ジカ熱への対応、エボラとなぜ違うのか

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  • 消毒する作業員
    2016年1月30日、ペルーの首都リマで保健省の作業員がネッタイシマカ(熱帯縞蚊)によるジカ熱への対策として様々な場所を消毒していた。 アナドル通信社/ゲッティイメージズ
  • 消毒を待つ住民
    世界保健機関はエボラ出血熱とジカウイルスに、国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態を宣言した。しかし、対応はそれぞれ大幅に異なることが予想されている。2016年2月1日ペルーの首都リマ郊外で、医療従事者によって消毒が行われる間、住民は屋外で待っていた。 ロイター通信/マリアナ・バゾ(MARIANA BAZO)さん
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西アフリカでエボラ出血熱の流行が記憶から色あせる中、新たな疾病の流行が懸念されている。ジカ熱である。ジカ熱は、「ジカウイルス」をもつ蚊に刺されることで感染する。ウイルスを媒介するのは、ネッタイシマカや、日本にも北海道を除く地域に生息するヒトスジシマカで、人から人へは感染しない。妊婦が感染することによる胎児の小頭症の関連が疑われている。

世界保健機関(WHO)は1日、ウイルスによって流行が拡大し、国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態であると宣言した。エボラ流行以来の緊急事態宣言となった。エボラでは1万1,000人以上が死亡し、WHOは適切な対応を怠ったとして強い非難を受けた。しかし流行への懸念が表明されたにもかかわらず、ジカウイルスへの国際社会の対応はエボラとは大きく異なる可能性があると専門家は指摘する。

国際社会は、エボラを含むこれまでの疾病の流行に比べれて、はるかに迅速にジカウイルスに対応していると、ピッツバーグ大学医療センターで保健衛生を専門とするアメッシュ・アダルジャ(Amesh Adalja)さんは述べた。全米保健機構(PAHO: Pan American Health Organization)は米国におけるWHOの地域事務所として知られているが、感染症に効果的に対処するための着実な実績があるとアダルジャさんは加えた。

感染報告があった国、流行している国  米国疾病予防管理センター 2016年1月更新データ

WHOからの任務を委託されている全米保健機構だが、評価組織によると、エボラ流行に対する全米保健機構の対応は適切ではなく、緊急時の公衆衛生への十分な対応に欠ける能力かつ組織である」というものだった。他の評価委員会からも同様の結論を得ているため、同機構が再び同じ失敗を繰り返さないよう熱意を持って対応していると専門家は述べた。

「エボラの時と同じ状態には陥りたくないと確かに思っている。エボラの場合は、世界がその脅威に気づくよりも先に流行が拡大した」と米ノースカロライナ州ダラム、デュークグローバル・ヘルス研究所で国際保健学を専攻するクリス・ウッズ(Chris Woods)教授は語った。

専門家グループが1日、マーガレット・チャン(Margaret Chan)WHO局長に、ジカ熱の世界的な脅威を指摘したのも、失敗を繰り返したくないと思っている一つの表れである。このような指摘は、国や地域の財源を、ジカ熱との戦いにつなげるだけてなく国際社会における多くの協力も引き出す一助になる。

また、公衆衛生における特定の地理的要因も、ジカウイルスと戦う際に有利に働く。その一つとして、世界保健機関(WHO)は6つの地域事務所にグループ化されているが、官僚的な構造は単なる象徴ではなくて組織全体の効果に重大な影響を与えていることがある。

ジカ熱流行が拡大している地域  2016年  ツイッターより  2016年1月27日

「結局、WHOは担当の地域事務所と同程度の力しかない」と、スコットランド、エジンバラ大学で国際公衆衛生を教えるデヴィ・スリダー(Devi Sridhar)教授は語った。

南北・中央アメリカWHO地域事務所である全米保健機構(PAHO)は、WHOよりも歴史が古い。1902年、PAHOは全米衛生局(PASB)として創設された。1948年、WHO設立に伴い、より大規模な世界機関の傘下に加わった。

しかしPASBには、新設のWHOに加わるよりずっと以前から称賛に値する着実な業績がすでにあった。PASBの取り組みにより、黄熱病、コレラ、腺ペストなどの疾病が徐々に管理されるようになり、徹底的だが共通の措置である隔離は不要になった。1930年に当時の米国公衆衛生局医療ディレクター、ボリヴァー・J・ロイド(Bolivar J. Lloyd)さんは「PASBのおかげで南北・中央アメリカの各共和国の保健機関の間により優れた理解がもたらされた」と書いている。

「一般に、PAHOはWHOの中でも最高水準の専門組織であると考えられている」と、ピッツバーグ大学医療センターのアダルジャさんは同地域事務所について話した。「ほとんどの公共保健機関が、WHOのアフリカ事務所に対するよりもずっと大きな信頼をPAHOに寄せている」と加えた。

米国内でのジカ熱発症の事例  Associated Press, LA Times, Washington Post

また、南米諸国は、リベリア、シエラレオネ、ギニアといった内戦の影響により貧困にあえいでいる。さらにエボラ出血熱の流行にみまわれた国々よりも豊富な資源とより発達したインフラを背景に工業化が進み政治的に安定してきていると指摘する専門家もいる。

「エボラ対策に関する報告書はすべて、基本的な公衆衛生インフラがパンデミックに対する準備の第一段階であるとしている」とエディンバラ大学のスリダー教授は述べた。「ブラジルの保健システムはギニアよりもはるかに進んでいる」と付け加えた。

1日の時点で、南北アメリカ大陸の国を中心とする25か国から、蚊に刺されたことにより感染するウィルスによる事例報告があった。感染力が高く概して致死率50%に至るエボラウィルスとはまったく異なるウィルスである。エボラは感染者の体液に直接接触することでヒトからヒトへと感染し、感染者はしっかりとした集中治療を受ける必要がある。

今回のジカ熱の流行は、ブラジルに端を発する。昨年5月、同国で流行が初めて報告された。その後、秋になって同国では、発達遅滞などの障がいの原因となる先天性疾患である小頭症の新生児の数が急増した。専門カ家は、このウィルスと一時的な筋力低下を起こすギランバレー症候群との間に何らかの関係があるのではないかと懸念するが、今のところ確実なことは解っていない。

これらの特性を踏まえると、ジカ熱が公衆衛生に与える影響は独特のものであるとウッズ教授は説明し、「ジカ熱発症者は重篤な状態にはならない」と述べた。しかし「その後、胎児に与えるリスク」を思うと、ジカ熱は非常に恐ろしいと加えた。

2日夜のNHKニュースは日本政府がジカ熱に関する緊急会議を開き、渡航注意の喚起、空港での検疫強化、対策会議の設置などについて確認したと報じた。

*この記事は、米国版 International Business Times の記事を日本向けに抄訳したものです。(原文:ELIZABETH WHITMAN 記者「Zika And Ebola Are Both Global Health Emergencies, But The Responses Will Look Very Different」)