中国・人民元がIMF主要通貨に:歴史的瞬間か、アナリストの反応は

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    中国・人民元の100元紙幣が上海の銀行で数えられていた。2005年6月まで、人民元は1ドル約8.28元の固定相場制だったがそれが撤廃された。2008年4月、中国の中央銀行では対米ドル6.992元となり、初めて対米ドル7.000元を突破した。これは元が2005年6月以来、米ドルに対して18%上昇したことを意味する。 マーク・ラルストン(Mark Ralston)さん/AFP/ゲッティイメージズ
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    2010年6月21日、中国上海地方の市場でスイカの販売人が中国元の紙幣を見ていた。 ロイター通信
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中国経済開放への大きなマイルストーンとなるか、それとも大して重大ではないイベントなのか? IMF(国際通貨基金)が11月30日の理事会で、新たに中国の通貨・人民元を世界の主要な通貨と位置づけし、加盟国との間の資金のやり取りなどに活用していくことを決定した。12月1日、中国では様々な反応が上がった。

IMFは、世界の加盟国が資金不足に陥る非常時などに備え、ドル、ユーロ、イギリスのポンド、日本の円の世界の4つの主要通貨を組み合わせた特殊な資産「SDR」(特別引き出し権構成通貨)を設定し、加盟国の間の資金のやり取りなどに活用している。これまでドルを41.9%、ユーロを37.4%、ポンドを11.3%、円を9.4%の配分で組み合わせてきたが、30日の理事会で、来年10月1日から人民元を初めて主要通貨に加えることを決めた。新たな組み合わせではドルが41.73%、ユーロを30.93%としたうえで、第3の通貨に人民元を選び10.92%とし、円はその後の第4の通貨で8.33%、ポンドは8.09%となった。

主力メディアや国際的なアナリストの中には「これで中国通貨の国際化が後押しされる」と述べる者もいる。「歴史的瞬間であり、世界中に論争を巻き起こす」と中国の英字日刊紙「グローバルタイムズ」は評した。一方で、上海の「オリエンタル・モーニングポスト」紙は一面に「SDR通貨バスケットに人民元10.92%、日本の円や英国のポンドより高率」と題した記事を掲載した。オンラインニュースサイトの「ザ・ペーパー」には、国際的な通貨を明確に追い越して、IMFが主要通貨の一つとして人民元をSDR構成通貨に加えたことに興奮している様子で「ニュースを聞いて夜半まで起きていた。祝杯を上げよう」といったコメントが流れた。また、別のサイトでは「中国経済の発展を世界が認めた象徴的な出来事」といったコメントも加えられた。

多くの国際的なアナリストらが同様の見解を示した。金融グループHSBCホールディングスの香港のアナリストはリサーチノートの中で、この動きは人民元を国際化するための「重要なマイルストーン」であると述べて「これで人民元は、さらに『主要通貨』とみなされるだろう」と加えた。

2014年12月2日江蘇省南京の中国建設銀行の支店で、店員が人民元100元紙幣を数えていた。  ロイター/中国日報

しかしグローバルタイムズ紙は、いくつか異論もあがっていると報じた。SDRバスケットに人民元が採用されたからといって、SDRの発行残高は3,000億ドル(約37兆円)をやや上回る程度であり、世界の外貨準備高の2.5%を占めるにすぎない。人民元の構成比率はごく小さいうえに、通常、対外支払いをSDRで行なう国は稀である。

元モルガン・スタンレー銀行アジア担当チーフエコノミストで上海を拠点に活動するアンディ・シエ(Andy Xie)アナリストは「SDRは会計単位にすぎない。現実世界で重要な意味はない」と否定的にIBTimesに語った。シエさんは、この動きは今年8月に人民元の切り下げが行われたが、その影響で大量の通貨が流出した際に「中国人にドルを買わないよう納得させるために」中国政府への宣伝効果を狙った一撃であると示唆した。

中には皮肉を述べる者もいる。ニュースサイト「ザ・ペーパー」の論評では「人民元のSDRでの構成割合は専門家の予測より実際は下回っていた」と述べている。「人民元はIMFが言う『自由に取引できて換算可能な』基準を満たしているのか実際には疑問である。本当に海外で人民元を自由に使えるのだろうか? 限界があるように思う」と加えられている。

中国では現在も、投機的な取り引きを制限するために、お金を自由に海外から持ち込んだり、海外に持ち出したりすることができない。個人の場合、人民元と外貨の両替は原則として、年間5万元(約96万円)までと決められている。企業の場合も、モノやサービスの貿易や中国国内で稼いだ利益であるという裏付けがある場合を除いて、原則として人民元と外貨の両替や国境を越えた送金は認められていない。このため、中国への直接投資は、そのつど必要な資金の計画を当局に提出して許可を受ける必要がある。外国の投資家が中国の市場で人民元建ての株式や債券に投資する場合も、当局が認めた機関投資家や証券取引所を通じて、一定金額の枠内に限られている。

