イラン核制裁解除、ロウハニ大統領の国内改革の戦い

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イラン議会
2016年1月17日イランの首都テヘランのイラン議会でロウハニ、イラン大統領は来年度予算案を示す前に演説した。 写真:ロイター/イラン大統領配布資料

ロウハニ(Hassan Rouhani)イラン大統領が25日、イタリア、バチカン、フランスを訪問するため出発した。イランの核開発に関する合意が履行され、イランに対する制裁解除がイランと米欧など6か国によって発表されて以来、およそ1週間。イラン大統領の欧州への旅行は約20年ぶりで、投資を呼び込むのが目的と見られる。同時に、ロウハニ大統領には人権侵害が横行し貧困が蔓延するイラン国内の改革推進へ期待がかかる。

しかし、ロウハニ大統領のイラン(公式名: イラン・イスラム共和国)への将来構想は新たな困難に直面する懸念がある。

来月26日、イランで議会選挙が行われる。選挙は、国際社会との対話を掲げるロウハニ政権支持派と、反米の徹底を呼びかけている現議会の多数派である保守強硬派の間で激しく争われる見通しである。290議席に過去最多の1万2,000人余りが立候補の届け出を済ませ、立候補資格を満たしているか審査の手続きが進められている。ロウハニ政権を支持する穏健派や改革派は、資格審査で多数の改革派の候補者が失格となった過去の選挙を教訓として、今回は届け出者の数を大幅に増やしたことを明らかにした。

「実際、ロウハニ政権を唖然とさせる可能性もある。選挙の結果によっては国内情勢だけでなくイランの外交政策を揺さぶることにもなりかねない」と米ニューヨークに本部を置く人権監視団体「ヒューマン・ライツ(Human Rights)」に所属するハディ・ガーミ(Hadi Ghaemi)アナリストは述べた。「ロウハニ大統領の政策、核開発に関する合意と制裁の終了は、保守強硬派に脅威を与えている」と加えた。

2016年1月25日、イランのロウハニ大統領(左)はイタリア、ローマのカンピドリオでレンツィ(Matteo Renzi)イタリア首相と握手を交わした。  ロイター/アレッサンドラ・ビアンチ(ALESSANDRO BIANCHI)さん

イランの政治システムは、同国の憲法に定められた上院にあたる機能をもつ会議、「監督者評議会(Guardian Council)」によっても運営される。憲法によると、監督者評議会はイスラーム法学者6名および一般法学者6名のあわせて12名から構成される。前者6名は最高指導者であるハメネイ(Ayatollah Ali Khamenei)師によって指名され議会で承認される必要がある。ハメネイ師は議会に強い権限を持ち、自身は保守派とされる。イランと欧米など6か国が昨年7月に結んだ核合意をイラン議会が承認した際も、ハメネイ師は、核合意が米国に対する姿勢を変えるものではないとの考えを示し欧米諸国に対立する姿勢を示してきた。

ロウハニ大統領は中道穏健派とされ、大統領の政策は改革派に支持されてきた。現議会では対抗勢力である保守派が多数を占めるため大統領の勢力は限定的だが、近年、ロウハニ大統領は改革派によって支持されてきた。2月に行われる議会選挙で穏健派と改革派が勝利をおさめた場合、ロウハニ大統領によって2013年6月の大統領選挙の際に約束された国内改革が実現される可能性が高いとアナリストは分析している。

ロウハニ大統領は経済改革を中心に多くの改革を求めており、ビジネスの障害を取り除き世界に開かれた状態へと変革を呼びかけてきた。また、同大統領は、かつては秘密裁判として取り扱われきたいくつかの事例で、公的な裁判を求める法案を推進しているとロイター通信は報じた。同大統領は、女性と言論の自由の権利を含む問題に改革派としての強力なスタンスは取っていないが、改革派と現状をつなげる橋渡しとしての地位を確立した。

イランは人権問題に関する記録が乏しい国であり、世界で最も処刑の多い国の一つである。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、同国の治安部隊と人権侵害もはなはだしい司法を非難し、ロウハニ氏が大統領に就任しても国内改革による変化はあまり進んでいないと指摘している。しかしアナリストは、大統領のリーダーシップは改革に変化を与えるだろうと述べている。

就任以来、ロウハニ大統領は、イラン核取引を前面に押し出して広く改革を前に進めることと、欧米諸国との厳しい関係に応急手当をすることに焦点をあててきた。これは、マフムード・アフマディーネジャード(Mahmoud Ahmadinejad)前大統領(2005-2013年まで在任)の在任中は、アフマディーネジャード前大統領が強烈な反欧米主義であったためうまくいかなかった。

イランと米欧など6か国によって核開発問題を巡る最終合意の履行が宣言され、イランに科されてきた経済制裁を解除する手続きが着手された。イラン政府は、すでに合意に達した核に関する協定に干渉する可能性は低い。「同国政府が合意に達した協定から外れることはほぼないだろう」とトルコに拠点を構えるインターナショナル・クライシス・グループのイラン担当、アリ・バエズ(Ali Vaez)シニアアナリストは述べた。

イラン内外の多くの人々は、制裁発動以降、野菜や肉といった日常の定番商品の価格の高騰による物価の急上昇、産業の弱体化などが発生したため、イランの国際市場への復帰を喜んでいる。しかし、反対派は、核問題の合意は、欧米諸国の干渉につながるトロイの木馬と受け止めている。

首都: テヘラン、正式国名: イラン・イスラム共和国、公用語: ペルシャ語、通貨: リアル。  Iran Overview | FindTheData

同時に、強硬派は制裁によって、ここ数年にわたり主要な経済セクターにしっかりとしたポジションを維持してきた。現在、強硬派は、このポジションを外国企業によって失うのではないかと怖れている。一方で強硬派はイラン国内での支持を失うことも怖れているとアナリストは説明する。イランの核問題の合意は、イランの若者層からも広く支持されているため、同国の一部のエリートの意思に反して議会での穏健派の躍進につながるだろうと、米マサチューセッツ州ケンブリッジ大学のハーバード大学ケネディスクール(ハーバード大学大学院)パヤム・モーセニ(Payam Mohseni)イラン、プロジェクトディレクターは述べた。

「以前は、強硬派がそのポジションと議会での地位を失うことに、いくばくかの希望があった。核に関する合意によって、穏健派とロウハニ大統領の手腕は支持され、支援は強化されると見られていた。けれども現在、わたしたちが見ている大量の資格剥奪によって、それはありそうにないように思う」とモーセニ氏は語った。

イランの改革派は、監督者評議会に、選挙への資格剥奪をくつがえすように活動している。モーセニ氏によると、2月初めに議会選挙候補者のリストが完成される前に、何人かの失格者がくつがえされる可能性が高いと言う。しかしイランの指導者へのメッセージは明らかだとモーセニ氏は語った。「このことは保守派がまだ権力の手綱を握ることができるという明確なシグナルだ」とモーセニ氏は指摘した。

2012年からイランに残って人権問題に取り組むホセイン・ラエッシー(Hossein Raeesi)弁護士は、同国のエリートの間で資格剥奪に関する恐怖が高まっていると述べた。「すべてはイラン政府によってコントロールされていると思う」とラエッシー氏は述べた。同氏は現在、オタワ大学の客員教授だが「イランは完全な民主主義を手に入れたいと願っている。これはすべてのイラン人にとって大きな夢である」と加えた。

*この記事は、米国版 International Business Times の記事を日本向けに抄訳したものです。(原文: MICHAEL KAPLAN 記者「After Iran Nuclear Deal, Rouhani And Supreme Leader Battle Over Domestic Reforms」)