[コラム:研究員のココロ]海外子会社の文書化を終えて〜整備された文書をどう活かすか?【4】全社的内部統制編〜
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出展:日本総合研究所ホームページ(http://www.jri.co.jp/)「研究員のココロ (株)日本総合研究所 主任研究員 経営システム研究クラスター 太田 康嗣
2008年5月12日付」より
第4回目は、全社的内部統制について見てみよう。
1.必然的に進む活用
全社的内部統制とは、企業としての基本的な意思決定・事業執行の仕組み、具体的には、全社的に適用される規程類や制度・システムを指す。したがって、全社的内部統制で整備される文書とは、各種の規程や制度、それらを運用する際の各種の様式、さらには、それら様式によって残される記録等ということになるが、海外子会社において整備された全社的内部統制文書を活用することによって何が起きるか?
大げさに聞こえるかもしれないが、私は、この文書の活用によって「グローバルに通用する経営システムの構築」が進むと考える。しかも、それは、あえて意図しなくても必然的に起きると考える。
そのメカニズムを説明しよう。
金融商品取引法にもとづく内部統制においては、全社的内部統制は、企業集団全体を対象とする全社的内部統制とされているため、企業は、全社的内部統制が「企業集団として」有効に機能していることを証明しなければならない。するとどうなるか?
全社的内部統制の重要要素として実施基準でも重視されている「倫理観」を例に考えてみよう。
海外子会社において倫理観を文書化する場合、多くは、本社の倫理規程等を現地語に翻訳して適用するという方法が取られるであろう。翻訳作業に結構骨が折れることもあるがとりあえずの文書化はこれで完了である。しかし、この倫理規程どおりに「企業集団として」の一員として有効に機能させていくためには、海外子会社の従業員にも倫理規程の内容を周知し、遵守状況を観察し、逸脱行為があれば適切に処理し、そして、これら一連の活動を記録する、というプロセスを実施しなければならない。
ところが、いざ実際にやろうとすると、このプロセスにおいて様々な問題や障害が発生する。ある企業集団では、周知プロセスにおいて、現地従業員から「違法行為やそれに対する処罰が国法として法定されている以上、あくまで個人的精神活動の領域である「倫理観」にまで会社が介入するのは人権侵害ではないか」とのクレームが出た。適用プロセスにおいて「雇用契約に記載されていない項目について遵守を求める法的根拠はあるのか」という疑問を指摘された例もある。
倫理観というのは、極めて流動的・相対的な概念であり、その国の文化や社会構造によって変わるだけでなく、究極的には、個人の価値観にまで遡る非常に奥深いテーマである。しかし、「企業集団として」有効に機能していることを証明するためには、企業集団としての標準(スタンダード)を作成し、それに基づいて仕組みや制度を運用していかなければならない。
そこで、企業としては、多様な文化的・社会的背景を持つ多数のメンバーの合意を得つつ、グローバルな視点から倫理規程の内容や運用方法・体制の整理・見直しを行わざるを得ないことになる。
そして、「企業集団として」の有効性が求められる以上、他の文書においても多かれ少なかれ同様の現象が起きるため、結果として「グローバルに通用する経営システムの構築」が進むのである。
・各社の形は文化風土を 色は経営システムを表す

2.必然的活用の前提条件
もっとも必然的活用の前提となる条件が一つだけある。
それは、海外子会社における全社的内部統制の管理は、基本的に本社の管理部門が一括して行うということである。子会社といえども一つの法人であり、また、子会社の管理は、当該会社が属する事業機能の部門長(例:生産会社→生産部門長、販売会社→営業部門長)の分掌となっていることが多いため、海外子会社における全社的内部統制も関係会社(の社長)や本社のライン部門(長)に任せるケースが散見される。しかし、全社的内部統制を「企業集団として」有効に機能させていくには、企業集団全体の視点から各種の仕組みをハンドリングできる能力と権限が不可欠であり、それは、本社の管理部門が最も多く有しているはずである。したがって、少なくとも海外子会社において全社的内部統制が定着するまでは、本社の管理部門が担うべきである。あくまで「別会社だから」と各社や所管事業部門の自主性に委ねることは、「企業集団として」の全社的内部統制の活用を遅らせかねない。
本論で述べた全社的内部統制文書の活用は、要するに「きちんと運用する」、ということに過ぎない。また、「企業集団として」の統一性・整合性の確保は、本来、文書化プロセス自体で行われるべきである。
しかし、多くの場合は、時間的制約の中で「とりあえず会社ごとの文書化だけはした」というのが実態と思われる。今後、文書化された規程や制度を実際に「企業集団として」運用するプロセスを通じて、わが国企業集団の真の国際化が一層進展することを期待したい。
以上
※コラムは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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太田 康嗣
(株)日本総合研究所
主任研究員 経営システム研究クラスター
専門分野:都市・公共論、行政マネジメント、IT政策
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