本をめぐる物語2015

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IBT151225 本をめぐる物語2015
ロンドンの書店Foylesで順番を待ちながら本を読む女性。紙の本の売り上げは落ちてきているが、読書家にとって暗いことばかりではない。 ROB STOTHARD/GETTY IMAGES

ニューヨークのアイコン的な書店、ストランド・ブックストアは開店から88年の歴史のなかで、2015年に最高の収益を記録した。同書店の通路は1年を通して人で溢れ、ホリデー・シーズンのピークを迎えた今週は、キャパシティの限界に達した。

ストランド書店のマーケティング部長、ホイットニー・ヒュー(Whitney Hu)氏は、「在庫を保てない状況が続いています。狂乱の年でした。フロアの社員はずっとてんてこまいでした」と明かした。

CDやDVDの売り上げが落ち込み続ける中、紙の書籍は物理的メディアの最後の砦の1つだ。このことは休暇近くになると特に顕著になる。全国のお尻の重い人々の駆け込み需要があるからだ。しかし、たしかに休暇の時期、書店は大きな売り上げを上げるが、紙の本の販売データを見ると、書籍産業全体としてはもう少し複雑な事情があるようだ。

複数のデータによれば、過去5年間のトレンドに引き続いて、紙の本の売り上げは、ここ1年で少し下がった。電子書籍については、変わっていないというデータもあり、上がり続けているという資料もある。

全米1200の出版社の書籍売り上げを分析する米出版協会(AAP)のデータによれば、紙の書籍も電子書籍も合わせた出版書籍全体の売り上げは、ほとんど変わっていない。世論調査会社のピュー・リサーチの1000人アンケートによれば、2015年の米国人の読書量は、前年よりやや少なかった。紙の本を読んだ人は5%ほど減り、電子書籍の消費は変わらなかった。

これは、紙の本にとって悲観的な状況なのだろうか。そうでもない。

「2015年の出版業界は、悲喜こもごもだったんです」とAAPの広報担当者、マリサ・ブルーストーン(Marisa Bluestone)は言う。実際、AAPのデータによれば、紙の本の売り上げは、1月から8月までは前年比12%伸びた。一方で、米国書店協会は、会員書店の数が増えたという。5年前の1660から、今年は2227に増えた。 暗い面では、ハードバックは同じ8か月で、前年比8%ダウンしたし、紙の市場全体としては下降している。

世界的な会計事務所のプライスウォーターハウスクーパース(PwC)によれば、国際的には、紙の本とオーディオブックの市場を合わせると、今後4年で毎年3%ほどずつ落ちていくだろうという。ラテンアメリカや中東、北アフリカなど、書籍市場がまだ拡大しつつある地域もあるが、米国のように下降している他の国々とで相殺されてしまう。

米国における収益は、平均8%下降するだろう。こんな傾向で、熱心な読書愛好家のベンジャミン・フランクリンはきっとがっかりするだろうが、米国の出版社はまだギブアップする必要はない。「紙の本も、まだまだ幸せな未来が待っています」とコンサルタント会社PwC’s Strategy&のクリス・レデラー(Chris Lederer)社長は言う。

それに、電子書籍が業界のものがたりを複雑にしているとはいえ、電子書籍によって紙の本が助かっていることもある。PwCによれば、今後4年間、電子書籍の売り上げによる収益は、米国では毎年約10%、世界全体では約15%伸びると予測される。米国で電子書籍の収益成長がやや低めなのは、2009年から2011年に、米国では既に電子書籍ブームを経験しているからだと専門家は指摘している。2007年に発売されたアマゾンの最初の電子書籍リーダー、キンドルは、書籍市場に大きな影響を与えたが、電子リーダーの売り上げは近年落ち着いてきている。

電子書籍のブームは、アマゾンを通じて自費出版された本の数を考えれば、さらに大きくなると言う人もいる。同社は、電子書籍の売り上げデータを公開していないが、複数の専門家によれば、電子書籍産業ブログの1つ、「Author Earnings」が手がかりを示している。このブログによれば、自費出版の本はアマゾンで売られる電子書籍の数を増加させており、強い売り上げを見せているという。実際、アマゾンの著者・出版社関係部長のニール・トムソン(Neal Thompson)氏は、LiveMintのインタビューに応じ、米国アマゾンのベストセラートップ100の3分の1以上が自費出版の本だと述べた。

紙の本でも伝書書籍でも持ち運びの簡便さは同じだ。少なくとも今後数年は、公園や地下鉄で、電子書籍より紙の本を読んでいる人を見かける方が多いだろう。しかし、電子書籍愛好者は、デジタル市場のシェアが増えるにつれ、より多くの会社が参入してくるのを見ることになろう。

*この記事は、米国版International BusinessTimesの記事を日本向けに抄訳したものです。(原文記事:Marguerite Ward記者「The Book Industry Narrative For 2015? It’s Complicated」)