[コラム:研究員のココロ]海外子会社の文書化を終えて〜整備された文書をどう活かすか? 【3】決算・財務報告プロセス編〜
出展:日本総合研究所ホームページ(http://www.jri.co.jp/)「研究員のココロ (株)日本総合研究所 副主任研究員 経営システム研究クラスター 吉田 徹 2008年5月2日付」より
第3回目は、決算・財務報告プロセス統制について見てみよう。
有望マーケットのシェア獲得、労務コストを含む原価低減、大口取引相手の海外進出等、日本企業による海外現地法人設立の動機は様々であるが、当然ながら設立した法人の数だけ経理・決算業務が要求される。
しかしながら、事業が軌道に乗り、一定レベルの安定した利益が確保され、更なる拡大が見込めてもなお、常駐者として日本から優先的に派遣されるのは、(例えば製造業であれば)技術者、開発者や営業担当者であり、間接部門である経理・決算業務は現地採用の担当者に任せ、詳細な会計処理の内容は当該現地担当者以外誰も分からない、という状況も少なくない。
財務報告制度における“連結重視”という言葉自体は周知されて久しいにも関わらず、海外子会社の経理・決算業務の体制の整備は、先送りされてきた感が否めない。
従来は、これを補う機能として、当該現地法人の外部会計監査人たる現地会計事務所(監査法人)の存在があり、なかには主導権を握っているケースもまま見られた。しかし、今回の制度で“内部”統制が要求されたことで、その対応に苦慮された企業も多いのではないだろうか。
海外子会社の経理・決算業務に係る内部統制の整備・運用が何故困難なのか、また、今後の対応に当たってどのような点に留意すべきなのか、について考察してみたい。
1.内部統制の整備・運用に苦慮する要因とその対応策
1)コミュニケーション
第1の要因として、親会社の内部統制整備担当者と現地経理担当者とのコミュニケーションの困難さが挙げられる。
経理・決算業務は、「当該国の会計実務や当該会社の経理処理ルールの理解」という前提の上に成り立っている。したがって、「各国間で大なり小なり異なる会計基準」や「その会社の身の丈にあった経理処理ルール」を理解しないまま、親会社の会計実務や経理処理をふまえた内部統制を押し付けても現地の理解はなかなか得られない。また、当該国独自の文化、慣習のもとに社内組織、分掌が成立していることも十分に考慮する必要があろう。
このような困難の解決策としては、社長しかいないこともままあるが、決算担当者の上役にあたる日本人社員が、たとえ経理・決算実務経験が乏しくとも積極的に調整役となること、親会社側も内部統制整備担当者のみならず、経理部門の連結決算担当者が積極的に関与することが挙げられる。また、今回の制度の趣旨でもあるが、連結グループの財務報告に“重要な”影響を与えるリスクはどこにあるのかを的確に見極める必要があることも忘れてはならない。
2)着手、フォロー
次に地理的に遠い海外より、身近なところから着手したいという心理的な影響もあり、海外子会社への対応依頼、フォローが遅れがちになるという点が挙げられる。3月決算企業が多数を占める日本企業に対し、海外は12月決算企業が多いため、ただでさえ日数が限られているケースは多い。また、国内企業であれば、不備の発見、会計監査人との協議、発見された不備への対応等が比較的タイムリーに実施可能であるが、海外子会社の場合、不備が放置されたまま決算期末近くになって発見され、大慌てで対応する、といったようなことも起こりかねない。
企業グループ全体のきめ細かなスケジュール策定、進捗管理、情報共有が必要であることに加え、海外子会社の内部統制監査が現地の会計監査人により行われる場合は、(1)親会社、(2)親会社の会計監査人、(3)海外子会社、(4)海外子会社の会計監査人、の4者間で、緊密な情報共有を行うことが肝要である。
2.整備した内部統制をどう活かすか
ここまで制度対応上の困難さと留意点について述べてきたが、最後に、本来どのように経理・決算業務の内部統制が整備・運用されるべきかについて私見を述べたい。
内部統制とは抽象的な概念であるため、企業グループによってそのアプローチは異なって当然であるし、各子各社が責任を持って内部統制整備・運用の義務を果たすべき、と考える企業グループも少なくないと思われる。一義的にはそうあるべきと筆者も考えるが、こと経理・決算業務に関しては、これまで述べてきたように脆弱な体制になりがちなことに加え、親会社と海外子会社との会計方針の統一(企業会計基準委員会 実務対応報告18号)が義務付けられる昨今、親会社による統制への積極的な関与が不可欠であると考える。例えば、重要な連結海外子会社については、E-Mailや電話・TV会議のみならず、親会社の経理・決算担当者が実際に現地を訪れ、経理・決算業務に留まらず幅広く情報を共有することは、親会社による子会社決算書の分析・モニタリングとともに、連結グループとしての最も重要な統制のひとつである。今回整備した文書はその際のベースとして大いに活用したい。
また、四半期報告制度の本格導入もふまえ、決算業務はますます多忙を極めることになるため、連結作業に必要な資料のフォーマット化、簡略化、連結作業のルーティン化をこれまで以上に進めていくことが要求されよう。
※コラムは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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吉田 徹
(株)日本総合研究所
副主任研究員 経営システム研究クラスター
専門分野:財務会計 管理会計 内部統制 M&A
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