ギリシャ債務危機:新たな支援交渉で電力公社の民営化論が再燃

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ギリシャの電力会社
2011年9月29日ギリシャ、シャラバギ(Charavgi)村近郊には、ギリシャの国営電力会社最大手のパブリック・パワー・コーポレーション(PPC)の電力プラントが並ぶ。パワー社の子会社であるインディペンダント・パワー・トランスミッション・オペレータ社(Independent Power Transmission Operator: IPTOまたはADMIEとも)は、13日、ギリシャと他のユーロ諸国との間で合意に達した3年間のギリシャの債務危機救済策の一環として民営化される可能性が出てきた。 ロイター/ヤニス・バラキス(Yannis Behrakis)さん

巨額の債務危機からギリシャを救済する抜本的な改革案のなかで、同国の国営電力会社を15億ドル(約1,850億円)で売却すべきだという議論が巻き起こっている。13日、ブリュッセルで17時間に及ぶ徹夜の会議の結果、EU側はギリシャに対して、今後3年間に及ぶ支援を検討することになった。ギリシャ政府はこれまで、国営電力会社の民営化には断固反対してきた。しかし13日の救済策のなかには電力大手会社の民営化が含まれている。

 

ギリシャの国営電力会社インディペンダント・パワー・トランスミッション・オペレータ社(Independent Power Transmission Operator: IPTOまたはギリシャ語の頭文字からADMIEとして知られる)を、困窮するギリシャ経済を救うために売却・民営化することは、欧州連合(EU)と国際通貨基金(IMF)による数十の要求のうちの1つである。ユーロ圏首脳会議が13日に発表した声明文によると、新たな支援交渉を始める条件として、ギリシャ議会で15日までに付加価値税や年金などの制度改革が法制化されることが必要となるため、チプラス(Alexis Tsipras)首相は現在、対応を急いでいる。

 

チプラス首相周辺の動きはあわただしい。同首相はこれまで、パナヨティス・ラファザニス(Panagiotis Lafazanis)生産再建・環境・エネルギー省大臣とともに、電力会社、国営の天然ガス社、同国の大手国営企業で電力会社最大手のパブリック・パワー・コーポレーション(PPC)の民営化を断固として拒否してきた。ラファザニス大臣は10日、「エネルギー部門の1社のみの民営化ではない」と述べて、エネルギー戦略は国家資産として配慮すべきだとギリシャの新聞「タネア(Ta Nea)」に語った。

 

2014年1月23日、ギリシャの首都アテネでは、PPC社の作業員らが、PPCの子会社のインディペンダント・パワー・トランスミッション社(IPTO)の民営化反対のスローガンを掲げてデモ行進を行った。  ロイター/ヨーゴス・カラハリス(Yorgos Karahalis)さん

 

「ギリシャの政策立案者は今週、ユーロ圏の指導者が承認する計画を受け入れる以外に選択肢はない」と政治コンサルティング会社ユーラシア・グループ(Eurasia Group)社でヨーロッパ・リサーチチームを率いるムシュタバ・ラーマン(Mujtaba Rahman)氏は述べた。

 

救済策の「自主性には限度がある」とラーマン氏は指摘した。「民営化、特にエネルギー部門の民営化は救済策の中心に据えられている。…大規模な財政調整とは、国の増収を意味するが、民営化は増収源の1つである」として国有資産の売却について述べた。

 

適切な代替手段を見つけることができない限り、13日に合意に達した救済策によってギリシャはIPTO(ADMIEとも)の民営化推進への取り組みを開始しなければならない。IPTOは公益企業PPCの全額出資子会社で、地上、地下、海底の送電線7,000マイル(約1万1,000キロ)以上を管轄し、ギリシャ国内に300以上の変電所を持つ電力事業社である。

 

2013年にギリシャ当局は、IPTOの株に関しては、ギリシャ政府が電力管轄のために少数株主として留まり、66%の株は売却するという計画を立てて着手した。昨秋、IPTOの幹部が、過半数の株式を確保する入札の最終候補社リストに4社が入っていると述べた。その4社とはイタリアの電力会社テルナ(TERNA)、ベルギーの電力会社イーリア(Elia)、中国の国家電網公司(State Grid Corp.)、カナダの年金ファンド、PSPインベストメンツ(PSP Investments)であった。

 

ギリシャ政府の民営化支持者らは、国有資産の売却はギリシャに必要な投資を誘致できると論じた。民間事業者は、ギリシャの電力網は、南東ヨーロッパと西バルカン地域の成長に戦略的な機会を提供しており、その送電線は隣国アルバニア、マケドニア、ブルガリア、トルコに続くと述べた。

 

詳細な地図は、ギリシャのIPTOが運営する電力網を示している。数千マイルの送電線のサイズや容量の違いを、色を変えて表した。  インディペンダント・パワー・トランスミッション・オペレーター社(IPTOまたはADMIEとも)

民営化計画は今年1月に行われた大統領選挙の後、混乱をきわめた。チプラス首相は、この選挙で選出された後、IPTOの入札を行い、その他の公共団体の入札は保留にした。2月にエネルギー省のラファザニス大臣は「民営化反対のコメントを発表し、政府の変化の流れを確認した。少なくとも1社、イタリア電力会社テルナ(TERNA)が、ギリシャの電力会社入札に参加した。

 

13日に合意した救済策によって、ギリシャは再度、資産売却を行うことになるが、時期はまだ未定である。

 

ユーラシア・グループ社のラーマン氏は、民営化計画支持者は、欧州債権者たちに重要なメッセージを送っていると述べた。「これはリトマス試験紙のようなもので、これがすべてを表す指標になる。国民は市場改革の推進を喜んでいるのか、いないのか? 民営化はその観点からも重要である」とラーマン氏は述べた。「多くの細かな事が関与していてギリシャ政府も破産しているが、国民も同様なのである」と加えた。

 

米ワシントンD.C.のシンクタンク、ウィルソンセンター(Wilson Center)のヤン・カリキ(Jan Kalicki)公共政策研究員は「ギリシャの電力公社の民営化は、国の電力業界を刷新するために必要ないくつかのステップのうちの最初の1つである」と述べた。カリキ研究員は、ギリシャではエネルギー供給の多様化も必要であり、長期的にシステムを強化するために二酸化炭素の排出量を減少させて汚染を減らす必要もあると述べた。ギリシャの電力の約半分は、石炭の中でも水分や不純物が多く低品位とされる褐炭石炭によっていて、残りはロシアが提供する天然ガスや、地元ギリシャの水力発電によるものである。

 

「経費を切り詰めている他の地域の人々と同様に、ギリシャ人が直近の財政上の要求を満たすことは重要であるが、その後の長期的なエネルギー需要を満たすためには、それを超えなければならない」とカリキ研究員は述べた。「提案された民営化は必要であるが、ギリシャのエネルギー安全保障にとっては不十分な措置である」と加えた。

 

*この記事は、米国版 International Business Times の記事を日本向けに抄訳したものです。(原文: Maria Gallucci記者「Greek Debt Crisis: New Greece Deal Reignites Contentious Plan To Privatize Country's Power Grid」)