ウェアラブル・テクノロジーが、大気汚染やスモッグをモニターする

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ロンドンのスモッグ
ロンドンの金融街は上空高くまで大気汚染が広がっていた。2015年4月10日、プライムローズヒル(Primrose Hill)から眺めたスカイラインを撮影した。 ロイター/トビー・メルヴィル(Toby Melville)さん

ハミッシュ・スチュワート(Hamish Stewart)さんは自転車でロンドンの町を走るときに、シャツの襟かパンツのポケットに小さなデジタルデバイスを付ける。このウェアラブル端末は、移動する距離や、消費カロリーを計測しているわけではない。この端末は、スチュワートさんが通勤中に、車、バス、工場などから、どれほど多くの有害物質で汚染されたのかを測定している。

彼のデバイスのすべてのデータは、クラウドソーシングを介して、空気の質を表示するマップに登録される。赤、黄、青といった色は、喘息発作など長期に肺や心臓に悪影響を及ぼすリスクがある粒子状物質の濃度が高い地域かどうかを示す。スチュワートさんは、自転車に乗ったり、幼い娘と一緒に外出する前に、自分のスマートフォンでカラフルなマップを参照する。

「町のなかでもいくつかの通りは本当にひどい。だらか、そういった地区へはベビーカーで娘を連れて行かないようにしている」とスチュワートさんは語った。

スチュワートさんはサンフランシスコに拠点を置くスタートアップ企業「ゾーア社(Tzoa)」が作った人のための空気監視モニター「エンバイロ・トラッカー(enviro-tracker)」の早期着用者である。「エンバイロ・トラッカー」は、科学に興味を持つ市民をユーザーにする、ごくわずかなガジェットやアプリの中の1つである。毎日、多くのハイパー測定値を集積することで、着用者は、睡眠パターンやジョギングコースでの心拍数のグラフと同じように、他の人がどのくらい有害物質に汚染されたのかを追跡できる。

ゾーア社のエンバイロ・トラッカー(中央)とそれに付随するスマートフォンアプリは、それぞれのユーザーがどれぐらい大気汚染にさらされているのかを追跡する。携帯電話の画面上で、青色の斑点は空気がきれいな地域、一方、黄色やオレンジ色の地域は、それぞれ空気が汚染されている場所を示している。  ゾア(Tzoa)社

開発者は、彼らが作り出したデバイスはまだ初歩的なものであるが、日常生活の詳細を定量化する1つの方法であると述べている。大掛かりな空気監視装置よりも経済的で、より簡素なテクノロジーを組み込んでいるため、ユーザーは毎日使用することで大気汚染からの影響を避けることができる。

データをクラウドソーシングすることによって、公共のセンサーが計り損なっているギャップを埋めることも可能である。公共のセンサーは、何か所かの離れた地域でサンプルを集めているが、近隣地域全域ではない。また、データの正確さには優れているが、より広範囲にわたって展開するにはあまりにも高価である。

都市がスモッグ、煤煙、オゾンレベルの抑制の実現について大きく進展を見せたとしても、さらに優れた空気のモニタリングを行う必要は高まっていると専門家は解説した。

「空気がきれいとされる都市でも、大気汚染は、依然として実際に健康にリスクを与える可能性が高い」と米カリフォルニア大学デービス校の空気質研究センター(Air Quality Research Center)で指導するアンソニー・ウェクスラー(Anthony Wexler)さんは述べている。「人々にこのことを伝えるのは困難だ。人は概観を見て『きれいそうだ』と言うだろう。しかし、人を死に至らす、あるいは肺に損傷を与えるような大気汚染は目に見えない」と語った。

環境大気質汚染値を超えるものなど。  米国環境保護省によるデータ

世界保健機関(WHO)は、毎年約800万人が屋内と屋外の大気汚染によって死亡していると推定している。世界の人口の約半分は、ひどい大気汚染にさらされており、地球温暖化による気温の上昇によって空気の質は悪化し、その数は増加する可能性があると気候科学者が警告している。

ウェクスラーさんは、研究者や米国政府の環境当局は、人のための空気モニターの登場に興奮していると言う。

「典型的な都市が公式モニター、あるいはいくつかのモニターを保持する可能性がある。しかし、大気汚染は1ブロック違っても、かなり異なる場合がある。新たなテクノロジーは、各都市でのばらつきを扱うための活動につながる」とウェクスラーさんは言う。

これは、一般の消費者が、自身がどれほど汚染にさらされているのかという追跡に興味を持っているかによる。世論調査企業のギャラップ(Gallup)社による最近の調査では、米国人の38%が大気汚染について「非常に懸念する」と答えているが、これは昨年の46%に比べれば減少している。

ウェアラブル技術そのものが、まだ初歩的なものであり、デバイスは目新しいが、スマートフォンのようにユビキタス(偏在する)になるかどうかは、まだわからない。今年、企業は約2,600万台の「スマートウェアラブル」デバイスを出荷すると予想されている。これに対して、アンドロイド(Android)、アップル(Apple)、ウィンドウズ(Windows)などのスマートフォンは、14億台が出荷される見込みだとインターナショナル・データ・コーポレーションは述べている。

■エンバイロ・トラッキング(環境を追跡する)

ゾーア社のケビン・ハート(Kevin Hart)共同創設者は、3年前、カナダのブリティッシュコロンビア州の工業地で電気技師として働いている際に、エンバイロ・トラッカー(enviro-tracker)のアイデアを得たと述べた。