一方で、中国政府は最近、新基準を導入した。中国では年間5万元を超える資金を個人が海外に移すことは禁じられていると述べたが、海外でのカードによる引き出しは事実上抜け穴となっていた。このため、中国国家外貨管理局(SAFE)は今年9月、国内発行の銀聯(ユニオンペイ)カードを使って海外で銀行口座から引き出す際の金額に新たな上限を導入した。10月1日から年末までに銀聯カード利用者が海外で引き出せるのは最大5万元(約96万円)で、来年1年間では10万元(約192万円)が上限となる。すでに定められている1日につき1万元(約19万円)の引き出し上限額も引き続き有効だという。

グローバルタイムズ英語版の特集ページの論説で、この問題の重要性について「過度の期待」はあってはならないと示唆する。さらに「世界的な外貨準備高において人民元の割合が実質的に増加することは現実的でない」と指摘する。そして論説では、「外国の中央銀行などが資金を投入するかどうかの鍵となるのは、通貨の信頼性と、その通貨を発行した国の経済力による」と述べている。また、円がSDRバスケットに加えられているが、準備金として日本の円が実際に使用されることは少ないと同論説は述べた。

日本円と米国ドル  ロイター/ ナカオ・ユリコ(Yuriko Nakao)さん

「さらなる金融改革は、元が世界通貨になるために不可欠である」と記事は追加している。しかし中国の指導者たちは、それは理解していると強調した。中国の中央銀行による声明は「IMFの決定は中国に、引き続き経済改革と金融の開放を深め、加速するよう奨励している」と述べた。

実際、一部のアナリストは、IMFの動きに対する国際的な支援が、株式市場を含む中国経済を外国投資家へ解放する積極的な改革を推進すると述べている。また、香港で発行されている日刊英字新聞「サウスチャイナ・モーニング・ポスト」紙は、中国の投資銀行である中国国際金融有限公司(CICC)を引き合いに出して、人民元がSDRに編入されたことは中国経済に甚大な影響を与えるとして「金融の自由化に向けて取り消すことができない後押し」の一端となったと述べている。一方、「チャイナ・デイリー」は、ある専門家の意見として、「中国の中央銀行は現在、より透明化に向かうべきだとする大きな圧力下にあり、国際市場とのコミュニケーションの方法を改善すべきだ」として、今年行われた人民元の切り下げを批判した。

香港のオーストラリア・ニュージーランド銀行(ANZ)のリ・ギャング・リュウ(Li-Gang Liu)中国担当チーフエコノミストは、SDRに人民元が加わっても「短期的には大幅な資金流入をもたらす可能性は低いだろう。しかし我々は、長期的に見れば海外投資家が人民元の債券へ投資配分を増加させると考えている」と投資家向けノートで指摘した。一方でHSBCのアナリストは、IMFの決定は人民元の信頼を押上げ、利用は増加するだろうと述べた。その理由として、世界の投資家らに対してIMFの決定は、これまで流動的で疑問を呈していた人民元が、価値を蓄積するために安定していると保証する印となるからであると説明した。

2015年8月13日、香港の外国為替市場で、中国の人民元と米ドルおよびユーロの為替サービス推進の広告が掲示され、その横を男性が歩いていた。  ロイター/タイロン・シウ(Tyrone Siu)さん

また、HSBCの報告書によると、今回のIMFの決定は中国の改革努力を後押しするもので、中国の指導者たちに市場を動かす為替レートを引き出すように一層の推進力を与えると予測している。同報告書は、これがIMFの決定の「最も重要な結果」かもしれないと述べている。

人民元の対米ドルの1日当たり変動幅は現在、基準値の上下2%に制限されている。HSBCは、今後短期間で人民元は価値が低下するのではないかという懸念はあるものの、中国の中央銀行は現在よりもわずかに上下値の幅を広げるのではないかと予測している。HSBCは最新リポートで、今月、米連邦準備理事会(FRB)は金利を引き上げる可能性があることに着目して、中国への投資家がドル買いに動くのではないかと指摘。このため、人民元は現在の1ドル約6.35元の水準から、今年末までに1ドル約6.5元に下落すると予測している。また、同リポートは、中国政府は改革推進を表明しており、一部の措置は年内に実施されるが、中国中央銀行(中央人民銀行)と米連邦準備理事会(FRB)の金融政策に相違があり、それが原因で人民元を下押しする圧力が次第に強まるのではないかと報じた。

*この記事は、米国版 International Business Times の記事を日本向けに抄訳したものです。(原文: Duncan Hewitt 記者「Yuan Joining IMF's Basket Of Reserve Currencies Called 'A Historic Moment;' Celebrations, Some Cynicism And Hope For Further Market Reform」)