イランの原油輸出、市場で過剰供給にはならないと専門家

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イランの石油化学コンビナート
イランのペルシャ湾沿岸のアッシャルエ(Assaluyeh)には石油化学コンビナートがある。 ロイター/モルテザ・ニコバズル(Morteza Nikoubazl)さん

イランと欧米など6か国は14日、イラン核問題をめぐるウィーンでの協議で包括的解決に向けた最終合意に達した。これを受けて、これまで欧米諸国による制裁の下で抑えられてきたイランからの原油輸出に新たな活力が与えられることになる。合意によると、イランが保有する遠心分離機を約3分の1に削減し、ウラン濃縮活動を最大15年にわたり削減するなどの見返りとして、対イラン経済制裁は段階的に解除され、イランは凍結されている資産の1千億ドル(約12兆3千億円)以上が利用可能になる。

14日、合意のニュースが伝わると、イランからの原油輸出増加が飽和状態の世界の原油市場に溢れだすと見込んで、石油価格は2%下落した。しかしエネルギー専門家は、イランからの原油輸出の急増は、少なくとも今後1年以降先になるだろうと述べた。

数年来のイラン制裁や経済低迷によって、同国の油田への投資と開発は妨げられてきた。生産再開は、スイッチを切り替えるように簡単ではないとイランは言う。

「イランからの新しいオイルは2016年までは供給過剰にはならないだろう。おそらく楽観的な予測よりもさらに下回るだろう」と米コロンビア大学グローバル・エネルギー・センターのリチャード・ネフュー(Richard Nephew)プログラム・ディレクターは述べた。ネフューディレクターは、米国とイランの交渉で制裁に関する専門家として係ってきた。

核問題に関する協議が合意に達して、欧州連合(EU)と米国が政治的圧力の解除を開始した後、6~12か月以内に、イランは1日あたり30万~50万バレル(1バレルは42米ガロン)の原油を追加する見通しとなった。

イランが提供可能と述べている量より、実際にはかなり少なくなる見通しである。イラン当局は先週、制裁がなくなれば1日あたり100万バレル以上の原油を追加して輸出可能であり、これによって同国の原油輸出は、現在の日量120万バレルから約230万バレルと、ほぼ倍増すると述べた。アルジェリアのユスフィ・エネルギー相は昨年12月、原油供給量の増加による価格安の懸念を表明してOPEC(石油輸出国機構)加盟国の緊急臨時総会開催を示唆した。

今年6月5日、OPECはウィーンで定例総会を開き、原油市場での過剰供給の長期化の懸念のなか、総会では生産目標の据え置きを決めた。OPEC加盟12か国は5月も3,100万バレル強の原油を生産したとみられ、目標の日量3,000万バレルを超えているが、総会でこれを黙認した。しかし今後、イランの市場復帰の可能性は波乱要因となりかねない。

原油価格市場において主要な位置を占める原油の1つで、グローバルなベンチマークであり、主に英国の北海にあるブレント油田から採鉱される硫黄分の少ない軽質油であるブレント原油は、14日午前、1バレル56.43ドル(約6,968円)に急落した後、58.40ドル(約7,211円)バレルに回復した。ウエスト・テキサス・インターミディエイト原油は、米テキサス州とニューメキシコ州を中心に産出される原油の総称であり、米国原油市場ののベンチマークであるが、同14日、1バレル50.88ドル(約6,282円)まで下落した後、52.24ドル(約6,450円)に回復した。

イランの原油生産量  FindTheData

「イランの日量100万バレルという目標の達成には、劇的な投資といった棚ボタが必要になるだろう」とネフューディレクターは述べた。イラン自体は、生産を加速させるために500億ドル(約6兆円)から1千億ドル(約12兆円)の投資が必要になるだろうと予測している」とネフューディレクターは政策メモに書いた。「この投資が本当にこれまでの制裁レベルを越えてイランの生産を高めるために、少なくとも3~5年かかる」と加えた。

欧州連合はイランの核開発に対する懸念によって、イラン及びイランの会社に保険を提供することを禁止し、2012年1月23日に、同年7月より、イラン産原油に制限を加えて、イラン中央銀行の資産を凍結することとした。米国も同様にアジア諸国にイランからの購入を減らすよう圧力をかけている。14日、イラン核問題に関する合意に至ったものの、これまでの制裁が直ちに撤回されるわけではない。米国議会と欧州議会は、まず最初にこの合意を承認する必要がある。例えば米国の場合、この合意内容を審査するために60日間の審査期間が設けられている。

制裁を解いて石油生産を高めることは、イラン経済にとって重要である。

政治的制裁によって、イランの石油・天然ガス収入は、2011-12年度の約1,180億ドル(約14兆5,800億円)から、2013-14年度の560億ドル(約6兆9,200億円)まで急減したと国際通貨基金(IMF)は推定している。イランは世界第4位の石油埋蔵量を有し、十分なインフラと投資が整えば、日量約4百万バレルの原油生産に至ることができる。

イランのGDP  FindThe Data

しかし、制裁が解除されたとしても、イランは依然として市場シェアのために他の産油国と競争しなければならない。特に今日の過剰供給の市場では困難な作業になると、オッペンハイマー・ホールディングス社のファデル・ゲイト(Fadel Gheit)シニアアナリストは電子メールで述べた。OPEC当局者は世界の石油需要が来年にかけて成長し、過剰供給は減少できると述べているが、トレーダーやアナリストは、日量200万バレル近くの原油が過剰供給されていると見ていると述べた。

ゲイトアナリストは、経済制裁が解除された後6か月が経過した頃から、イランの石油輸出は日量50万バレルほど増加する可能性があると予測した。しかし、それを達成するためには欧米諸国からイランへの投資禁止を解除し、老朽化した石油生産設備を交換し、新たな油田を開発する必要があると述べた。

核問題の下で、米国以外の個人や企業は、まもなくイランとの取引に関与するようになるだろう。そのなかには石油や石油化学部門も含まれている。(米国の個人や企業は、このような機会から今のところ締め出されたままである。)

これらの投資を軌道に乗せるために、イランは、まず最初に同国の官僚主義に加担している形式主義を取り除く必要があるとネフューディレクターは指摘する。また、イラン当局者は、イランと欧米諸国の関係悪化による制裁の再発動や風評被害の悪影響を心配する、外国銀行や企業幹部の懸念を払拭する必要がある。14日の最終合意の内容には、合意違反の場合、65日以内に制裁の再発動となることも盛り込まれている。

「イランは、投資環境を一層魅力的にしようと努めてきた。将来的に成功するためには、これらの努力を維持する必要がある」とネフューディレクターはメモに書いた。「イラン政府は、国際的な石油会社などに、より効率的プロセスを経て原油を提供できるようになれば、それは真の成果になるだろう」と説明した。

*この記事は、米国版 International Business Times の記事を日本向けに抄訳したものです。(原文: Maria Gallucci記者「Iranian Oil Exports Won't Flood The World's Crude Markets Anytime Soon, Energy Experts Say」)