米ウォール街に自浄作用はあるのか? 違法銀行員のリスト作成に波紋

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ニューヨーク証券取引所
ニューヨーク証券取引所の正面入り口の上部に施された彫刻のテーマは「人間の労働を守る公明正大さ(Integrity Protecting the Works of Man)」である。2010年2月26日ニューヨーク市にて撮影した。 チップ・イースト(CHIP EAST)さん / ロイター

米国の金融街であるウォールストリートでは、仕事上の倫理的な問題に関与した銀行員のリストの作成が進められている。この件を初めて報じたブルームバーグ社によると、データベースの作成によって、企業は、会社から会社へと渡り歩いて法律違反を繰り返すような社員の雇用を回避することができるようになるだろうと伝えている。

しかし、ウォール街の強力な倫理提唱者らは、動機を変えずに行動を変えることが出来るのかと疑問を呈している。

「多くの金融機関で、銀行が言っていることと、実際行われていることの間には食い違いがある」とラバトン・スチャロウ(Labaton Sucharow)法律事務所で内部告発の責任者を務めるヨルダン・トーマス(Jordan Thomas)さんは語った。従業員が、会社全体に影響を与えるような倫理ガイドラインと向き合う場合でも「企業体系のなかで、従業員は規則を破ることにプレッシャーを感じながら仕事をしている」とトーマスさんは加えた。

不正を働いた銀行員のリストを作成するという考え方は元々は英国で始まり、同様のシステムが9月に開始された。米国での提案は、ニューヨーク連邦準備銀行のウィリアム・ダドリー(William Dudley)第10代総裁の後押しによって始まった。ダドリー総裁が最近、ウォール街の体質改革に乗り出している銀行員や金融管理者の集会でこのアイデアを提案した。

ニューヨーク連邦準備銀行での会議の参加者は明確に提案を受け入れた。「業界関係者は予備知識なしで新人補充を行う場合の問題を認識し、その解決策として検索可能なデータベースの作成を提案した」と11月に行われた会議の公式声明で発表した。

「求職者を容易に選別するため、全体的に非常に簡潔なものになるだろう」と職業紹介所であるウォールストリート・サービスのピーター・ラフター(Peter Laughter)最高経営責任者(CEO)は述べた。ラフターさんは名簿作成は有効であると述べたが、業界の慣習が結局、これを退けるだろうとも話した。

「わが社のクライアントのほとんどは、参考となることは伝えないという職務上の方針を示している」とラフターさんは共に仕事をしているウォール街の職員について述べた。「職員らが参考となることは伝えないつもりであるなら、監査機関に容疑がかかっている個人的な記録に関して伝えることもないのではないか」とラフターさんは述べた。

この取り組みは、ニューヨーク連邦準備銀行がウォールストリートを改善しようとしている動きの1つにすぎない。ダドリー総裁は「明らかに、法律、規制、公的信頼性の尊重が欠如しており、いくつかの大手金融機関が繰り返してきた」と述べて改正を求めた。

米国の金融業界の多くの人々が、業界の道徳的な清廉潔白を懸念する根拠を感じていることは確かである。今年初め、ニュースウェブサイトの「ラバトン・スチャロー(Labaton Sucharow)」が実施した調査では、4社に1社の割合で、銀行は法に抵触する行為をとった同僚を知っていると述べた。調査対象者のほぼ3分の1は、ボーナスや報酬が、違法行為を誘発する原因となっていると述べた。

インサイダー取引は行われているか。 はい 25% ボーナスや給与が倫理上の法律違反を起こす原因になっているか。 はい 32% ウォール街は金融危機以降、改善されているか。 いいえ 33%  ハンナ・センダー(HANNA SENDER)さん / アイビータイムズ

証券取引委員会は金融危機以来、内部告発を推進してきたが、今回の提案は、ウォールストリートの管理職の人々に、告発を阻止する目的で登録リストを利用する機会も与えている。

「金融市場関係者の透明性を向上させることは投資家にとっても常に大切である」と米証券取引所委員会(SEC)で訴訟コンサルタントを以前勤めたことがあるトーマスさんは述べた。「しかし、悪用される可能性があるため、このようなプログラムは細心の注意が必要である」と加えた。

トーマスさんは、違反行為を密告した銀行のブローカーに対する仕返しの事例を引き合いに出して、データベースを使用することは、広い銀行業界を、あてどなくさまようことにもなると話した。登録名簿は、自主規制部門の統合により設立された米金融業規制機構「Financial Industry Regulatory Authority (FINRA: フィンラ)」によって運営され、金融アドバイザーらの違法行為の記録が保管される。このデータベース内の誰かの名前にマイナスマークが付けば、その人物は事実上、仕事を探すことができなくなる。

FINRAのデータベースに関連して、最近公表された事例に、トーマスさんは懸念を示している。金融サービス会社であるJPモルガンの元ブローカーだったジョニー・バリス(Johnny Burris)さんは、投資アドバイザーの利権争いが絡んだ銀行のディスクロージャーに警告を発した。銀行は問題を解決するために3億ドル(約360億円)以上を支払った。ダメージを受けた2つのクライアントが、バリスさんにクレームをつけて、それは記録としてブローカーの登録簿に残された。

そのクレームは、ブローカーであったバリスさんの元クライアントによってサインされたが、ニューヨーク・タイムズ紙は後になって、実際にバリスさんのクレームを書き込んだのはJPモルガンの社員だったと報じた。以前のクライアントであった或る人物がニューヨーク・タイムズに「バリスさんには『何の問題もなかった』が、JPモルガンに催促されて内容を読まないままクレームについてサインした」と語った。

ブローカーの登録簿とは異なり、今回提案された銀行員のデータベースは一般公開はされず、管理職や幹部に限ってアクセスが可能である。しかし、このことが、新しいデータベースが悪用される可能性をなくすわけではない。

ラフターさんは、提案が実現すれば、避け難い軋轢が発生すると危惧する。

「提案によるデータベースが実現されれば、品行が悪いとして掲載された誰かがその知らせを受けて訴訟を起こすことになるだろう」とラフターさんは述べた。

*この記事は、米国版 International Business Times の記事を日本向けに抄訳したものです。(原文: OWEN DAVIS 記者)「Is This How Wall Street Cleans Up Its Act? Badly Behaved Banker List Raises Concerns」)