テロとの戦いとプライバシー保護――米司法長官が欧州に苦言

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IBT151211  テロ対策対プライバシー保護
リンチ米司法長官は、EUのデータ共有規則を批判した。 CHIP SOMODEVILLA/GETTY IMAGES

ロレッタ・リンチ(Loretta Lynch)米司法長官は9日、ロンドンでの発言で、欧州のプライバシー法を批判し、今後のテロ攻撃抑止のため、米国との協力の強化と情報の共有を主張した。同長官は、欧州のプライバシー法のために、過激派の追跡や計画の未然防止が難しくなっていると述べた。

英国のテレサ・メイ(Theresa May)内務相とともに登壇した同長官は、米国と英国が「特別な関係」にあり、自分が述べているのは大陸欧州のことであって、英国ではないことを明確にした。彼女はまた、オバマ政権はテロリズムとの戦いにおいて、英国以外の欧州諸国とより深い関係を模索しているとも述べた。

情報に関する米英の関係の緊密さは、特にエドワード・スノーデン(Edward Snowden)氏が、米国家安全保障局(NSA)と英国の政府通信本部(GCHQ)が協力して膨大な情報を共有していることを漏洩して以降、世に知られるところとなった。

英国のシンクタンク、王立国際問題研究所で9日に行われたスピーチの中で、リンチ長官は、「英国と米国は、長きにわたって緊密なパートナーであり、堅固な同盟国であり、両国の結びつきは、ウィンストン・チャーチル(Winston Churchill )が『特別な関係』と述べたように、深い根と豊かな歴史を持っている」と米国建国にさかのぼる米英の密接な関係に言及した。

スノーデン後の世界

しかし、EU全体については、同長官は賛辞を惜しまないというわけにはいかなかった。欧州裁判所による10月の「セーフハーバー協定」(グーグルやマイクロソフトといった米国の会社が、欧州顧客のデータを簡単に移転させることを許可する、15年前に締結された協定)無効の判決を指摘し、この協定が無効となることで、米国の法務当局がテロ捜査のための記録を入手することも難しくなったと述べた。

「欧州裁判所が不正確で古いメディアの情報に基づき、セーフハーバー協定の無効の判断を下したことは特に遺憾だ」とリンチ長官は述べた。同氏が言及した報道とは、国家安全保障局の元職員、エドワード・スノーデン氏が、2013年6月に逃亡するまでに盗み出した文書の漏洩に基づき、現在連載されている一連の記事だ。

こうした文書の中で述べられている手段やプログラムは、今現在とは異なっており、こうした事実のみに基づいて判決を下すことは誤りだと、リンチ氏は明確に考えている。スノーデン氏による最初の漏洩以降2年半、オバマ政権は「テロとの戦いの中で、市民の自由とプライバシーの保護を優先事項としてきた」し、「前例のない透明性」を創り出してきた。

希望的観測

しかし、皆がそうした見方をしているわけではない。広範で無差別な個人情報の収集に繋がるとして、プライバシー保護論者やアップルのような企業が強い反対を示すなか、先月、サイバーセキュリティ情報共有法(CISA)案が米上院を通過し、法制化されようとしている。「CISAは、EU市民が米国に対して持っている、なけなしのデータのプライバシー保護への期待を損なうものだ」と、データ・コンサルタント会社・Profusionのマイク・ウェストン( Mike Weston)CEOは、IBTimesの取材に答えて述べた。

セーフハーバー無効判決が不正確で古い報道に基づいているというリンチ長官の主張は、「希望的観測」だともウェストン氏は言う。「セーフハーバー協定の無効は、米国の技術企業にとって不便でしょうし、世界の技術産業には衝撃でしょうが、判決が間違った情報に基づいているなんてお笑い草だと思う」と同氏は続けた。

しかし、拡大するテロの脅威、特に先月、パリ中心部で同時多発的な攻撃を行い、130人の犠牲者と数百人の怪我人を出した、ISのグループに対抗するためには、そのようなデータ収集は不可欠なのかもしれない。

即時対応システム

何年も前になるが、米国は英仏を含む数か国と、いわゆる「24/7サイバー・ネットワーク」の構築を開始した。これは即時対応のシステムで、今では約70か国に広がっている。フランス捜査当局が迅速に、米司法省やインターネットプロバイダと連携して、パリのテロ攻撃に関するソーシャルメディアやサイトのデータを保存し、人命保護のために緊急の情報公開をすることができたのは、このシステムによるものだ。「促進すべきは、この種の国際情報共有についての革新的な思考だ」と9日、リンチ氏は述べたが、欧州の議案では、データの共有について厳しい制限が課されることになろうと懸念を示した。

しかし、このシステムは上手く稼働していない。11月のパリのテロの1週間前に、ドイツ警察がパリへ移動する車を停止させていたことが判明した。ドイツ警察は、パリで使われたような武器を隠し持っているのを発見したが、この情報はフランス当局に通達されることはなかった。

情報の共有に更なる制限が課されれば、状況は悪化するとリンチ氏は考えている。「欧州議会で審議が進んでいるデータ・プライバシー法により、米欧の情報共有がさらに制限されることを、我々は強く懸念している。これは、テロや国境を越えた犯罪と戦うために不可欠な情報共有の必要性を無視するのみならず、オバマ政権と議会がプライバシーを保護するために取ってきた、さまざまな措置を無視するものでもある」と長官は述べた。

改革

この法案は、一般データ保護規則(GDPR)と呼ばれるもので、来年前半の成立の見通しだ。米国のみがこの法案に反対しているわけではない。欧州全体一律に施行するよりも、指令の形を取って、各国が自国に適合するように施行できるようにすべきだとして、英国も反対の声を挙げている。

この改革は、1995年から行われている法律を見直し、データのコントロールを市民の手に戻すことで、データ保護のルールをデジタル時代にふさわしく近代化しようとするものだ。2012年1月に最初に提案され、2014年3月に欧州議会の支持を得た。

リンチ氏を通じ、オバマ政権は、プライバシーに関する懸念を示す人々をなだめようとしつつ、地球にはびこるテロリズムとの戦いにおいて、情報の収集と共有をさらに進めることが不可欠だという明確なメッセージを送っている。「米欧の全ての国が、国民の安全のみならず市民の自由やプライバシーをも守ろうとする我々のコミットメントについて、誤解を解くことが重要だ」とリンチ氏は述べた。

*この記事は、米国版International Business Timesの記事を日本向けに抄訳したものです。(原文記事:David Gilbert記者「Loretta Lynch: European Privacy Laws Are Making It Harder To Stop Another Paris Or San Bernardino」