[トピックス]ロシアの経済成長に実態は伴っているか?
米マクロ経済統計の動向を背景に、世界の金融市場を覆う閉塞感が解消される気配はない。しかし、こうした状況の下でも、ロシア経済は国外経済の影響を被っていない。ロシア連邦国家統計局のデータによると、2008年第1四半期におけるロシアのGDP伸び率は、政府の予測を上回り、前年同期比8.5%となった(ロシア経済発展貿易省は、2008年1-3月のGDP伸び率を8%の水準と予測していた)。また、名目GDPは、前年同期比31%増の8兆8381億ルーブルであった(ロシア経済発展貿易省の事前予測値は8兆2650億ルーブル)。
モスクワ銀行の主任アナリストであるTremasov氏は、「ロシア経済は、世界金融市場の混乱にさほど左右されなかった。ロシアの経済成長は、2007年第4四半期と比較すれば減速の様相を呈しているものの、長期に渡って成長傾向にあることに変わりはない」と指摘している。
UniCredit Atonの経済学者であるOsakovsky氏は、GDPが伸びた要因を投資需要が20%以上増加したためであると考えている。また、実質賃金も大幅に伸び、その傾向が抑制される兆しはない。Osakovsky氏は、こうした状況が、投資家に、国内需要に重点を置いている企業(鉄鋼会社、建材メーカー、食品・小売業者、加工会社、マスメディア等)の第1四半期における業績に期待を抱かせたと指摘する。
また、多くの専門家は、2008年第1四半期の統計が良好であったことを受けて、2008年のマクロ経済予測を上方修正しようとしている。モスクワ銀行では、「現在の傾向から判断すると、2008年のGDPは2007年と同等の水準まで伸び(8%程度)、名目GDPはおよそ43兆ルーブル(1.8兆ドル)になるだろう」と予測している。
マクロ経済指標が好調であることを指摘するのは、ロシアの専門家ばかりではない。世界銀行のゼーリック総裁も、メドベージェフ大統領とクレムリンで会見した折、ロシアの経済成長を高く評価した。現在、ロシアは、世界経済規模順位で10位であるが、2010年には、ブラジルを抜いて9位に上昇する可能性もある。
しかし、ロシア経済の展望を危惧する声がないわけではない。国際通貨基金(IMF)及び世界銀行(WB)が、ロシア経済過熱を懸念する報告書を発表したのはわずか2週間前のことであった。世界銀行の専門家は、「ロシアのインフレが加速していること、生産能力に対する負荷が大きくなっていること、労働資源の配分が非効率的であること、実質賃金の増加率が労働生産性の上昇率を上回っていることは、ロシア経済が加熱傾向にあることを物語っている。ロシア経済の生産性には限界がみえている」と報告書に記載している。
上記のことからすると、一方で、ロシアのGDPは著しい成長を示しており、今後、短期的にはその成長が減速する気配はないように思われるが、もう一方では、逼迫する経済危機が懸念される。経済発展と経済危機という矛盾する要素が表裏一体となっている状況が生じた原因は何か。
Standard&Poor'sによる報告書"ロシア経済:発展傾向は維持されるか"の中には、「ロシア経済は発展を遂げているが、その理由を生産性の向上という一言で説明することはできない」との記述がある。Standard&Poor'sは、経済の過熱傾向が表面化していること、また、それに対する対策が不十分であることを懸念材料として考えている。
この5年間、ロシアのGDPを3倍に押し上げてきた要素は、石油・ガスを始めとする原料資源価格の高騰であった。ロシアの全輸出における石油・ガスの割合は60%相当である。2003年より、原料資源の輸出価格は92%上昇し(ルーブル換算)、ロシアの貿易収支は黒字となった。また、2008年年初以来、輸出成長率は名目で52%まで増加しており、2007年同期を上回る250億ドルの黒字を計上している。
原料価格が高騰したことによって、ロシアを始めとする輸出国には、輸入国から多額の資金が流入する結果となった。Standard&Poor'sは、「予測外に大きな収入が入ってくると、それは、マクロ経済のひずみを見えにくくし、経済が抱えている問題点をさらに深刻化させてしまう場合がある」と指摘している。
ロシア政府は、石油から得られる莫大な収益の浪費を制限することを目的として、収益を予備資金ファンド・国民福祉ファンドに直接組み入れている。しかし、実際には、同ファンドに計上された資金は、様々な用途に利用され、歳出増を招く結果となっている。2007年における歳出の増加率は35%に達した(2004年は18%であった)。歳出増の要因は、年金及び公務員の給与が増加したことである。Standard&Poor'sのアナリストは、「プーチン前大統領が大統領に就任して以来、公務員の数は50%以上増加した。しかし、それによって期待されるほど、公共サービスの充実は図られていない」と指摘する。
また、公共サービスの質改善は、以前からの懸案事項である。ロシア政府は、インフラ整備のための3ヵ年計画を立てて事態を改善するための突破口にしようとしているが、その計画も決して明確なものではない。インフラ整備事業が大規模となることは明白であり、国家基金が非効率的に利用されるリスクは大きい。
もちろん、ロシア経済の発展には、石油のみが貢献しているわけではない。2005年、ロシア金融業界が調達した外国資金はそれまでの2倍に達した。その結果、貸付が大幅に伸び(年間45%増)、内需を高めることとなった。
また、ルーブル強化の方針を取っているロシア中央銀行の対策によって、貨幣のだぶつきはいくらか抑制されているものの、その対策もまだまだ不十分である。5月のインフレ率は前年同期比15.1%とこれまでで最大の水準に達した。この理由として、専門家は、非エネルギー関連業界における投資不足という構造的問題を挙げている。
現在のロシア経済におけるもっとも大きな問題点は、インフレ、及び賃金と物価のバランスが崩れていることであろう。ロシア政府は、経済の過熱問題を解決するために、ルーブル自由化等の金融政策を取ることが予測される。しかし、Standard&Poor'sのアナリストは、国家予算等に関する問題は経済よりも政治的な影響を受けやすくなっているとの見解を示している。また、Standard&Poor'sによるロシアの格付けは、ある意味では、ロシアがデフォルトを宣言する可能性がどれほどあるかということを示す指標でもあると解釈できる。現在のロシアに対する格付けは、外国通貨建て格付が「BBB+/ポジティブ/A-2」、自国通貨建て格付けが「A-/ポジティブ/A-2」である。
Standard&Poor'sは、「ポジティブという見通しは、経済が健全であることの証明ではない。実際のロシア経済は、汚職や官僚主義、また所有権に関する定義が不明確であること等の問題を抱えている」と指摘する。
ロシア経済は大きな可能性を有しているが、現段階では、残念ながら、それが十分に発揮されてはいない。経済のあらゆる分野における自由化を図り、外資の流入を促進することを掲げたメドベージェフ大統領の公約が、公約のままで終わらないことを期待したい。

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