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[コラム:研究員のココロ] 「エコ替え」に見るカーボンマーケティングの落とし穴

2008年07月09日 14:38更新 mailメール

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出展:日本総合研究所ホームページ(http://www.jri.co.jp/)「研究員のココロ (株)日本総合研究所  研究員 地球温暖化対応戦略クラスター 三木 優 2008年7月7日付」より

 マーケティングの定義はいくつかあるが、シンプルには「売れ続ける仕組みづくり」とそれに付随して行う一連の活動を指している。今回はカーボンマーケティングを「『カーボン=CO2削減・地球温暖化防止』をメッセージ・訴求点として実施する、売れ続ける仕組みづくり」と定義した。よくあるパターンとしては、「当社の製品はCO2排出量が少なく、エコです」と製品の環境性をアピールしたり、「当社は木を植えています」と言うメッセージを発信して、会社のイメージ向上を狙うものが挙げられる。
 最近では、地球温暖化問題が新聞・TVにて大量に報道され、洞爺湖サミットなど日本において関連した会議・イベントが開催される影響により、様々なカーボンマーケティング活動が行われている。また、カーボンオフセットも急速に広がりを見せており、社会的な機運が高まっているように感じる。
 しかし、これまでの経験や先行事例から、カーボンマーケティングには、いくつかの落とし穴があると感じている。今回はトヨタ自動車の「エコ替え」を事例に、カーボンマーケティングの落とし穴を考えてみる事にした。

1. 「エコ替え」は「エコ買え」?

 トヨタ自動車がカーボンマーケティング活動として実施している「エコ替え」のメッセージは、そのTVCMに集約されており、「まだ走れる自動車から、低燃費のトヨタの自動車に買い換えれば、『低燃費』→『低CO2』→『ECO(エコ)』」と言うものである。
 したがって、「売れ続ける仕組みづくり」と言う観点では、消費者が自動車を買い換える行動を「『低燃費』→『低CO2』→『ECO(エコ)』」と言うロジックで肯定し、買い換え需要を刺激すると共に、低燃費で性能の良いトヨタ自動車の自動車が選ばれる仕掛けとなっている。
 このようにメッセージがシンプルで、環境に良い事を推奨しつつ、自社の製品が売れ続けるように誘導する「エコ替え」は、カーボンマーケティングのお手本のように見える。しかし、「エコ替え」をグーグルで検索すると、このような目論見とは全く逆の反応をしている消費者のブログが大量にヒットする。全部の検索結果を読んではいないが、「エコ替え」を肯定する反応は皆無であり、一様に「エコ替え」に批判的な内容となっている。その批判は大別すると以下に集約される。

(1)まだ乗れる自動車から、新しい自動車へ乗り換えた場合、新しい自動車の素材製造・車輌製造において排出されるCO2が追加的に増加するのではないか
(2)低燃費の自動車を推奨している反面、排気量の大きく、高燃費の自動車も作り続けており、矛盾しているのではないか
(3)自動車利用の抑制やエコドライブの推奨など、買い換え以外にも実施可能な取り組みを優先して紹介すべきではないか

 いくつかのブログは、国内新車販売が落ち込んでいる事に関連して、「エコ替え」では無くて「エコ買え」であると断じている。このように、消費者はトヨタ自動車が意図していた通りには「エコ替え」を捉えていない。これは一種のコミュニケーションギャップと考えられるが、どこからボタンの掛け違いが始まっているのだろうか。

2. 「エコ替え」を検証する

 ブログにおける批判について、順番に検証を行ってみる。

(1)については、自動車のライフサイクル全体(製造・走行・廃棄)から排出されるCO2は、自動車メーカーのLCA(注1)データ(10万キロ走行時)によると、おおよそ走行:80%程度、製造+廃棄:20%程度である。したがって、低燃費の自動車に乗り換える事により、走行時のCO2排出量が減少し、自動車のライフサイクル全体で見れば、最も効果的であると言う事が「エコ替え」のメッセージである。ただし、これもいくつかの条件が揃わなければ、逆にCO2排出量は増加する事になる。

