[トピックス]TNK-BP:株主争いの行方は?
6月17日、露英合弁石油会社TNK-BPの代表取締役であり、Alfa-group社長であるFridman氏は、記者会見の席上、ロシア人株主はイギリス側に対してTNK-BPの持分を売却する意向はないと伝えた。同氏によると、ロシア側のTNK-BP株主連合会を形成しているAlfa-group及びAccess Industries、 Renova (AAR)は、TNK-BP株を売却することは考えておらず、株式売却制限を規定するBPとの契約延長に賛成の立場を取っている。また、契約期間に関しては、イギリス側の要求を受け入れるとしている。Fridman氏は、「ロシアの石油業界及びロシア経済全体には、大きく成長する可能性がある。従って、我々は、長期的に、TNK-BPの株主でありたいと考えている。個人的な見解として、ロシア政府の方針は、エネルギー関連業界における国家の介入を強化することではなく、石油企業をめぐる投資環境の改善を図ることであると認識している。BPに関しては分からないが、AAR株主連合会は、今後、ロシアの石油市場から撤退することは考えていない」と述べた。
TNK-BPの株主争いは、現在もっとも注目されている企業ニュースである。6月11日、AAR株主連合会は、6月3日に開催された非合法的な会合の場で決定された事項を無効とすること、また、ロシア法及び会社定款に違反したことを理由に、BPが任命した取締役員を解任し、TNK-BP Holdingにおける同取締役員のポストを剥奪することを目的として、裁判に踏み切る方針を公表した。
TNK-BPの株主争いは、当初より、その兆しはあった。ロシア側・イギリス側が、それぞれの利益を追求する形となり、その時点ですでに、早かれ遅かれ、株主争いが起きることは明らかであった。TNK-BPの設立当初、プーチン前大統領は、株主争いが生じることを懸念し、どちらかが支配株を取得することを勧めていた。また、TNK-BPの事業内容からしても、ロシア人株主とイギリス人株主が対立することが見込まれていた。
政治研究センターの研究員であるAbzalov氏は、当初から、イギリス側とロシア側の持分比率は、その価値が不均等であったと指摘する。ロシア側が同社資産に主要な石油採掘資産を投下したが、イギリス側は規模の小さい石油採掘関連資産とガソリンスタンド網のみであった。Abzalov氏は、「ロシア人株主には、生産に直接関与する投資家が必要であった。Fridman氏も、Vekselberg氏も、石油会社の経営に携わった経験はなかった。一方、石油最大手のBPは、経験と技術力を持ち、何よりも、国外市場に進出する方法を身につけていた。」と指摘する。すなわち、TNKとBPの統合の際、ロシア人株主は、自らの立場が強化され、企業活動が発展することを期待していた。統合によって、現在、TNK-BPはロシアの中でも、透明性の高い企業活動を行っていることで評価されている。しかし、AAR株主連合会は、その他に、BPから追加的な資金の投入があること、また、国外市場に参入するための援助を受けられることも期待していた。だが、BPにとって、TNK-BPが国外市場に参入し、競争相手となることは望ましくない。
一方、イギリス人株主は、ロシア市場への参入を低価格で原料備蓄量の増加を図ることができる絶好の機会だと捉えていた。もっとも、この点に関しては、イギリス側は、目的を達成したといえる。2004年、TNK-BPの石油採掘量は6380万トンから7200万トンに増加し、その後も、増産は続いている。投資会社AntantaPioglobalの主任アナリストであるKhayrullin氏は、BPは、最初から、新たに設立したTNK-BPではなく、親会社の時価総額を高めることに重点を置いていたと指摘する。同氏は、「こうした計画の下、イギリス側はTNK-BPをBPの収支に組み入れ、また、輸出枠を拡大し、BPの時価総額を高めることに関心を寄せていた。」と言及している。
上記のように、会社が統合された当初から、TNK-BP内部における対立の構図は出来ており、現在は、それが表面化したに過ぎない。TNK-BPの株主が、現在に至るまで、正面を切った対立を回避してきたのは、ロシア側とイギリス側の双方が2007年末までTNK-BPの持分を売却する権利を持たないという契約を締結しているためであったとも考えられる。しかし、2008年、状況は一変し、株式の売却に関する制限はもうない。
