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FXで資産10億円達成と、脱税で地獄を見た元ヒルズ族

2010年01月14日 15:59更新 mailメール

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    ■投資とは無縁の環境から10億円に至るまで

     FXの証拠金10億円、申告していなかった利益は約4億5000万円にも上った磯貝清明氏。投資で1億円の大台に到達することさえ難しいのにかかわらず、さらに上の10億円という高みに登った。ここまで利益を積み上げることは至難の業で、ほとんどの人がこの領域に足を踏み入れることもなく、夢破れて散っていく。

     誰もが憧れる場所に一度は到達した磯貝氏だったが、育った環境は、元々投資とは無縁とも言うべきもの。埼玉県内でリサイクル業を営む家庭に生を受け、普通に父の仕事を手伝うイチ青年であった。21歳という若さで父の死に面して家業を継承することになったことを除いては。

     きっかけは営業マンの押しの強さに負けてスタートした商品先物取引。約1500万円(父親の死亡保険金含む)をなくすのに、大して時間はかからなかった。「もうまじめに働こう」と思った時だった。

     「磯貝さん、FXやってみたらどうですか」

     ある日、なじみの先物会社の営業マンからの、この誘いがすべての始まりだった。

    ■2年目で1億円になった

     痛い目に遭った磯貝氏だったが、「利息が毎日入ってくる」というFXのメリットに「そんなうまい話は…」と疑いながらも、ゼロ金利の円を売って外貨を買うことで外貨金利をほぼ丸ごと受け取ることが可能となる、という営業マンの言葉が妙に説得力があった。そして、この言葉は響いた。

     「普通の人が億万長者になるのも夢じゃないんですよ」

     この言葉がウソではないことがわかる時が、すぐに訪れることになる。2004年から2007年までの間の円安進行が、この時期のFX投資家たちを大儲けさせたと言っても過言ではない。ゼロ金利の円を売って外貨を買っていれば、外貨の金利はほぼそのまま受け取ることができるような状況だった。もっと簡単に言えば、買って何もしなくてもいい。ただ持っていれば、毎日スワップポイントが運ばれてくるような状況だったのだ。

     2004年に100万円で口座を開設した磯貝氏。スタートからわずか1カ月で資金は3倍になっていた。「今度こそいけるような気がしました」。そうした確信が心に広がっていたのか、「金属の市況も良かった」こともあり、本業にも精を出してその儲けをFXにどんどん追加投入していった。

     すでに2年目の2005年には、大台1億円を突破していた。

    ■手数料だけで1億円を使った

     「いい時で1日のスワップが200万円以上は入ってきていました」

     これだけのスワップポイントを得るためには、多くの証拠金を積まなければならない。いったいどれだけの枚数を買っていたのだろう? しかも現在のような400倍というような途方もないレバレッジは当時にはなかった。磯貝氏はせいぜい10倍から数十倍程度だったが、1回でポンドを1000枚買うなど、とにかく大量の資金を投入していた。

     「磯貝さんは手数料だけで1億円はいっていたのではないでしょうか。それだけの量の取引を約定させようと思っても、当時の約定能力は、今と比べ物にならないので、磯貝さんの注文はたいへんでした。カバー先の銀行ディーラーに電話してもさばききれないので、複数の銀行に電話を掛けまくってやっと約定していました」

     当時の磯貝氏を知る先物会社の関係者は、このように語った。1000枚買うということは、1円動けば1000万円の利益が出ることになる。また一方で、為替が逆に1円動けば1000万円の損失が出ることになる。

     「直接お金に触れていないので、あまり現実味がなかったというか、損が出ても『いつの間に』『仕方がない』と思っていたりして、実感はなかったですね。でもポンドの買いポジションは1億ポンドで、当時の円換算で約250億円。日本一ポンド/円を持つ男と言われていたくらいです」

