広告だけの交流では、日本企業の魅力は到底伝えきれないようで、日本での就職を選ぶ学生は1%にも満たないという。
昨年11月、IITの同窓会を日本で開き、経団連をはじめ多くの日本の組織も後援し、日本企業のトップらも参加した大々的なシンポジウムや交流会を主催したIITの卒業生サンジーブ・シンハさんは「日本では言葉の壁もある。日本独特のビジネス風習もある。それ以前の致命的な問題として、IITの学生だけではなく、インド人にとって、日本という国はなじみが薄い国なのです」と語る。
インドの街には日本のメーカーの自動車が溢れ、日本ブランドの電化製品も街の電気屋に溢れている。日本から来たといえば「ソニー」「トヨタ」と言われるほどなのに、日本はなじみが薄いとは少し驚く。日本イコール電化製品や自動車というイメージだけで、日本という国のイメージは浸透していないようだ。これもまた表面的な交流の成果なのかもしれない。
日本企業の採用担当者がインドに行き、IITの学生と直接対話する機会を設けるなど、もっと積極的な交流を続ければ、日本で就職という選択肢も彼らの中に芽生えてくるだろう。ただし、積極的な交流だけでは、魅力的な就職先にはなりきれない。彼らにとって魅力的な就職先となるには、企業そのものが魅力的である必要がある。
数社の日系企業で働いた経験を持ち、現在は都内の外資系証券会社に勤めるサンジーブさんは「日本の企業はまだ積極的にIIT卒業生のリクルート活動を行なっていない。また日本企業の特徴として、欧米やインドの企業とは異なり、責任ある大きな仕事を任せられるまでに非常に時間がかかる。そして何より大きいのは、国際競争力のない企業では、今後に役立つプロフェッショナルのキャリアを積むことが難しいということです」と厳しい。
インドの頭脳の獲得にようやく動き出した日本が、インドでチャンスをつかみたいと思っている大半のIIT卒業生に、インドで働く以上の何かを提供できるだろうか? 海外に行きたいと思っている彼らに、アメリカ以上に魅力的な土台を提供できるのだろうか? グローバル社会に適応するための企業の意識改革の必要性が見えてくる。
IITでは応用力や分析力、柔軟性が徹底的に培われる。厳しい学生生活を送った彼らは非常にバイタリティーに溢れている。技術系だけでなく、その他の分野でも十分な才能を発揮している。そんな彼らの多様性を受け入れるだけの企業の器が必要だ。
日本になじみが薄いIIT卒業生を日本に呼び込むためには、企業側の積極的な働きかけ、そして他国の人材を受け入れる社内体制を整えることだ。この2つがうまく作用すれば、日本企業はもっと魅力的な就職先となり、優秀な頭脳を抱えることになるはずだ。日本市場だけで商売が成り立つドメスティック企業にとっては余計なお世話だろうが、世界を舞台に勝負していきたいのなら、人材確保の面でももっと海外に目を向けるべきだろう。
※この記事は、インド専門ニュース&コラムサイト「ヴォイス・オブ・インディア」の提供です。ビジネス、政治から社会、文化、エンタテインメントまで、インド発の最新情報をお届けしています。
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