原油価格下落:アラスカ州政府と住民も財政難

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トランスアラスカパイプラインマリンターミナル
世界的な原油価格が下落してアラスカは深刻な金融危機に陥った。写真はアラスカのバルディーズにあるトランスアラスカパイプラインマリンターミナルを撮影したもので14の石油貯蔵タンクが平原に並んでいる。 ルーカス・ジャクソン(LUCAS JACKSON)さん/ロイター

米国北部、アラスカ州フェアバンクスに、長く、寒く、暗い冬が近づいている。差し迫った金融破滅の予感がしのびよる。サラ・ペイリン(またはセイラ・ペイリンとも呼ばれる、Sarah Palin)元アラスカ州知事(共和党所属)は、かつてアラスカを「資源が豊富で全米一裕福な州」と呼んだ。ペイリンさんが州知事を務めた頃、アラスカは子どもも含めて住民1人につき1,200ドル(約14万6,000円)の「エネルギーリベート」と呼ばれる配当金を払うほど豊かだった。米国49州の中でも生活費が高かったため、これを埋め合わせるために、2008年には1年で2,000ドル(約24万円)の配当金を与え、年間配当金としては最高額となった。

当時、石油の価格は永遠に上がり続けるように見えた。アラスカ州にはぺブル(Pebble)と呼ばれる3,000億ドル(約36兆5,000億円)もの銅・金・銀鉱山のプロジェクトがあり、これは世界有数の未開発大型銅案件であった。また、サケの価格も上昇傾向にあった。アラスカのノーススロープから米国本土48州に向けて、数十億ドルをかけた天然ガスのパイプライン建設が進められた。オランダに本拠を置く石油会社ロイヤル・ダッチ・シェル社(Royal Dutch Shell)は、ロシアシベリア北東部チュクチ自治管区とアラスカ州北西部にかけての海であるチュクチ海の石油の契約に21億ドル(約2,500億円)を支払った。他にも7つの石油会社がこの地域の開発に興味を示した。

良い時代は終わった。アラスカは現在、35億ドル(約4,300億円)の赤字に直面している。この金額は2000年代初めの全米の国家予算総額に近い。

「州は何に費用がかかり、どのように支払うのか、両方を徹底的に調整すべきだ」とアラスカ・アンカレッジ大学(UAA)で社会経済を研究するグンナー・カップ(Gunnar Kapp)ディレクターは指摘した。「いずれの選択肢も政治的に極めて困難である」と加えた。

アラスカは経済停滞をいかに迅速に回復させるべきか苦慮している。1バレル100ドル(約1万2,000円)近辺を原油価格がさまよっても、アラスカ政府は健全な収益の流れを維持し続けてきた。シェル社はチュクチ海域で世界的な大油田をきっと見つけられると楽観的に語っていた。

だが、実現しなかった。シェル社は今年の夏、「明らかに掘削結果に失望した」と語った後、手ぶらでアラスカを去った。復帰の計画は何もない。米環境保護庁(EPA)は現在、ペブル鉱山プロジェクトを停止している。米本土48州へのパイプライン建設計画は、アラスカからアジアへ液化天然ガス(LNG)を出荷できる港までの計画に差し替えられたが、このプロジェクトは450億ドル(約5兆4,800億円)から650億ドル(約8兆円)の費用がかかると推定され、厖大な財政難と環境問題に直面している。環境保護者は、気候に害を与え、クジラを脅かすと抗議する。アラスカ州政府と提携する石油会社は、パイプラインが財政上実現できないのではと懸念する。

これだけでも十分なのに、サケの価格は下落してアラスカの石油生産は依然として減少し続けている。2015年、サケの漁獲量は2億6,350万トンで史上2番目に大量の記録だったが、その価格はわずか4億1,400万ドル(約500億円)にしかならず、4年前に比べて今年の漁獲は9,200万トン増えたにもかかわらず、評価額は62%減となった。

アラスカの農村地域ではサケに関連した雇用に依存する傾向も見られるが、州全体としては石油に依存してきた。石油による収益が、アラスカ州政府の90%の出費を調達してきた。原油価格が1バレル当たり40ドル(約4,800円)と下落し、石油産業が衰退すると、将来は最悪になる。一部のアナリストは、原油価格が1バレル20ドル半ばまで下落すればアラスカは破産すると示唆した。

現状、政治家は35億ドル(約4,300億円)の州予算の不足に直面しているが、これは1バレルあたり50ドル(約6,000円)の平均価格を基に予測している。差し迫った資金不足が既に複数の場所で明らかになっている。

失業率など  GRAPHIQ

フェアバンクスのアラスカ大学のキャンパスには、1億1,200万ドル(約136億円)をかけた最先端工学部の建物が未完成のままで誰もいない。12月中旬の金曜日の朝、エミリー・ジョーンズ(Emily Jones)さんは登校してきた唯一の学生であった。

彼女は地質学の学位を取得して卒業することについて、勉学のための広くてオープンで静かなスペースの長所について語ってくれた。ジョーンズさんは、アラスカの多くの人々と同様に、他の州からの転入者である。コネチカット州からアラスカにやって来て魅力を感じ、滞在することにした。

ジョーンズさんは大学から約24キロ離れた町の郊外にボーイフレンドと一緒に暮らしているが、「ドライ(乾いている)」と彼女は言う。水不足である地元の建物に対する呼び方である。また、ジョーンズさんは気温が氷点下50度や60度のときでも、屋外の小屋を浴室として使用している。