     2007年についに10億円に到達。この時、すでに埼玉から六本木ヒルズに居を移していた。

    ■10億円に膨らんで知ったFXの怖さ

     「機関投資家がポンドにまとまった買いを入れた」

     通信社がそう打電したのだが、実は買いを入れたのは磯貝氏個人だったのだ。今から思えば笑い話だが、キモノトレーダーと言われた個人投資家たちが、本職の領域に侵食してきて、その座を脅かすまでになった。とにかく、磯貝氏が注文を出せば、ポンドが大量に動く。海外の機関投資家たちが思うように動かそうとしても、個人がそうさせないだけの力を持った良き時代だったのかもしれない。

     「10億円を突破しても、当時の僕の目標は笑われるかもしれないのですが、1兆円になっていました。自分のトレードは正しい。だから、これからどんどん行け〜という感じだったんです」

     2007年7月に10億円に膨らんだ証拠金は、わずか2カ月後の9月には約3000万円にまで減っていた。その間には、「100年に1度」と言われたサブプライムショックが起きたことで円安が一気に逆流を始めたからだ。「円安+外貨の高金利」という必勝法則は呆気なくつぶれた。

     「FXをやらずに、銀行の定期預金にお金を預けていたりしたらソコソコの人生を送っていたんでしょうけどね。でもFXと出会ったから、色々な経験もできまたのだと思っています」

     その翌年の2008年10月に、六本木ヒルズの磯貝氏宅にマルサが踏み込んだのだった。ここから人生が一変する。(つづく)

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    ■マルサが来て初めて気づいた「脱税」


     秋の優しい朝陽がガラス越しに、目覚めの時刻を告げていた頃、それとは別に無理やり安眠を断ち切るような訪問者の姿があった。



     2008年10月。とある日の午前8時、場所は東京・港区、六本木ヒルズ。招かれざる訪問者たちの行先は、磯貝清明氏の部屋。何度か鳴るインターホンが耳障りだ。荷物などはコンシェルジュが預かってくれるため、磯貝氏には、急な訪問者だということがわかった。この時、まだ東京国税局査察部の職員マルサとは知る由もなかった。



     用事で自分の会社に電話したところ「社長いますか」と、すでにマルサたちが訪ねてきていたことを、社員から告げられた。東京国税局査察部の調査員、通称マルサがすでに会社にも踏み込んでいた。マルサに一度、目をつけられれば、もはや逃れる術はない。なぜ、自分の所に来たのか、考えを巡らせてみたが、あるとすれば「あった」。



     「納税をしていなかったな。僕自身が大雑把な性格で、ネットに入金していたら入れっぱなしで、現金の実感がなかったということもあります。マルサが来て初めて、『俺ってそんなに稼いでいたのか』という感じでした。税金のことに無知すぎました」



     ここにネット取引の一つの落とし穴がある。知らないうちに最大約10億円にまで増えていた。磯貝氏もそうだが、みんな、こうしてFXの税務申告を怠ってしまうのだ。脱税とは富裕層をはじめ「YUCASEE MEDIA」(ゆかしメディア)の読者にも興味関心が高い分野でもあることから、磯貝氏は、自身の経験を役立ててもらいたい、ということで今回、取材に応じた。

    ■「溜まり」ある所にマルサあり


     FX(外国為替証拠金取引)の脱税が世間をにぎわしたのは、一昨年2007年のことだった。多くの案件が国税局によって摘発されたが、例をあげてみると、次のようなものがある。



    ・東京都世田谷区の主婦(約8億円)

    ・東京都足立区の不動産賃貸業夫婦(7億5000万円)

    ・兵庫県西宮市の元職員の一家(7億2600万円)

    ・和歌山市の元小学校長(3億1200万円)

    ・栃木県足利市の89歳男性(10億8130万円)



     どのケースを見ても、普通の人が知らずにやってしまったら、自分が脱税をしていたことを後になって国税局から知らされたというパターンだ。特に、栃木県の89歳の老人が10億円以上もの利益を出すということ自体、FXという投資商品が驚異的なリターンを上げる爆発力があることを物語っている。それだけに、その作用が逆に働いたとしたら、自分に大きなマイナスが降りかかる。もちろん、その時になって「知らなかった」では世間は許してはくれない。



