米国の薬代が世界で最も高い理由

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ドイツ、ムンバイの実験室
ドイツ、ムンバイの実験室(2014年8月11日撮影) ロイター

米国における薬価は、他の先進諸国における同等の薬の価格よりも高くなることが多い。今週、チューリング・ファーマシューティカルズ(Turing Pharmaceuticals)社が、ダラプリム(Daraprim)の価格を13.5米ドルから750米ドルに上げることを決定した。そのことをきっかけに、薬価の差に注目が集まっている。これらの議論でしばしば見過ごされがちなのは、米国の高価な医薬品は、他の諸国のために助成金を出しているかのような状態であるということである。

医薬品の価格は、国によって異なる。グリーベック(Gleevec)としても知られるイマニチブ(Imatinib)は2001年に認可された薬で、慢性骨髄性白血病(chronic myeloid leukemia, CML)の治療薬である。2013年、米国における年間治療費は9万2,000米ドルであった。一方、発展途上国も含めて、世界の他の諸国では、ずっと安価である。ドイツは5万4,000米ドルであった。英国では3万3,500米ドルであった。

欧州では、政府が薬価を決定する。一方、米国では製薬会社が決定する。マッキンゼーによると、米国と、欧州(フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、英国)では、ひとつの薬価が、平均して50%異なる。

薬価の差とその事情は、業界では非常によく知られている。しかし、そのことが業界外で議論されることはほとんどなかった。製薬企業は、長年、新薬の研究開発費を確保するためには、薬価を高くすることが必要であると主張してきた。「R&Dマガジン(R&D Magazine)」2013年12月号によると、世界におけるライフサイエンスのうちの46%は、米国が実施している。バイオ医薬品については、米国が圧倒的に過半数を占める。

ニューヨーク・ロー・スクールのヤコブ・シュレーコブ(Jacob Sherkow)准教授は、「米国の消費者たちは、他の国の公共健康制度に助成金を出しているかのような状態である。少なくとも、薬に価格についてはそう言える」と述べた。

ミシシッピー州にあるコンサルティング企業「メディカル・マーケティング・エコノミクス(Medical Marketing Economics)」の共同創設者、ミック・コロッサ(Mick Kolassa)氏は、「フランスの人たちが、私たちが米国で支払うよりも、ずっと少ししか支払わないのは不公平である。しかし、私たちができることは何もない」と述べた。

製薬企業「サンド(Sandoz)」で薬価の決定と経済政策を担当していたこともあるコロッサ氏は、「今のバランスの悪さは、他の国がタダ乗りしていると解釈することもできる」と述べた。同氏は、外国政府へ薬価を交渉することを求めた。しかし、米国が薬価を上げすぎたら、いくつかの薬を購入するのを公然と拒むところもあるという。同氏は、「彼らは、米国がそれをカバーできると知っていた」と述べた。

米国研究製薬工業協会(PhRMA)の広報担当、マーク・グレイソン(Mark Grayson)氏は、「米国は、生体医学のイノベーションにおいて、世界的なリーダーである。研究は米国で販売される薬のためであるが、明らかに世界中で売られる薬のためでもある」とメールで述べた。

マサチューセッツを拠点とするコンサルティング会社「カルチャー・オブ・プロフィット(Culture of Profit)」の創設者、ラフィ・ムハンマド(Rafi Mohammed)氏は、薬価が異なるということは、薬の研究開発をどのようにファイナンスすべきかについての大きな問題提起であると考えている。同氏は、「それぞれの国が、公正なやり方で寄与する必要がある」と述べた。

製薬企業は、研究開発の資金繰りのために、高い価格を課す必要があると主張する。一方、薬価はただ単に高いのであり、研究開発資金の必要性は単なるいい訳であるという批判もある。そのような批判は、製薬企業の高収益性と、幹部への高額な報酬を論拠とする。

薬価を下げても、今までどおりの研究開発費を確保するためには、製薬企業は利潤の低下を受け入れる必要があるのであろう。それは、株主と投資家の意志に反することであると言える。また、幹部への報酬も下がる。薬を販売するための営業費、広告宣伝費等が、薬価格を押し上げているという指摘もある。それらは、ときには研究開発費をしのぐこともあるという。

インディアナ州の製薬企業「イーライリリー(Eli Lilly」によれば、新薬開発のための平均費用は、8億米ドルから12億米ドルである。また、最初の発見から患者のもとへと届けられるまでに、平均10年から15年がかかる。同社の年次報告によると、2014年、同社の総収入は196億米ドルであり、そのうち47億3千万米ドル(24%)は、研究開発となった。

同社の年次報告には、「私たちの、長期的な成功は、発見と開発、および革新的でコストパフォーマンスのよい人間のための医薬品や動物健康製品を獲得に寄る」と明記している。

たとえもし、欧州企業が薬価をあげたとしても、そのことが米国の薬価低下に自動的につながるわけではない。米国の製薬企業には、薬価を下げる動機がない。コロッサ氏は、「現在の制度の問題は、企業が薬の価格を下げたとしても、それによって報酬を得られないことです」と述べた。同氏によれば、薬価を下げれば、株主や投資家から非難される。

* この記事は米国版International Business Timesの記事を日本向けに抄訳したものです。(原文記事:Elizabeth Whitman 記者「How The US Subsidizes Cheap Drugs For Europe」)