MERS感染:ワクチンや治療薬の開発に向けて

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サウジアラビアのラクダ
サウジアラビアで、ラクダと一緒に写真を自分撮りする男性。 ロイター

韓国では、中東呼吸器症候群(MERS:マーズ)コロナウイルスへの感染が広がっている。3週間で122人が感染し、10人が死亡した。ラクダからヒトに感染した可能性が高い。当局は、迅速な診断と対応を呼びかける。
 
2012年、サウジアラビアでは、ヒトが初めてMERSに感染していることが確認された。同国では、ラクダが遊牧民の生活や経済を支えている。しかし、ラクダは、MERSを運んでいる。
 
少なくとも1992年には、サウジアラビアのラクダがMERSに感染していたというデータがある。つまり、MERSは、ヒトに感染する前に数十年間、ラクダ間でウイルスのやりとりがされていた。
 
2013年、ケンブリッジ大学「感染と免疫のためのセンター(the Center for Infection and Immunity)」のディレクターを務めるW・イアン・リプキン(W. Ian Lipkin)氏は、サウジアラビアのラクダを調査し、74%のラクダがどこかの段階でウイルスに感染したことをつきとめた。若いうちに感染した可能性が高い。
 
2012年以降、世界のMERS感染の85%はサウジアラビアで起こり、MERS感染者の40%が死亡した。しかし、ラクダ自身は、鼻水に苦しむだけで1週間以内に回復する。
 
同氏は「感染ルートについては多くの証拠がある」と述べる。しかし、2014年に同氏が初めて研究結果を公表したとき、ラクダにキスしている写真をツイッターに投稿して抗議するサウジアラビア農民もいた。
 
MERSのヒトへの感染経路は、完全に解明されたわけではない。しかし、コロラド州立大学の生物医学研究者であるリチャード・ボーウェン(Richard Bowen)氏は、ウイルスに感染したラクダの呼吸系との緊密な接触が原因であると考える。ひょっとしたら、くしゃみを通してかもしれない。
 
ボーウェン氏は、ラクダの鼻を調査し、綿棒1本の分泌物から、1,000万ユニットものウイルスを検出した。ヒトにウイルスが感染するためにどの程度の量が必要かはわかっていない。
 
2012年に重症急性呼吸器症候群(SARS)が発生したとき、中国・広東省当局は、ウイルスの宿主であるジャコウネコを1万匹殺害するように命じた。ハーバード大学医学大学院の伝染病の専門家であるウエイン・マラスコ(Wayne Marasco)氏は、同様のアプローチはMERSには有効ではないと述べる。ラクダは持ち主の生計で重要な役割を果たしている。同地域の一般的な輸送手段であり、ミルク、肉、尿の利用もされている。農夫や所有主は、ラクダを友人とみなしていることも多いという。
 
科学者たちは、MERS拡大を防ぐ方法を模索している。ボーウェン氏によると、一度感染したラクダは治療することが難しい。ラクダの兆候は比較的穏やかなので、所有者は診断がしづらい。さらには抗ウイルス薬はほとんど存在しない。あるにしても、そのような薬は広く使うには高価すぎる。
 
その代わりとして、ボーウェン氏は、米国立予防衛生研究所と共同で、ラクダをMERSから予防するワクチンを研究している。ワクチンは、抗ウイルス薬よりずっと安価になりそうである。
 
それでも、サウジアラビアの8,000頭のラクダに、鼻水の原因となるウイルスに対抗するための免疫ワクチンを投与するのは出費である。ボーウェン氏は、「動物にとってたいした害になっていないので、人々はワクチンに出費したがらない。ラクダの所有者を説得するか、政府がラクダにワクチンが投与されていることを要求する必要がある」と述べる。
 
世界有数の石油輸出国であるサウジアラビアなら、全国的なワクチン投与の費用を捻出できるかもしれない。しかし、ヨルダンやオマーンのラクダもMERSに感染している。2010年、中東には1,600万頭のラクダがいた。21人に1頭の割合である。
 
しかし、このアプローチには先例がある。米農務省は、ブルセラ症の予防ワクチンを投与したおかげで米国農民は数百万米ドル節約できたと述べる。1953年、少なくとも12万4,000頭が感染していた可能性がある。広範な予防接種計画のおかげで、プルセラ症は今では年に100件から200件程度である。
 
しかし、リプキン氏は、MERSワクチンはまだずっと先の話だと述べる。そして最良の解決策ではない可能性もある。同氏は、長期的視点で見れば、何百万頭のラクダにワクチンを投与するより、ウイルスに感染した一握りの患者のための薬を開発するほうが理に適っていると考えている。同氏は先週、サウジアラビアを訪問し、ラクダの疾患について共同研究をしたいと要望した。
 
*この記事は、米国版International Business Timesの記事を日本向けに抄訳したものです。(原文:Amy Nordrum記者「MERS Outbreak 2015: How Vaccinating Millions Of Camels In The Middle East Might Stop The Deadly Virus」)