[コラム]「日本のスタグフレーション対策」-残されているのは円高政策-
出展:三菱UFJリサーチ&コンサルティングホームページ(http://www.murc.jp/index.php)「真野輝彦客員研究理事コラム 2008年5月1日付」より
4月11日に開催されたワシントンG7は、米国住宅市場の低迷、国際金融市場の緊張状態、原油及び一次産品価格高騰によるインフレ圧力によって、世界経済は下方リスクが残存していることを確認した。しかし各国の経済状況がそれぞれ異なり、共通の対応策は打ち出されなかった。国内では、福田政権にとって初の国政選挙となった衆院山口2区補選で与党が敗北し、政治の先行き不透明度が増している。この時点での日本経済の現状とその対応策を考えてみたい。
日本経済は、景気低下リスクとインフレ要因が同時に存在する、いわゆるスタグフレーションの状況にある。原油、穀物、鉱産物などの高騰は途上国経済の拡大による超過需要と過剰流動性による投機的需要に起因している。原油は昨年今頃との対比で2倍以上、鉄鋼石の60%上昇など大幅な上昇を考えると、時間差はあるものの消費者物価の上昇は確実である。
既に消費者物価は1.2%上昇し、日本の実質金利はマイナスに転じていることから、円金利の引き上げは不可避の状況にある。景気悪化の可能性を考えると、政策金利の大幅な引き上げは難しく、政治的圧力もかかろう。しかし日本の超低金利が円キャリー・トレードに繋がっていることから、過剰流動性を絞込み、同時に上昇しつつある長期金利は市場需給に任せることが肝要である。
財政赤字が年々拡大し、日本の国際的信用を低下させている財政政策は使うべきではない。消費を冷やす増税は論外であり、むしろ減税が必要である。問題の道路特定財源だが、1974年の導入以来30年以上が経過している暫定税率は廃止すべきである。減収分は一般財源化の新しい枠組で、ねじれ国会で明らかになっている無駄な歳出削減で十分捻出できよう。そのための対話と妥協が与野党の国民に対する義務である。
即刻実行できるのが円高政策である。グローバル化の進展で賃上げに多く期待できないことは春闘の結果を見ても明らかである。120円から100円と円高になれは原油や穀物の輸入価格は20%ほど低下し、物価上昇による消費者負担の一部中和に役立つことになる。輸出への悪影響を心配する声もあるが、過去 10年の内外インフレ差、年率3〜5%程度は円高になっても競争力が落ちることはない。しかも全体では黒字の貿易収支も輸出の円建て化が進み、原油などの輸入はほぼ100%米ドル建てのため、外貨建ての貿易収支は赤字であり、貿易全体をみれば円高はメリットなのである。日銀総裁選出の過程で、ドル買い介入問題は採り上げられたが、ドル売り介入の是非について質問がなかったのは不思議である。円高を梃子に日本の構造改革に繋げ、戦後の惰性を打ち切ることが、結果として景気対策にもなるのである。
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真野 輝彦(まの てるひこ)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株) 客員研究理事
1956年 東京銀行入行。
フランクフルト支店為替課長、本店為替部次長、スイス東京銀行総支配人、
丸の内支店副支店長、調査部長を歴任。
1985年東京銀行取締役、1987年東京銀行参与。
1996年合併に伴ない、東京三菱銀行参与。
1999年より現職
日本商工会議所・東京商工会議所 政策委員会委員
国策研究会 評議委員会議長
日本国際フォーラム 政策委員
読売国際経済懇話会 特別会員
International Club of Bank Economists会員
国際通貨研究所 評議員
聖学院大学・大学院 教授
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