     国税のやり方としては、その人の全盛期の2、3年後に「溜まり」(国税用語の蓄え)があると見て査察を行う傾向にある。つまり、ある程度取り立てる見込みがあるかどうかという、コスト感覚が働かせる。現在は景気の影響なのか、その金額のハードルを下げているようで、数千万円レベルの溜まりでも踏み込むことがあるという。



     FXトレーダー、会社経営者、六本木ヒルズ在住。「これなら取れる」と東京国税局はソロバンを弾いたことだろう。ヒルズの磯貝邸は、ガサ入れのターゲットになった。

    ■早朝からガサ入れ、深夜まで取り調べ


     鳴り続けるインターホン。マルサは諦めて帰るつもりはなさそうで、焦る磯貝氏。落ち着くためにとりあえずシャワーを浴び、着替えて外に出た。だが、部屋に戻ると、そこにはマルサがまさにガサ入れを行っている最中だった。彼らはとにかく「ガサビラ」(令状)さえあれば、どこへでも入っていくことができる



     「磯貝清明さんですね」



     査察官からそう尋ねられた磯貝氏。スーツ姿のマルサたちは、お金を数える人、トレードの記録などをCD−ROMに落とす人、書類関係をまとめる人などのいくつかの班に分かれて手際よく証拠を押さえていった。そして統括する人が現場で指示を出しながら、携帯電話でほかの現場の指示も行っていた。磯貝氏は、その様子をただ呆然と、黙って眺めるしかなかった。



     「車の中も全体を調べられたし、友達の家、元カノの家も調査されて、その日の仕事を休まされた人もいたそうです。みなさんに本当に申し訳ないです。また、(マルサに)通帳の場所を聞かれて、悪あがきでロビーのソファーの下に隠したと言ったら『なんでそんな所に』とこっぴどく怒られました」



     朝8時すぎから始まった捜索だが、「これで終わった」と思った午後10時ごろから、場所を東京国税局に移して取り調べが始まった。取調室では磯貝氏に対して査察官が3人。何回も同じことを聞かれて『本当か?』としつこく容赦なく突っ込まれそうだ。完全に絞りつくされた磯貝氏がその場を解放されたのは、午前1時を回ってからだった。

    ■脱税した人ってその後どうしているの?


     脱税は、国税庁の判断によって、罰則の軽重が決められる。磯貝氏の場合は、1億6000万円の所得税法違反の疑いで刑事告発された。



     そこに重加算税として6000万円が加わり、さらには、今後は刑事罰としてさらなる罰金が課される可能性が濃厚。返済の金額は2億円を優に超える。











    【1】悪質ではないもの

     (当初の申告納税期限から2カ月は約4.7%、それ以後は14.6%の延滞税)

    【2】少々悪質なもの(15%の加算税)

    【3】仮装・隠蔽など悪質なもの(追加税額約40%の重加算税)

    【4】悪質でしかも巨額のもの(刑事罰)



     磯貝氏は【1】の延滞税はもちろんだが、そこにさらに【3】が課され、今後は【4】が課される模様だ。サラリーマンの生涯給与以上に相当する金額を納税しなければならなくなった。



     「僕が踏みこまれた時は、いい頃よりもお金は減っていたし、事業や投資で何年もピークを続けていくのは難しいと思うし、脱税で実際に消えていってしまった人も多いと思うんですよ。僕は絶対に完納して、そういう人たちに見てもらって、もう一回頑張ろうと思ってほしいです」



     ハデに儲けて、その後は脱税が発覚し、そのまま消えていく。時代の寵児たちの姿はその後、誰も知ることはない。言われてみればそうかもしれない。脱税の後、国民の義務を怠った責任の重さを痛感していることだろう。



     「僕はたとえ何年かかっても完納するつもりですし、ささやかでも、こんな僕の経験が役に立つのなら、すべてお話します」



     納税のシーズンが近づいて来るが、磯貝氏の話に耳を傾ければ、いかに納税が義務として大切か、また、それだけに罰則もいかに重いかを知ることになるだろう。(つづく)

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