次世代自動車で日中が火花、勝者は水素か電気か

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トヨタ自動車

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ロイター

アジア自動車市場の二大勢力である日本と中国が、次世代自動車の動力源をめぐり火花を散らしている。

日本ではトヨタ自動車(7203.T)に続いて、ホンダ(7267.T)も燃料電池による水素自動車(FCV)の発売を発表したが、中国は蓄電池による電気自動車(EV)を推進、進出企業や国内メーカーに積極的な投資を促している。両国の競い合いは、欧米メーカーなども参戦する世界標準への覇権争いの大きな波乱要因になっている。

<米テスラを追撃する中国勢>

全速力で電気自動車に向かっている中国。関連技術を持つ様々な企業が投資を拡大しており、中国資本の電気自動車新興企業が次々に誕生している。

電気自動車事業に出資する企業は、中国インターネット検索最大手の百度(バイドゥ)(BIDU.O)、電子商取引最大手のアリババ・グループ・ホールディング (BABA.N)、スマートフォンメーカー大手の小米科技(シャオミ)[XTC.UL] 、インターネットサービス大手の騰訊控股(テンセント・ホールディングス)(0700.HK) 、動画配信サービス会社、楽視網(LeTV)など広範囲に及ぶ。

中国政府もこうした民間企業の動きを強く支援し、「アメとムチ」の両面から市場拡大を誘導している。11万5000元の電気自動車の民間購入者に購入補助金を出しているほか、プラグインハイブリッド車に対しても、6万5000元の補助金を提供。その一方で、燃費規制の強化に動いており、進出している海外の自動車メーカーに電気自動車関連の技術を国内の提携企業に供与するよう求めている。

中国の電気自動車市場で最も派手な動きを見せているのが、LeTVが出資するAtievaやFaradayだ。両社はカリフォルニアで事業を展開し、世界の先端を走る米電気自動車メーカーのテスラ・モーターズ(TSLA.O)や他の企業が育てた人材や技術をすくい取ろうとしている。2-3年以内にテスラの「モデルS」に対抗できる高級電気自動車を製造するのが両社の目標だ。ある業界関係者は、これら新興企業の資金調達能力からみて、事業の可能性を真剣に受け止めるべきだと指摘する。

その中心人物であるLeTV創業者のJia Yueting氏(42)。資産家である同氏は、Atieva, Faradayに出資するほか、自身でも「テスラキラー」の可能性を秘めた高性能の電気自動車の製造を目指す。その車名である“Le Supercar”(スーパーカー)には、電気自動車にかける同氏の強い野心がにじむ。

同氏が率いるLeTVは、AtievaやFaradayに数億ドルの資金をつぎ込む一方、国有の北京汽車(1958.HK)や英スポーツカーメーカーのアストン・マーチンと提携関係を築いている。2017―18年には高性能の電気自動車を発売する計画と言われる。

テスラ追撃をもくろんでいるのは、LeTVだけではない。電気自動車の新興企業であるNextEVには、テンセントのほか3人の中国ネット企業家が後ろ盾についている。Pateoはデジタルマーケティング企業として事業を開始したが、現在は自動車向けインターネット接続技術の開発も手掛けている。

<「水素社会」の実現めざす日本勢>

中国政府は10年前から電気自動車の大衆化を目指してきた。参入障壁が低くなれば、後発メーカーの事業化を促進でき、従来型エンジン技術では100年の差がある欧米のライバルとの競争力の差も埋めやすいとの期待が背景にある。

これに対し、日本が描く未来は違っている。無公害燃料が家庭や乗り物の電力をまかなう「水素社会」の実現を国家目標に掲げ、その一環として燃料電池車(FCV)の技術やインフラ整備に重点的に投資している。

日本側は今週、一段と大きな賭けに出た。ホンダ(7267.T)は東京モーターショーで燃料電池を使う水素自動車の量販モデルを発表。日本では来年3月に発売し、主要市場の米国と欧州でも順次売り出す。「クラリティ・フューエル・セル」と名付けたこの新モデルを同社は一般消費者が手の届く価格設定で発売する予定だ。

同社執行役員の三部敏宏氏はロイターとのインタビューで「水素社会を実現するには絶対に車(水素自動車)が必要」と述べ、一般ユーザーに受け入れやすい価格での提供が「水素社会を実現する着火剤になる」との期待を示した。

同社によると、クラリティはセダンタイプで、政府による補助金を抜いた小売価格は766万円。トヨタの「ミライ」に続く水素自動車の市販モデルとなるが、トヨタとの技術面の違いは燃料電池スタック(燃料電池、モーター、変速機を一体化したもの)の小型化で、08年に米国の一部ユーザーに試験的に販売したモデルより約30%のサイズ縮小を実現した。

チーフエンジニアである本田技術研究所四輪R&Dセンターの清水潔主任研究員によると、クラリティでは燃料電池スタック全体をボンネットの下に格納し、大人5人が快適に座れるスペースを確保した。水素パワートレインをさらに小型化することで既存の商品への展開が楽になり、「フィット」や「オデッセイ」などにも水素自動車モデルが実現できる可能性があると清水氏は指摘、「そこにこだわって車を作ってきた」と成果に自信を見せた。

政府支援も強化されており、安倍晋三首相は成長戦略に水素自動車の購入への補助金や税制優遇措置、水素燃料ステーションに対する規制緩和など水素エネルギーを促進する様々な措置を盛り込んだ。トヨタの「ミライ」には、政府は約200万円の購入補助金を出し、神奈川県などでは自治体として補助金の上乗せも行っている。政府は3月までに水素自動車がまず導入される都市部で、水素燃料ステーションを100カ所整備する目標を掲げている。

「水素自動車は当然ながらインフラの整備が必要。国レベルの推進策がないと難しいが、日本は相当に政府が投資しており、(水素自動車への支援は)世界でも圧倒的に進んでいる国だ」と三部氏は話す。

<いずれにも大きな課題>

次世代車の動力源をめぐる覇権争いは、日中間だけでない。水素自動車の開発では、米ゼネラル・モーターズ(GM)(GM.N)がホンダと、BMW(BMWG.DE) はトヨタと提携。欧州のダイムラー(DAIGn.DE) は日産自動車(7201.T)と連携し、韓国の現代自動車(005380.KS) は独自に研究を行うなど、欧米メーカーなども含めた乱戦の様相すら呈している。

現状ではどちらの方式にも技術的に大きな課題があり、勝敗の行方は不透明だ。両者に共通するハードルは、動力を供給するステーション網など普及を支える社会インフラの整備。また、電気自動車の場合には長距離運転を可能にする必要があり、水素自動車が一般に受け入れられるには、なお高いコストが壁になりそうだ。

電気自動車も水素自動車も市場で共存できるはずだが、IHSオートモーティブのアジア太平洋責任者、ジェームズ・チャオ氏は「われわれは重大な岐路に立っている」と語る。「電池か水素かという選択はこのうえなく重要だ。数十億ドルという金額がいずれかに投資され、今世紀末までには自動車業界をリードする企業が決まるだろう」。