ジョーンズさんや大学の他の学生はすべてを受け入れて冒険的なライフスタイルで過ごしている。周囲にはヘラジカが生息する丸木小屋の自宅を快適だとジョーンズさんは言う。

「ここが好きだから」と彼女は言う「でも3日後にはここを離れます」と加えた。

理由は簡単だ。米国の東海岸の家族の元に戻りたいが、それ以上に経済的なチャンスをつかみたい。

アラスカは若者にとって広大な土地だったが、ジョーンズさんぐらいの年齢の人々は、この地にチャンスは少ないと考えている。経済成長率は昨年の半分以下である。不況が実際に到来する不安がある。今年、州の人口は26年ぶりに減少した。アラスカの収益の多くは石油の恩恵と所得税によるものであるが、それが消えようとしている。

アラスカ、フェアバンクスの大学で地質学を専攻する学生エミリー・ジョーンズ(Emily Jones)さんは工学部の未完成のままの建物のなかで座っていた。  クライグ・メドレッド(CRAIG MEDRED)さん

ビル・ウォーカー(Bill Walker)アラスカ州知事は今月、既に全米の中でも高額の税が課せられているアルコールにさらに厳しい税金を課すことや、燃料税の引き上げを提案した。

州議会が、ウォーカー州知事の提案を承認したとしても、予算の危機に直面する。

問題はシンプルだ。例えば、アラスカが豊かだった頃、百万ドル(約1億2,000万円)の住宅ローンをうけたが、現在では30万ドル(約3,600万円)の住宅ローンをうける程度の収入であることに気づいたということだ。このような問題に対処するのは不愉快だが、住宅所有者にとって、解決は比較的容易である。つまり、大きな家を売却して小型化すればよい。

だが、州政府にとって解決は容易ではない。アラスカは、州都の官僚を解雇して公共サービスを縮小する、またはより多くの収益を上げる必要がある。ウォーカー州知事は、前回の選挙で勝利を確保するために、1億ドル(約120億円)の予算削減と、新税や収益による8億ドル(約980億円)の増収を公約した。

共和党議員は現状に不満で、アラスカ州が余裕のある状態になるために官僚を解雇して州政府を縮小する必要があると主張している。米オハイオ州コロンバスは人口82万2,553人の町だが、8億1,300万ドル(約990億円)の予算で運営されている。アラスカ州の人口は73万6,732人であるが、ウォーカー州知事が提案した予算は約50億ドル(約6,000億円)である。共和党は、少なくとも45億ドル(約5,500億円)の削減を求めている。

「アラスカは税金を課すかわりに支出削減と改革をスタートさせて欲しい」と州最大の都市、アンカレッジの郊外で共和党所属のケビン・マイヤー(Kevin Meyer)上院多数党院内総務は述べた。

アラスカは、少なくとも今のところは破産していないとマイヤーさんは指摘した。

州は100億ドル(約1兆2,000億円)程度の予算積立金を設けている。いわゆる「恒久基金」は現在、500億ドル(約6兆円)以上を有する。後者は国家の石油による富を共有するために設立された。毎年アラスカ州はファンドからの収益から配当金の割合を計算する。

アラスカ州は35年前に所得税を廃止し、その後、逆に州が運営する石油会社の利益を配当金として州民に分配してきた。しかし昨年末からの原油価格の下落が長期化して、石油輸出によって潤ってきた州の財政状況が悪化しており、個人に対する所得税の導入を検討していることが10日までに明らかになった。

配当金はアラスカに希望を与えてきた。約30年間、上手く管理されてきた。アラスカは常に将来を見据えてきたが、いま、現実を見ることなく未来を考えることはできない。

パイプラインの労働者を記念した看板がアラスカのバルディーズ、トランスアラスカパイプラインマリンターミナルにある。  ルーカス・ジャクソン(LUCAS JACKSON)さん/ロイター

アラスカの石油生産は確実に衰退している。新しい生産が開始されているが衰退には追いつかない。たとえ原油価格が上昇したとしても、石油が豊かだった古き良き時代に戻ることは容易ではない。

世界的には水産養殖が成長を続けているなかで、今年11月19日、FDA(米食品医薬品局)が遺伝子操作によって通常の2倍の速度で成長する遺伝子組み換えサケを「食品として安全である」と判断して、食用として流通させる認可を出した。このサケを、環境保護団体らは「フランケンフィッシュ」と呼び揶揄した。価格が下落したアラスカのサケを商売で扱う漁師は今年、新たな状況を突きつけられたことになる。

楽観的意見として、少なくとも観光は明るい。重苦しい季節が着実に続いているにもかかわらず、観光は堅調である。気候変動への懸念によって北極圏での研究が盛んに行われ、この地域の大学が継続されている。誰もがアラスカを諦めて脱出方法について考え始めたわけではない。

しかし、アラスカで最も貴重なものである「希望」は消え失せた。

大学でジャーナリズムを研究するリチャード・マーフィー(Richard Murphy)さんは、1980年代半ばのアラスカの厳しい不況を生き抜いてきた。当時、石油は1バレルあたり10ドル(約1,200円)に下落した。現在のマーフィーさんはオフィスに向かう途中でさびれた工学部の建物の側を通り過ぎる。

「見ていると悲しくなる」と述べて「未来を象徴しているかのようだ」と加えた。

*この記事は、米国版 International Business Times の記事を日本向けに抄訳したものです。(原文: CRAIG MEDRED記者「Falling Oil Prices Spell Dark Times For Alaska's State Finances, And Even Bleaker Days For Its Residents」)