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[コラム:研究員のココロ]判例と「部下手当」にみる企業のコミュニケーション対策 〜安全配慮義務をいかに果たすか〜

2008年05月20日 03:38更新 前の記事 次の記事  コラム・人事・組織戦略一覧
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出展:日本総合研究所ホームページ(http://www.jri.co.jp/)「研究員のココロ (株)日本総合研究所 上席主任研究員 人事・組織戦略(東京)クラスター 高橋 敏浩 2008年5月19日付」より

◆企業の安全配慮義務のクローズアップ

 マクドナルドに代表される「名ばかり管理職」で残業代の未払いがクローズアップされた。管理職の線引きが焦点になっているが、グレーゾーンが大きいこの課題に正面から向き合うとどれだけの企業がアウトになることか。むしろ注目すべきは企業の安全配慮義務である。

 入社2年目社員の自殺の原因が過重労働等にあるか否かが争われた電通事件(最高裁二小 平12.3.24)では、使用者は労働者の健康を損なわないように注意する義務を負っているとされた。

 また最近では東芝の従業員が長時間労働によりうつ病を発病したのに解雇したのは違法だと争った訴訟で、東京地裁は4月22日、解雇を無効とし、未払い賃金など約2,700万円の支払いを命じる判決を出した(東芝は直ちに控訴)。判決は従業員がうつ病になった2001年4月までの時間外労働は月平均90時間に上ったと指摘、うつ病と業務との因果関係を認め、会社が従業員の業務を増やしたことが症状を悪化させたとして、「心身の健康を損なわないような配慮をしなかった」と述べている。

◆パワハラによる自殺も労災認定

 昨年秋、パワーハラスメントによる自殺を労災認定と初めて認めた判決が出た(静岡労基署長〔日研化学〕事件 東京地裁判決平19.10.15)。この事件では自殺した男性の遺書も公開され、職場のコミュニケーションのあり方について改めて考えさせられる契機となった。男性は上司と「雑談もできない状態」になり、どんどん話ができなくなっていったという。上司の部下に対する言動が精神障害を発症させるほどの過重な心理的負荷であることなどは言語道断だが、そもそもコミュニケーションがとれない状態は問題であろう。

 ストレスが原因で自殺が多いと言われているのが自衛官である。人事院のまとめ(2005年度)によると、一般職国家公務員10万人当たりの自殺者数は 17.7人に対し、自衛官はこの2倍以上の37.8人に上る。自殺理由は「借財」24%、「家庭」11%、「職務」4%となっているが、最も多いのは「その他・不明」で約6割。この内訳は明らかにされていないが、ストレスの強い職務であることは想像に難くない。いじめについて自衛隊では否定しているが、自殺の原因はいじめにあるとする訴訟が全国で2件起こされており、今後提訴を予定している遺族もある。
 
◆仕事、給与より「よい人間関係」を求める新社会人

 今年の「新社会人の意識調査についてのアンケート」((株)ネットマイル、2008年3月)によると、「あなたが会社に求めることは何ですか」の問いに対して、「打ち込める仕事があること」48.4%、「給与などの待遇面」42.0%を抑えて「人間関係がよいこと」がトップで63.0%。「上司や先輩とのつきあい」29.6%、「風通しの良さ」28.4%も関心が高い。さらに「あなたの就業意識について」の問いで、「定年まで勤めたい」20.6%、「できるだけ長く勤めたい」35.0%となり、長く勤めたい派が55.6%。男性のみでは63.6%に達する。

 昨年の産能大の新入社員の会社生活調査でも「終身雇用を望む」新入社員は68%に及び、5年前から17ポイントも増加している。労働政策研究・研修機構の2007年調査では、幅広い世代で「終身雇用」が支持され(86.1%)、「年功賃金」の支持も71.9%で過去最高を示した。

 働く人の意識としては安定志向が高まり、人間関係のよいストレスの少ない職場で長く勤めたいという志向が各調査から端的に表れている。

◆注目されるコミュニケーション対策 〜部下手当〜

 社員のコミュニケーションに予想外の気遣いをする会社が現れた。「部下手当」である。(株)武蔵野では部下4人以上の管理職には25,000円の手当を支給し、月1回必ず部下と飲食することを義務付けている。同社ではトップ自らが飲み会の効用を説き実践していたが、これを全社的に展開したものである。楽しく飲めるよう定めたルールは4つ。(フジテレビ「とくダネ!」2008年4月11日)

1. 宴会の席順はくじ引きで決め、上下関係にとらわれず楽しむ。
2. お酌は禁止、相手に気をつかわず手酌で飲む。
3. 上司は長居しない。1.5時間程度で勘定をすませ引き上げる。
4. 飲み会申請の見える化。毎月5日までに領収書添付で、いつ、だれと飲食したかを届出、オープンにする。2ヶ月申請しないと手当はカットされる。

 また日本綜合地所(株)ではこの4月から部下との飲食や冠婚葬祭に充てるための部下手当を設定。役職と部下の人数に応じて月10万円から30万円(部下 20名以上)を支給する。しかも通常の給与振込口座とは別に専用口座を設ける。年間1億5千万円の負担増となるが「部下とのコミュニケーションをスムーズに図るため」には惜しくない投資と考えたのであろう。

 最近、社員がみんな不機嫌でギスギスした職場が増えているらしい。社内での会話が減り、個々の社員の業務量や心理的負荷が把握しづらくなっている。各企業はマック裁判を機に残業代未払いリスクには相当神経を使い始めているが、安全配慮義務はあまり認識されていない。これに警告を発する判例が増えており、過労死の場合は億単位の損害賠償になる可能性もある。部下手当に追随する企業がどのくらい現れるかは不明だが、使用者は従業員の健康管理はもちろんのこと、職場のストレスを軽減し、コミュニケーション、人間関係を良好に保つための画期的な方策を実施する必要に迫られている。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

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高橋 敏浩
(株)日本総合研究所
上席主任研究員 人事・組織戦略(東京)クラスター
専門分野:組織・人事管理、人事業務改革・人材マネジメント改革全般
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