投資会社Veles CapitalのアナリストであるLyutyagin氏は、「TNK-BP株の取得に意欲を示す第3者が現れれば(ガスプロムがそうした動きをみせている)、株主争いはさらに緊迫の度を増し、ロシア側とイギリス側のどちらか一方が、株主から外れることが考えられる。上記のことを背景に、両側の株主が持分を売却しないことを表明し、株主争いは表面化してきた。」と指摘する。
また、Lyutyagin氏は、ロシアにとって戦略的に重要な取引にTNK-BPが参加することをBPの代表は妨げてきたと指摘する。同氏は、「ロシア側の代表は、北アフリカ・イラン等に飛び、ロシア市場を開拓しようとしてきた。しかし、TNK-BPは、そうした動きに同調せず、外国に事業を展開することができないでいる。ロシア側は、こうしたTNK-BPの経営者の態度を問題視している。」と言及している。
イギリス側が、TNK-BPの外国市場進出を当初から計画していなかったことは明らかである。UniCredit AtonのアナリストであるSorokin氏は、会社設立以来、英露双方が追及しているものは、変化していないと指摘する。同氏は、「双方の戦略、或いは今後の展望に関する見解が大きく変わったとは考えられない。そもそもの計画では、BPがTNK-BPの経営をすることが予定されており、それについては合意が成立していた。問題が生じてきたのは、ロシア政府の方針が変化したこと及び業界の統合化が進んできたことに関係している。」と分析している。
現段階では、ロシア側・イギリス側のどちらかがTNK-BPの持分を売却せざるを得ないだろうと考えられる。また、先日、ロシア側は、長期的にTNK-BP株を売却する意向がないことを発表したが、多くのアナリストは、TNK-BP株の売却に踏み切るのは、AAR株主連合会の方だろうという見解を示している。政治研究センターのAbzalov氏も、ロシア側が売却することになり、購入するのはガスプロムだろうと予測している。同氏は、「恐らくは、ガスプロム・ネフチが、TNK-BP株51%を取得するだろう。その際、50%をロシア側から、1%をイギリス側から購入すると予測される。ガスプロムが関心を示しているのは、BPとの協力関係を構築することである。BPは特殊な技術・採掘システム等を有しているためである。」と指摘している。
また、投資会社Veles CapitalのLyutyagin氏は、TNK-BPの株主争いを解決するためにロシアの政治が介入する可能性も否定できないと考えている。同氏は、「ロシアの政治的手段を借りて、問題が解決されることもあり得るだろう。その場合、どちらの株主がTNK-BP株を売却するのか、売却先はどこになるのかに関して、政府が関与することとなる。恐らくは、国家保有分のあるロシア企業がTNK-BP株を取得することになるだろう。」と言及している。
多くのアナリストは、株主2者がまったく異なる利益を追求していて、経営方針が定まっていないというTNK-BPをめぐる状況を特殊なものであると捉えている。UniCredit AtonのアナリストであるSorokin氏は、現在、ロシアにTNK-BPと同様の状況に陥る可能性のある企業は存在しないと指摘する。また、多くの専門家は、TNK-BPが抱えている大きな問題点とは、独立取締役がいないことであるとしている。Lyutyagin氏は、「独立取締役は、ロシア側、或いはイギリス側の任命によるものであってはならない。また、独立取締役を置く際には、全株主が投票に参加しなければならない。」と言及している。独立取締役に関しては、AAR株主連合会も同様の見解を示している。TNK-BPの代表取締役であり、Alfa-group社長であるFridman氏も、「我々は、TNK-BPが独立した企業として全ての株主の利益を追求する形で経営されることを望んでいる」と述べている。
激化する株主争いを解決に導くために独立取締役を置くという方法は、以前であれば功を奏したかもしれないが、今となっては、それも、状況の改善に寄与するとは考えにくい。現在、株主争いは、当初から予測されたような格好で進行している。従って、イギリス側の行動も予測不可能なことではなかった。この問題が最終的に解決するまでには、時間がかかるものとみられる。従って、TNK-BPに関するニュースは、今後も引き続き注目されるだろう。
※TNK-BPは2007年、石油採掘量でロシア第3位。

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