ケース1:標準的な燃費のA車に5年間乗り、A車よりも燃費が10%良いB車に乗り換えて、5年間乗った場合のCO2排出量のイメージ(A車・B車は燃費以外の条件は同じ)


ケース2:標準的な燃費のA車に3年間乗り、A車よりも燃費が37.5%良いC車に乗り換えて、7年間乗った場合の総CO2排出量のイメージ(A車・C車は燃費以外の条件は同じ)


 上記以外にも条件の置き方によって、様々なケースがあり、ケース1の様に、「エコ替え」によりライフサイクル全体におけるCO2排出量が増加する場合がある。このように、一概に言えない部分があるものの、「低燃費の自動車に乗り換えると自動車のライフサイクル全体で見た場合、CO2排出量が減少します」と言う事をわかりやすく説明していない事が、不信感に繋がってしまった。

 (2)については、もっともな意見である反面、自動車を含めた大半の製品において、CO2排出量以外の機能や外観なども重要な商品性である。したがって、排気量の大きい、「高燃費の自動車の生産を明確に減らしていく」などのメッセージがあれば良かったかもしれないが、現時点ではそれは難しいと考えられる。

 (3)については、「エコ替え」のWebサイトを見ると扱いは小さいが、きちんとエコドライブに関する説明があり、買い換え以外にもCO2排出量が減らせる事について言及している。ただし、このことがTVCMでは言及されていないため、TVCMのみを見た人には伝わっておらず、批判を浴びる事になった。
 以上のように、「エコ替え」については、TVCMの印象が強かった事と伝えるべき情報が不足あるいは伝わっていなかった事が原因となって、ネット上にて強い批判に晒され、結果としてトヨタ自動車の評価を下げてしまったおそれがある。

3. カーボンマーケティングの落とし穴を避けるには

 今回取り上げた「エコ替え」以外に、本田技研工業がF1にて実施している広告手法の「アースカー」や米フォードが実施したカーボンオフセットが、環境NGOなどから批判を浴びるなど、そもそもカーボンマーケティング活動は批判されやすい性質がある。
 カーボンマーケティングの落とし穴を避けるためにはどのような点に注意すればよいのだろうか。先行事例やカーボンオフセットの事例分析から、以下の点が重要であると考えている。

1)マスを相手にしない
 カーボンマーケティングは、「エコ商法」と言う言葉もあるように誤解を招きやすい側面がある。したがって、メッセージCMの様な直接的に売れる仕組みづくりに繋がらないものを除けば、ターゲットを絞って実施すべきである。費用対効果の面でも、自社の行動に注意を払ってくれるロイヤリティの高い顧客にこそ意味のある手法であり、利害関係のないマスの顧客に対してメッセージを投げかけても素通りしてしまう傾向がある。

2)シンプルかつ十分な情報提供
 カーボンマーケティングにおいて情報提供が重要である事は「エコ替え」の事例からも明白である。また、カーボンオフセットでは、その仕組みが理解されなかったり、企業側負担のみで、顧客との「利害関係」は生まれないために、関心が払われず、情報が伝わらない事例がある。
 CO2排出量に関する情報は、わかりにくい事から、カーボンマーケティング活動を検討する際には、どのような情報を誰にどのように伝えるか、十分に考える必要がある。伝えるべき情報は、ターゲティングした顧客に対してシンプルかつ十分な内容が必要であり、独りよがりではなく、受け手側の視点に立った作り込みが重要である。

 上記の他にもいくつかの注意点はあるが、カーボンマーケティング活動を実施する際には、本当にその活動が「売れ続ける仕組みづくり」に繋がるものなのか、ターゲティングした顧客の立場で考える事が重要である。

注1 LCA:
ライフサイクルアセスメントの略称。製品や活動のライフサイクル全体における環境負荷を評価する手法。製造・輸送・利用・廃棄等の各段階における環境負荷を評価する。CO2排出量に特化した評価については、LCCO2と呼ばれる事もある。

※コラムは執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

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三木 優
(株)日本総合研究所
研究員 地球温暖化対応戦略クラスター
専門分野:地球温暖化関連ビジネス・エネルギー関連ビジネス
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