作業員たちは、肺癌や珪肺症につながる可能性があるが目に見えないシリカダスト粒子を吸い込まないように、紙のフェイスマスクを着けていた。マスクの着用は暑くて不快だった。このため作業員は汚染レベルが低いかもしれないと思ったときはマスクをはずしていた。「それが危険にさらされているかどうかの判断基準になった」とハートさんは回想する。

空気品質モニターを借りることは選択肢にはなかった。デバイスは工業用地で持ち歩くにはあまりにも高価で、使用方法も煩雑で重すぎた。そこでハートさんは、バンクーバーでエンジニアと物理学者の友人とチームを組んで、フィットビット(Fitbit)のリストバンドやアップルウォッチ(Apple Watch)のように、小さくて軽い試作品を作成した。

クリップオン装置は、空気を吸い込むために小型のファンを使用している。粒子状物質や花粉は、光散乱技術やアルゴリズムを使用して各粒子の数と大きさをカウントする、小さなレーザベースのセンサーの列を通過していく。GPS(全地球位置把握システム)が、クラウドソーシングされたマップのデータ調整を行い、内部の気圧計が、温度、湿度、気圧を検出する。

添付アプリは、ユーザーが室内や室外の空気の質を改善するために推奨する方法を提言する。例えば、カーペットをきれいにするようにとか、料理を作るときには通気口を開けるように、特にスモッグがひどい日には激しい運動は避けるようにといったようにである。

ロンドンのスチュワートさんは、エンバイロ・トラッカーのベータ版をテストする10人の「アンバサダー」のうちの1人である。最終版は、プレオーダー($139: 約1万7,000円)で利用可能で、2016年4月の出荷開始が予想される。今年の夏、ゾーア社は既に400トラッカーを販売済みとした。

また、同社は、より高度なリサーチ・バージョン(研究版)も作成している。同社は最新モデルを開発するため、クラウドファンディングサイト「Indiegogo」で最近、8万5,000ドル(約1000万円)を調達した。そしてカナダの研究者は現在、インドでテストを行っている。室内ストーブで木材、石炭、動物の糞を燃焼させて、大気汚染を研究している。

サンフランシスコに拠点を置くゾーア社は、ウェアラブルで空気の質を追跡調査できるエンバイロ・トラッカー・モニターのリサーチ版を開発している。  ゾーア社(Tzoa)

■クリーナー・ブリーズ(そよ風をきれいにする)

空気関連のスタートアップ企業がすべて、デバイスを製作しているわけではない。

「ブリゼオミーター(BreezeoMeter)」は、政府の空質モニターからデータを選別するために、3人のイスラエルのエンジニアが開発したスマートフォンアプリとプラットフォームである。3人のエンジニアによるチームは、独自のアルゴリズムを適用してデータを分析して、測定値をさらに精密に解析する。データをリアルタイムで街頭や近隣レベルにまで掘り下げることができると、「ブリゼオミーター(BreezeoMeter)」の最高マーケティング責任者であるジブ・ロートマン(Ziv Lautman)さんは説明した。

ロートマンさんによると、ブリゼオミーター(BreezeoMeter)の最高経営責任者(CEO)であるラン・コーバ(Ran Korbr)さんが、3年前に住宅を探していたときにアプリケーションのアイデアを得たという。当時、コーバさんの妻は喘息を患っていて妊娠していた。家族が増えることに伴ってコーバさんはイスラエル北西部の町、ハイファ(Haifa)近隣で住宅を探していた。

コーバさんは、イスラエルの環境保護省で働いているロートマンさんに電話をかけて、特定の地域で空気の質を測定して欲しいと頼んだ。「最初に思ったことは、データが非常に一般的だということだった」とローマンさんは回想した。「他の人ではなくて、本当に自分に関係のあるデータを集めたいと思った」と加えた。

「ブリゼオミーター」アプリのスナップショットは、2015年4月、ニューヨークのクイーンズ地区内の大気の汚染レベルを示している。  BreezeoMeter

大気の質にばらつきがあることを探知するソフトウェアの知識を使って、3人の科学者チームはブリゼオミーターのアプリを作り上げた。これは現在、米国、ヨーロッパ、イスラエル、中国に及ぶ全100都市で大気の質を追跡調査している。同社は最近、サンフランシスコにオフィスを構えた。これは、健康重視のスタートアップ企業に対するビジネス推進プログラムの一部である。

ロートマンさんによると、ブリゼオミーターは町の大気汚染源を特定したり、空気清浄化目標を支援するために政府官公施設でも使用されていると言う。「本当に希望するところは、スマートシティのための次のトレンドになることである」とロートマンさんは述べた。チームは、コレステロール値や体格指数などと同じように、貴重な健康指標として空気の質が加わることを目指している。

「次回、あなたが医者に行くときには、実際に、どれほど大気汚染にさらされてきたのかを見ることができるだろう」とロートマンさんは述べた。「心拍数、血圧を測定することができるツールは持っている。次の段階は、環境のすべてを測定することだ」と語った。

*この記事は、米国版 International Business Times の記事を日本向けに抄訳したものです。(原文: Maria Gallucci記者「Wearable Technology Takes On Air Pollution And Smog With Personal Air-Quality Monitors」)