アップル社、FBIのユーザー情報開示要請を拒否――シリコンバレーの反応は

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IBT160219 アップルがFBIのデータ開示ソフト要請拒否
アップル社は17日、12月に起きた銃乱射事件容疑者のiPhoneデータにアクセスする「裏道」を要請する政府の求めに反対の立場を表明した。 XU KANGPING/GETTY IMAGES

米アップル社のティム・クック(Tim Cook) CEOが17日夜、FBIの技術的協力要請を拒否したとき、シリコンバレーの多くの個人は、iPhoneメーカーのこの大胆な行動に称賛を送った。しかし、マイクロソフトや、ヤフー、フェイスブック等の大企業は奇妙に沈黙を保ったままだ。

IT業界は、もう長い間ロック解除を求める政府の要請に難色を示してきたが、18日のアップルの書簡は、ユーザーデータへのアクセスを求める政府の要請をもっともはっきりと拒絶した例となった。

12月2日にカリフォルニア州サンバーナーディーノで発生した銃乱射事件の容疑者が所持するiPhoneのデータにFBIがアクセスできるようにするための特注ソフトを作らないことを決定した後、クックCEOは発言し、ソフトは世界中のどこでも、どのiPhoneを開示するためにでも、どこの政府にでも使われうると述べた。

最初は単独の決断だったが、24時間近く経ってから、グーグルのサンダー・チャイ(Sundar Pichai)CEOがツイッタ―で、顧客データのハッキングを可能にせよという政府の要請は「困った前例になりうる」とつぶやいた。

このことを公にするというアップルの決断は、当初、製品を直接顧客に販売するアップルのような会社と、ユーザーのデータを広告主に販売することで収益を上げるグーグルやフェイスブックのような企業との違いを際立たせることになった。

実際、クック氏の書簡はFBIその他の政府機関に宛てられたものではなく、アップル社の顧客に宛てたものだった。

「業界の多くの企業は実際、プライバシーに全く関心を払っていません。アップルは顧客の情報を他人に渡すことで金儲けをしない唯一の企業です。グーグルは情報を共有し、みんなが利用できるようにしようという会社です。文化としてプライバシーを保護するという方向にはありません」と、オンラインでの私的な会話を可能とするベンチャー企業、TunnelXの創業者CEOのエリック・リフティン(Eriv Liftin)氏は言う。

当初アップルは、TunnelXやプライバシー志向の小さな企業数社から支持を受けたが、業界の大企業からは目立った支援がなかった。グーグルはクック氏のコメントに支持を表明した最大の会社だが、ほかの大企業は今のところ沈黙を保っている。例えばフェイスブックはこのことに触れていない。

アップルへの支持を表明したサンフランシスコのアイデンティティ・マネジメント会社、OneLoginのデビッド・マイヤー(David Meyer)副社長は、「これは結局、会社がどうやって収益を上げているかという問題なのです」と述べる。フェイスブックの使命は、人々をつなぎ、データをシェアさせることで、グーグルの使命は世界の情報を組織化して、広告収入を得ることだ。これに対しアップルは、製品に業界で最も高い値を付けるが、広告のためにユーザーのデータを売り渡すことはしない。

「『金に従え』という古い格言があります。企業にはビジネスモデルがあります。フェイスブックやグーグルのビジネスモデルは明確で、プライバシーとはあまり相容れません」とマイヤー氏は指摘した。

グーグルやフェイスブックのような企業にとって危険なのは、多くのユーザーのプライバシー訴求がビジネスの障害となることだ、とリフティン氏は指摘する。「こうした企業は、プライバシー保護をあまり勧めたくはないのです。それこそは、ビジネスの依って立つところだからです」と同氏は言う。

しかし、アップルの書簡後、業界が声を潜めている間に、グーグルに次いで支持を表明する会社が現れ始めた。ブラウザソフトのファイヤフォックスを製造するモジラ社は、今週、クック氏に呼応して暗号化キャンペーンをスタートさせた。

「恐るべき犯罪の後、政策や先例を議論するのは難しい。しかし、アップルにセキュリティ保護の抜け道作りを依頼するのはやはりやり過ぎだ。このことは、今後の顧客のセキュリティを脅かす危険な前例となる。企業は製品のセキュリティを意欲的に強化すべきであって、弱めるべきではない。恐ろしい事件によって、暗号化のように普遍的で、インターネットに不可欠なものが左右されないように注意しなくてはならない」とモジラ・ファウンデーションのマーク・サーマン(Mark Surman)常任理事は声明で述べた。

業界はアップルを支持するが、どのように声を上げるかは慎重だ。「ロック解除や抜け道への要請、そしてそれがプライバシーやセキュリティに与える影響には、当社も重大な関心を持って見守っています」と、ソフトウェア監視団体のBSAのビクトリア・エスピネル(Victoria Espinel)CEOは言う。この団体には、マイクロソフトやセールスフォース、アドビといった主要IT企業が数多く会員となっている。また、フェイスブック社はまだアップルを支持する発言をしていないが、その子会社の一つは声を上げた。

「私は常にティム・クック氏と、彼のプライバシーに関するスタンス、アップルの顧客データ保護の努力を尊敬してきたし、今日の顧客への書簡に述べられていることに全面的に賛成だ。こうした危険な前例ができることを許してはならない。我々の自由と権利が、今日脅かされている」とWhatsApp社のジャン・コウム(Jan Koum)CEOは発言した。同社は、2014年に190億ドルでフェイスブック社が取得している。FB社の傘下企業ではあるが、WhatsApp社はこれまでのところ、広告の形で収益を上げることはしていない。

業界では、ユーザーデータへのアクセスを欲しがる政府を押し戻すには、アップルの表明は非常に必要なものだったとする専門家の指摘がある一方、現在のところ、シリコンバレー関係者の多くは、自分自身も受益者となるかもしれないにもかかわらず、この決断の重荷はアップルが単独で引き受けることを望んでいるようだ。

「アップルは政府とメディアの過酷なプレッシャーの下で、ユーザーを保護していると評価できる。この事件の意義は、サンバーナーディーノの射殺事件より大きい。FBIは共感を得られる事例を利用して、アップルのハードウェアに政府用の抜け道を作れと命じ、危険な法的前例を作ろうとしたということです」とある公的IT企業の社員は述べた。

*この記事は、米国版International Business Timesの記事を日本向けに抄訳したものです。(原文記事:Salvador Rodriguez記者「Silicon Valley Backs Apple On Privacy, So Why Are Google, Facebook, Microsoft Being So Quiet About It?」)